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福島がこの運営管理グループにやって来てから、俺とM子との関係に変化が生じた。
「サカウエさんは福島さんの復職プログラムの管理をお願いします。今後は私がM子さんの面倒を見ます」と戸塚は言った。予期していた事態だが、改めて耳にしても納得がいかない。
「今日まで私とマンツーマンで仕事をしてきたので、M子さんはもう独り立ちでいいのでは?」と進言をしたが、戸塚は俺の意見を全く聞き入れようとはしなかった。
その日を境にして、M子は戸塚と行動をともにした。俺の時と同じように、昼食も戸塚と一緒に食堂へ向かった。
どこからともなく「飼い主が変わった」と揶揄する声が耳に届けられるが、それは真実なのだから否定のしようがない。
俺は福島の面倒を見るので、手一杯になった。
ダメ社員とは聞いていたが、仕事に対する取組み方は真面目そのものだった。ただ残念だったのは教えられたとおりに業務を遂行できないのと、いつも思い付きで行動を起こすことだった。
先日も部署で導入した3Dプリンタの定期清掃を頼んだ結果、メンテナンスマニュアルの内容を無視して異常操作を行い、プリンタヘッドを見事に破損させた。その修理には一ヶ月半を要し、戸塚からは「きちんと彼を見張って下さい」と苦言を呈された。
当の本人は「すみません……ゲホッ……こちらのほうが早く、ゴホッ、掃除が終わると思って、ゲホッ、ゲホッ……」といつもの体調が悪いアピールに逃げ込んで、全く要を得ない。俺のフラストレーションは溜まる一方だった。
更に俺のフラストレーションを増加させたのは、場の空気を読まない福島の発言の数々だ。
本人に悪気はないのかもしれない。だが知ったかぶりや見当違い、話の流れを阻害する発言を連発してその場の雰囲気をしらけさせる場面が度々あった。
おまけに自分の意見を言う際は、興奮して声のボリュームがふたメモリほど増しやがる。バカでかい声で要らぬ発言をされるこちらとしては、たまったものじゃない。
「M子さんは、な、なんでいつも長袖なんですか?」
いつものグループミーティングが終わりかけたころ、福島のその不用意な発言が、一瞬でその場を凍りつかせた。
衣替えの時期を過ぎてそろそろ本格的な夏を迎えるというのに、M子がずっと長袖を着続けていたのは、俺もとっくに気付いていた。
戸塚の口元が僅かに歪むのが見えた。
M子はキョトンとした表情のままだ。
「腕に、ゲホッ……タ、タトゥーが入っているとかじゃ」
「おい! いいかげんにしろ!」
声を荒げた。俺の怒号がフロアに響き渡る。周囲から俺に向けられた視線が痛いが、M子を守るためなのだから仕方がない。
怒鳴られた福島は一発でしゅん、と静かになった。
戸塚の前で声を荒げたのは初めてのことかもしれない。彼は驚いて目を丸くしていた。
M子はキョトンとした表情を変えないでいた。彼女が一番、強心臓の持ち主なのかもしれない。
この出来事があってからというもの、福島は話をする際に俺と目線を合わせなくなった。それは一向に構わないのだが、空気を読まない発言は相変わらず繰り返されたので、俺のフラストレーションは爆発寸前だった。
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