〈8話〉この先


「リーシェ様は俺の事についてどこまで知ってるんですか?」


「君があのじいさんの使いだってことと、別の世界から来た人間だってことかな」


「リーシェ様は神様と知り合いなんですか?」


「神様か。まあ、そうだね。仲良しってわけじゃないけど、たまに連絡を取る程度だよ。別の世界から人間を送るからその手助けをして欲しいって言われてるの」


神と連絡が取れる存在が世界で活動して良いのだろうか。


「魔王になれば神様と繋がれるんですか?」


「そうでも無い。神と話すことが許させてるのはハルテナにおいては原則魔王序列2位までという決まりになってる。そもそも神の存在は公にされていないしね。私はちょっと特殊なルートで5位の身分で神様と繋がれたけど、普通は無理かな」


「昨日は隠していましたが、神様からは元いた世界を救えと言われてます」


隠しておこうと思っていたが、思い切って言ってみることにした。


一か八かだが、神様と繋がりのあるリーシェであれば、俺の元いた世界が滅んだこともおそらく知っているのではないかと予想した。


「なるほど、君の目的はそれか。いや、正確に言えば、朝霧ユキの救済でしょ?」


やはりこの魔王は詳しい事情を知っている。


しかし分からないこともある。


「その名前はどこで知ったんですか?神様から?」


「まあそんなところかな」


「世界を救うことは、彼女を救うことになると言われたんですが、その繋がりが分かりません」


「それを探すために君はこれから旅に出るんだよ」


旅に出ることは確定しているらしい。


事情を知る魔王であるリーシェがそう言うのであればそうした方が良いのだろう。


「ひとつ忠告。別に脅かすつもりとかないから怖がる必要はないけどさ、あのじいさんや私の言っていることが全て真実とは限らない。誰が味方で何をするべきなのか、それは君が真実にたどり着いた時に自分で選ぶ必要がある」


その通りなのだろう。


この話をしてからのリーシェは、わざと白々しく話していた箇所がいくつかあった。


嘘をついていると、教えてくれているような気がした。


「分かりました。旅をするのは良いんですけど、神様が言ってたタイムリミットっていうのが気になります」


「ああ、確かにそれはある。でもすまないけど、正確な期限は定まっていないんだ。言えることとすれば、この世界で起きている事については詳しく情報を集めて、何か大きな出来事が起こった時に現場に向かってその場を変えられるようになっている必要がある。そういった類の期限であればこの先沢山あると思うよ」


リーシェの話はあまりパッとしない感じがしたが、要するに長期的な目標に備えるのではなく、短期的に起こる事象に関与出来るように強くなる必要があるということだ。


リーシェはひとまず満足したようで、ずっともちもちに興味を持って目で追いかけていたロアに飲み物のおかわりを頼んだ。


「情報については私も君に色々と提供する予定ではあるけど、まずは旅が出来るように君を強くしないといけない。だからこれから2年間、君はここで魔術と戦闘についてロアから指導を受けてもらう」


「2年ですか!?」


稽古をつけてもらえると先程聞いていたが、2年という期間に思わず声が出た。


「2年もここにいて時間的に大丈夫なんですか?」


「大丈夫。というか、そもそもこの世界を回るには君は弱すぎるから、2年間一日中稽古をつけても足りないくらいだよ」


「俺ってそんなに弱いんですか?」


「ローバルの人間の中でも下の下くらいかな」


確かに、魔術が蔓延るこの世界で、筋トレだけしていたような人間の地位などたかが知れている。


「というか、稽古場ロアさんがつけてくれるんですね」


「私は色々と忙しいから、今日からこのログハウスでロアとアキくんのふたりで生活しながら多くを教わると良いよ。ロアは強いから安心して」


美女との同棲による嬉しさよりも、確実に嫌われているであろう相手との生活に不安が募った。


その後すぐにリーシェはおかわりした飲み物と軽いお菓子を食べてから席を立った。


「じゃあ、また近いうちに様子を見に来るよ」


「はい。色々とありがとうございました」


「気にしないで。ロアも頼んだよ」


「お任せを。リーシェ様もどうかお気をつけて」


リーシェと離れることになったロアは悲しそうにしていた。


余程リーシェの事を慕っているのだろう。


しかしそんな悲しげな顔のロアはリーシェが居なくなった途端に態度を変えた。


「とりあえず、風呂を沸かせ」


「はい?」


「私が風呂に入るから、沸かせって言ってんの」


やっと落ち着いたと思ったが、これからの生活の未来に対する不安も増大し、それが伝わったのか分からないがもちもちは俺の頭に乗り、小さな手で俺の前髪をそっと撫でた。



──────



アキと別れたリーシェはある男の元へ向かった。


神と名乗るおじさんはいつもと同じ、椅子のみが置かれ他には何も無い空間でサングラスをかけてタバコをふかしていた。


「やあ、竜也さん。アキくんは安全なところに匿ったよ」


「それは良かった。これで当分は大丈夫だろう」


「竜也さんが自分を神だなんて嘘をつくし、ザリアの部屋に転生させたりするから話がややこしくなったよ」


「苦労をかけてすまない」


「匿う期間はとりあえず2年ぐらいで良いんでしょ?」


「ああ、そのぐらいであれば奴らからも存在を隠せるだろう」


「アキくんに懐いてるあの白いのは何?すごくもちもちしてたけど、竜也さんが渡したんじゃないかって私は推測してるんだけど」


「なんでそう思うんだ?」


「だってあのもちもちからは、『白の遺骸』の匂いがしたから。匿いたいのはアキくんというより、そっちじゃないの?」


「リーシェさんは鋭くて敵わないな。しかしすまんがそれについて私から言えることは今はまだない」


「さすが、地球の『守人』はガードが硬いね」


「499回の滅びを止められなかった約立たずだよ」


「人間の寿命は短い。竜也さんが経験したのは10回にも満たないんだから、そう自分を卑下することはないよ。それに、次は確実にこの連鎖を終わらせる。神との契約を」


「もちろんだ」

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