第8話 道長のこれからー目標の確立ー

「.......ここまでですね。俺の記憶は。それ以降は意識がなくて、漆奈が言ってたように暴走してたと思います」

「そう,,,,,,なのね。壮絶な経験をしたのね。とにかく話してくれてありがとう」

道長の過去語りの締めに姫色はそう返した。


「道長の故郷と仲間を襲った奴らの中に”逆さ傘の耳飾りの男”がいた。,,,,,なんとも奇妙な一致ね。澪が過去に遭った事故にもそいつがいたの」

「そうなんですか!そいつはそんな昔から目撃情報が」

怪訝な顔で話す姫色に道長はそう返した。


「今はこれくらいの情報しかないし、”逆さ傘の耳飾りの男”について考えるのは無駄だと思うわ。もっと情報を集めないと」

「,,,,,,,,そう,,,,,,ですね」

道長はそう言って、俯いた。


「道長。人生は別ればかりだけど、だからこそ、思い出を大切にできるし、新しい出会いの喜びを噛みしめることもできる。仲間たちはいなくはなったけど、今のあんたは一人?漆奈に澪、私っていう新たな仲間がいる。しばらくは私たちとの生活も満喫してみない?」

「え?俺も,,,,,,,あなたたちの仲間ですか?」

「ええ」

呆けた表情の道長の問いかけに姫色は微笑んで答えた。その言葉に道長の中に熱いものがこみ上げてきた。


「それに、あんたの仲間も完全に死んだって決まったわけじゃない」

「え?俺の仲間は,,,,,,生き返るかもしれないってことですか?」

姫色の言葉に道長は神にも縋る思いで質問した。


「生き返るというとちょっと語弊があるわね。恐らく、あんたの仲間は彼岸獣の因子に感染して、彼岸獣のハーフになっているの。あんたは自我を持っているけど、基本的にはハーフは感染すると、外的影響がない限り、理性を失ったままよ。裏を返せば、外的影響を加えれば、完全に彼岸獣の因子に侵食されてなければ、元に戻せるわ」

「なるほど。その外的影響って?」

「ええ、それは漆奈の「エントロピーバースト」ね。あんたが暴走してる時に漆奈があんたの暴走を止めるために放った技よ」

「ああ、俺ってそれで元に戻ったのか」

「ええ。「エントロピーバースト」は着弾した対象を分解する性質があってね。それであんたの彼岸獣の因子を分解して元に戻したわけ、その要領であんたの仲間も元に戻そうってわけ」

「なるほど」

姫色の意見に道長は頷いた。しかし、同時に疑問も浮かんだ。


「しかし、なら何故、俺は漆奈の「エントロピーバースト」を喰らったのにまだ彼岸獣の因子が残っているんでしょう?」

その疑問に姫色が答える。


「ああ、それに関しては、彼岸獣の因子が残っているのはあんたに限った話じゃないのよ。まあ、あんたに関しては2つの彼岸獣の因子を持っている割とイレギュラーな事例なのと,,,,,いや、もう片方は彼岸獣か何かも不明の”何か”なのよ。後、あんたは思った以上に2つの因子に馴染んでいるからってのもあって「エントロピーバースト」を喰らっても完全に分解できなかったようね。大概のハーフは因子を取り除かれると、元に戻るからあんたみたいな能力は残らないはずなのよ。残るにしてもあんたみたいな明確に形を残して残ることはない」

「なるほど。俺は完全に人間に戻ったわけではないんですね」

道長は頷くと、決意を決めた顔になった。


「目標がまた一つ増えたわね」

「そうですね。俺の目標は2つできました。1つ目は俺の仲間を元に戻すこと。2つ目は俺の身体を元に戻すこと。これが現時点の俺の目標です。この2つが果たされるまでよろしくお願いします」

「ええ、歓迎するわ。道長」

この言葉と共に二人は握手した。



ー道長は一度、大きなものを失った。そして、薄いガラスの上で成り立っていた幸福の上にいた道長の心は高く落ちた。しかし、姫色、漆奈、澪という新たな仲間という”受け皿”に受け止められ、新たな幸福を手にした。道長は落ちた分の反発を受けて、これからを生きる。ー

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