三章 友の為に

14.眠れない夜は


――……一ヶ月後。

冬が間近に迫り、ケリー領は慌ただしくなっていた。

その中、勇が訓練に限らず、冬備えの手伝いにまで自ら積極的に乗り出し、各地から頼りにされる様になっていた。

戦闘以外の事をしていると、それだけで気が紛れるからと言うのもあるが、少しでもケリー領に馴染むつもりになったからだった。

ケリーが騎士団の用で領主業から離れている間は、カトレアの手伝いや護衛に名乗りを上げた。

それ以外ではいつも通り訓練の手解きをしながら、ケリー邸がある街・ミモマの散策などに向かう。

声を掛けられた先で手伝う事があれば手を貸し、好意で渡された物品は丁重に礼を言って受け取った。

そんな良好な関係を築ける様になったのも、ひとえにカトレアの存在が大きかった。

内に溜め込んでいた不安を全て吐き出した夜に、カトレアが勇の前に現れたのは、以前から勇が悪夢にうなされているのを知っていたからだった。

と言うのも、カトレア自身が眠る時間が人より圧倒的に短いらしく、まだ辺りが暗い内に目を覚ましてしまうらしい。

そして、そのくらいになると、丁度、勇の叫び声が聞こえて来ていた。

それもその筈だ。カトレアの部屋と、勇が使っている部屋は数部屋離れた、向かいの場所なのだから。

カトレアが知っていた事を知らされ、勇は再び情けない思いをすると同時に、カトレアが早くに起きてしまう事を気にした。

自分の叫び声が原因なのではないかと。

しかし、カトレアは首を横に振った。

「私の睡眠時間が短いのは昔からです。イサム様の所為ではありません」

嘘を言ってない様子のカトレアを見て、安堵したが今度は疑問を思った。

「なら良いが……。そんなに早く起きて、朝まで何してるんだ?」

勇の疑問にカトレアは淡々と答える。

「何も」

「何も?」

「えぇ。何もしてません。ただ、窓から外を眺めてるだけです」

それを毎晩。想像するだに退屈な時間だ。

「本を読むなりしないのか? お前、好きだろ。本」

「はい。でも、燃料が勿体無いので」

「あぁ……」

倹約してるのだから、そりゃ毎晩の様に蝋燭を消費してられないよな……。

「いや、よくよく考えりゃ蝋燭を使わず本読めるぞ」

「それは……イサム様の世界での話ですか?」

「いや、そうじゃなくて」

カトレアの疑問を否定しながら、勇は手から魔法で火を出した。

「これなら読めるだろ」

周りの廊下の様子までくっきりと分かるくらいの火を目の当たりにして、カトレアは無言で驚いた。

その顔まではっきり見えて勇は慌てて火を蝋燭の火並みに小さくした。

「さ、流石に明るすぎたか……」

張り切って披露したみたいで勇は恥ずかしさに目を泳がす。

「……。読めますが……、それだと魔法の制御と魔力消費が厳しいです」

「無理か?」

「はい。騎士様達ならいざ知らず、私には難しいです」

カトレアの言葉を聞き、勇はうーんと唸る。

「騎士やら歩兵やらじゃないと魔法の使い方は、そう覚えられないものなのか……」

「学園に行っていたら分かりませんでしたが、

私は行っていないので最低限の使い方しか教わってません。

そうでなくとも、私は女ですので」

少し不本意そうに言うカトレアの声色を聞き、勇は聞く。

「俺が教えてやろうか?」

「え……」

思っても見なかった提案にカトレアは目を見張って驚く。

驚くカトレアの手元の蝋燭の火を勇は手で消し、自身が灯した火を少し大きく調整して行き先を照らした。

「こうやって魔法で火を操れる様になったら、燃料節約になって良いだろ?」

「それは、そうですが……」

ただでさえ勇は騎士団の訓練に気力も魔力も消費しているのに、

その上で更に自分まで教わるのはどうなのか……。とカトレアは思案した。

その不安を読み取った勇は言う。

「教えるのは俺が悪夢で起きた時に、って事にしないか」

更に驚く様な条件を加えられ、勇の真意が分からずカトレアは困惑する。

「何故、ですか?」

「俺も悪夢で起きた時は以降、寝れないんだ。だから、丁度良い気晴らしになるかと思ってな」

勇の気晴らし。

その言葉を聞いてカトレアは、すとんと提案を受け入れる気になった。

「……それでしたら、お願いしても宜しいでしょうか?」

「あぁ、良いぞ」

こうして勇が悪夢で目覚める夜はカトレアの部屋を訪ね、火の魔法を中心に教える様になった。

その過程で年が近い事もあって二人は友人関係を築く様になった。

その違いは明確にカトレアの態度に現れた。

元から気安く話していた勇と違い、敬意を払って話していたカトレアが、敬称なしで勇を呼び、カトレアらしい話し方をする様になったからだ。

時折、互いに説教しては言い合いになる風景が屋敷内で見られる様になり、ケリーを含めた侯爵邸の関係者たちは微笑ましく見守っていた。

そんな和気藹々とした時間が流れる中。

カトレアはケリーに呼び出され書斎に足を運んだ。

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