迷える子羊たちとデウス・エクストラ・マキナ

過言

1話 戦闘前、閑話と不具合 >>skip

「能力を一人一つ与えられて、区切られたフィールドの中でタイマン、ね。私の相手は君か。どっちかが死ぬまでやるらしいけど……正直、子供を殺すのは気が引ける」

「……あのさあお姉さん。そういうルールの説明も注意事項も、きちんと招待状に書いてあったはずだよ?その上で参加を選んだ。それってつまり、そういうことでしょ。僕はお姉さんのこと、ちゃんと殺せるよ」

「そう。私は君を殺したくないよ。殺したくないと思いながら殺す。……皆、そうするのかもしれないね。【傳説】」

「そんなふうに頭がおかしいのはお姉さんだけだと思うけどなぁ。でも、ここじゃ正常な方がすぐ死んじゃうのかもね。、この勝負は僕が勝つ。【直接】」



「ふむ。時に貴様、能力の説明はしっかりと読み込んだか?先程からずっと体術で立ち回っているが、限界というものがあるだろう」

「余計なお世話です。あなたこそ、さっきからずっと、能力に頼り過ぎですよ。運動不足なんですか?……演出を大事にするとかなんとか言ってた割に、技もワンパターンだし。……それに、能力、じゃなくて正式名称の『御布施』って呼んだほうが、雰囲気出ますよ」

「その呼び方は直感に反するだろう。気持ちが悪い。……本当に使い方がわからないのなら、ある程度は待ってやっても構わないが。このままではどうも、盛り上がりに欠ける」

「余計なお世話です。三度目はないですよ。二度目も、まあ、ないんですけど」



「観客にも、私達の声は聞こえるようだね。戦いの様子……映像も、どこからか中継されているらしい。……私には、関係のないことだが」

「…どっからでも、かかってこい!」

「……ハァ。おっさん、君はバカそうだねえ、……話しても仕方ないんだろうか」

「……かかってこないのか?」

「あのね、おっさん。今この会話は客に聞かれていなければ見られてもいない、そういう風に私がした、その事を念頭に置いて貰いたいんだが。いや別に、置かなくてもいいけれど。……私はね、この大会の主催者、『カミ』を殺しに来たんだよ」

「……あ?……あぁ??………どういうことだ??あ〜……説明、してくれないか?」

「わからないことをわからないとハッキリ言えるその姿勢は良いね。素直さに免じて話してあげようか。とりあえず、武装は解いていい、今のところは。……後で殺し合うことには、なるけれど」



「この『御布施』は一対一の戦闘向きではない と言うのが、正直なところだ」

「へえ〜。大変なんだね!うちのはバリバリ戦闘向きだよ!【白妙】、ほら、こうやって布を……」

「これが存在する理由を考える必要がある。元から一対一の戦闘だけをさせるつもりであれば、そもそも発想に無いだろうと思うんだよ カミの考えていることなんて皆目見当も付かないが、作成中のどこかで方針転換があったのかもしれない」

「あんま難しいこと言われてもわからないんですけど!もう攻撃していい?うちさっさとあんたのこと殺してさ、賞品の『元通り』、欲しいんだよね!」

「『元通り』……全参加者の賞品は共通、なるほど。なら私の身に起こったようなことは、他の参加者に起きていてもおかしくない、と ああそうだ、わからないようだから言っておく。キミは今ワタシの厚意でそこに立っている 一対一向きではないと言ったのは、『御布施』がいわゆる即死攻撃だからだ」



「お姉さん、ジンジャ、って知ってる?昔この辺にあったはずなんだけど、いつの間にかなくなっててさ。……色んな人に聞いても、そんなの知らないって」

「それを私に聞いてどうする気っスか。仮に私が知ってても、もう意味ないっスよ。どうせ私かお前のどっちかの気まぐれで、今すぐにでも殺し合いが始まるんスから。そしてお前は死ぬんス、クソガキ」

「それなんだけどさ。僕は死にたくないし、お姉さんのことも殺したくない。招待状貰ってからずっとその方法を考えてたんだけど……まだ思いついてないんだよね。だからそうして、大人しくしてて欲しくて」

「……やっぱ、私が動けないのはお前の『御布施』のせいっスか」

「あれ、意外。お姉さん、正式名称にこだわるタイプなの?」

「うるせえな!!カミ様の名付けられた名称だぞッ!!本当は口に出すのだって畏れ多いんだッ!!……フーッ……フーッ…、あんま生意気なこと言うなら、今すぐ殺してやってもいいんスよ」

「……ごっ…ごめん、気に触ったなら謝る。……えと、それともう一つ、気になったことがあるんだけど……お姉さん、……凄い服着てるね……。」

「……」

「お姉さん……?」

「あああああああああああ!!!!!!!!!」

「うわぁっ!?…………ああミスった!参加者の服装って、確か……」

「ああああああお前ごときがカミ様のファッションセンスにケチを付けてんじゃねえよ何様のつもりだ!?!?!?死にてえのか死にてえんだな死なせてやるよ!!!!もう駄目だお前はもう許さねえ神社の事を思い出してることも含めて!!!!!!!カミ様の御業に逆らいやがって、お前は私がぶっ殺すッ!!!喰らえ【激突】ッ!!!」



「[ジャミゴッド]起動……あ〜、……お嬢ちゃん。……構え、解いてくれるかな。俺に敵対の意思はない」

「……誰が、信用するですか」

「信用しなくてもいい、話だけでも聞いてほしいんだ。あのな、俺はここに、殺し合いをしに来たわけじゃない。『元通り』を望んでる訳じゃない、いや望んではいるが、自分でなんとかする。もっと言うなら俺は、正式な招待状を貰ってない。……だからまあ、侵入者なんだ」

「……そんなことして、あんたに何の得があるって言うんです」

「俺?……俺には別に得はないな、やっすい報酬が振り込まれるだけだよ。つまり、仕事だ」

「仕事……?仕事で、能力を与えられて一対一で殺し合う大会に侵入して、……何、するですか??」

「殺し合いを止める」

「……!……そんなこと、できるですか?」

「う〜ん、正直成功するかはわからんが、できるまでやるつもりだな。できなかったら食いっぱぐれるし」

「……………その……」

「ん」

「私も……協力させて……欲しいです……!」

「お、……マジ?……つってもな……危険なヤツは俺がやるとして……そうだな、じゃあとりあえず、戦うフリ、しといてくれよ。今から俺、隠れてやらなきゃいけないことがあるんだ。今の俺達の会話は……音は遮断してるんだが、見えてはいる。流石に参加者いなくなったらバレるだろって事だ。……えー、なんだっけ……そうだ、【分数】」

「……分身……これと戦っとけって事ですか。了解です」

「おう、んじゃ俺ハッキング始めるから、よろしく。あー、対人・対神神学的迷彩[カミカクシ]起動、[ターミナル]起動」

『職員情報を確認します。…声紋一致、精神核同一性95%を超過。ロック100%解除』

「……よろしく頼むぜ、お嬢ちゃん」

「任せてです。ああそうだ、私こんな見た目だけどもう26なので、お嬢ちゃんはやめてほしいです」

「…………………………年上じゃん………………」



「おい、聞け!聞けって!」

「【斬斬】、【斬斬】、【斬斬】……!」

「うわっ!ちょっ…!ちょっとぐらい、話しようぜ……っと!あっぶねえ、……観客もほら、結構会話を楽しみにしてるヤツいるっぽいし……うぎゃっ!」

「……ようやく、食らったわね……っ!?」

「……あ?……あー、お前のそれ、能力ダメージなのか。じゃあ避けなくてもいいや、攻撃しながらでいいから、聞いてくれ」

「【斬斬】、【斬斬】、【斬斬】、……!」

「……気は済んだか?」

「【斬斬】【斬斬】【斬斬】……」

「済んでなかったか。……もういいや、話すぞ。さっきな。『試合が終わった上で、二人共死んでない』奴らを見かけた」

「……!?……なっ……」

「どういう事かわかるか?殺し合いのハズなのに死んでない。どっちも死なないで試合を終わらせる方法が、少なくともあるって事だ」

「……そんな、都合の良い話があるわけ……」

「いや別に、都合が良いってわけでもねえけどな。どっちの勝ちなのかわかんねえし。どっちも失格になっただけかもしれない。もちろん失格になったら、『元通り』は受け取れない。……でも。試す価値は、あると思わないか?」

「……思わない。私は『元通り』にならなきゃいけない……あなたを殺してでも」

「そこなんだよなあ。なんか皆、殺しのハードル低くねえ?あたしはそこまでして『元通り』になんかしたくねえよ」

「はあ?ならあなた、どうしてここにいるのよ」

「……招待状、あんま細かく読んでなくて。まさか最低一人は殺さないといけないなんて思わなかったんだよ。字ちっちゃかったし」

「…………」

「絶句すんな。傷つくだろ」

「……ありえないわ……」

「傷つくだろ。体は無傷なのに」

「それッ……それ、どういう事なのよ、さっきからずっと!!」

「わざわざ言わねえよ。予想つくだろ、大体。……んで、もうちょっと補足があってな。どういうわけか、その、生き延びた二人組は、あたし以外には見えてねえみたいなんだ」

「……はあ?……どういう事よ?……全然わかんない、全然……」

「あたしにもさっぱり。そいつら、結構デカい声で話してたのに、誰も気付いてねえみたいだったし。なんだっけ、確かセキュリティホールがどうとか……」




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