28話 王都へ 2/2

<車内アナウンス>

――ランディングシークエンス開始。225403レーンに合流します――


<シャトレ>

「体勢気をつけてね」


<シリウス>

「何でですか?」


<車内アナウンス>

――重力流捕捉。突入まで三、二、一、――


背中が引っ張られるような感覚に襲われる。もしかして車が垂直になってる!

窓を見ると、景色が段々斜めになって地平線が縦に見えた。


<シャトレ>

「びっくりした?ここAICLアイシールは筒状なんだ」


彼は手を僕に向けると、首都のミニチュアが映し出された。

円筒の外側はさっき見た幾何学模様が幾層にも上に積み重なっており、彼が円筒の外側をめくると、内側にぎっしりと建物が立ち並んでいるのが見える。


<シリウス>

「スペースコロニーみたい」


<シャトレ>

「そう!この首都はスペースコロニーを地上で再現しているのさ。さっき見てた白い壁は外壁で内側の壁に建物が建ってる構造をしてる。重力場が下じゃなくて横にあるからみんなこうやって一度垂直になる必要があるのさ」


彼が手を閉じるとホログラムが消えていった。

やっぱりこの感じどこかで見た事がある気がする。


<シャトレ>

「下を見てごらん」


真下を見ると一隻の漁船が停まっている


船は海上を離れ、宙に浮き、次第に船の角度を変えて垂直になった。

船は僕らの車と同じように垂直に上昇していく。


<シャトレ>

「アイシール名物、水空両用船さ。今から行く所はウェズカークって言ってね、首都交易の要。車、飛行機、船、電車といった乗り物だけじゃなく世界中からありとあらゆる物質、食糧が行き交う場所でさ!一度市場にでも行ってみるといいよ!食べ物かどうかも怪しい生物がいっぱい………………って捕虜だったよね………」


ハイテンションだった彼のトーンが絞んでいくのと同時に、僕の不安な心が体を深く脈動させていた。


<車内アナウンス>

――まもなくウェズカークに到着します――




第一層 総合交易港 ウェズカーク 検問所


外を見ると駅のホームのようなものが横に地平線?の先まで続いており、そこに様々な乗り物が並んでいるのが見える。


<シャトレ>

「検問終わりそう?パレ?」


横たわっているシャトレさんはどうやら動けないようで、外の様子を見ることができない。


<パレ・リブッカー>

「あと少しだそうだ」


<シャトレ>

「長くない?毎回思うんだけどこの二段階検問いる?海岸で一回ここで一回」


<シリウス>

「二回?」


<シャトレ>

「君は寝ていたから分からなかったと思うけど、海岸にビルがいっぱい立ってたでしょ。あそこが第一検問」


<パレ・リブッカー>

「魔王軍や”モリタミ”からの襲撃に備えてだからな」


<シリウス>

「僕達はそんな事しない」


<パレ・リブッカー>

「そうか?奴らは我々の生活を脅かす存在だと思うが」


<シリウス>

「お前は何も知らないくせに」


僕と奴は互いの目を見合わせ、視線を決して外す事はしなかった。車内にピリついた空気が流れる。


<連盟軍兵士>

「検問これにて終了です、お疲れ様でした」


車窓を覗き、僕達に微笑みかける連盟軍の兵士。

よく見ると軍服では無く袈裟を着ており見るからにお坊さんのそれであった。


<シャトレ>

「おっ今日の検問は10番隊か。お疲れ様、秋楽」


     連盟軍 10番隊 副隊長 

     Bランク魔術師 三善みよし秋楽しゅうらく


<三善秋楽>

「シャトレ殿、リブッカー殿お疲れ様でした」


<シャトレ>

「久しぶり〜秋楽、安美門あみかど殿は?」


<三善秋楽>

「相も変わらずどこかへ行っておられます」


<パレ・リブッカー>

「秋楽、お前が言わないなら私から軍に言ってやろうか」


<三善秋楽>

「ははは、あの方は奔放であれどやる時はやるお方でございますから。それに事務仕事も悪くはありませんよ」


<シャトレ>

「そうやって甘やかすからダメなんじゃないの?」


<パレ・リブッカー>

「やっぱり言っておいた方がいいんじゃないか?」


互いに世間話をしていると、お坊さんは僕の方に目を合わせ、懐から白い棒付きキャンディを取り出した。


<三善秋楽>

「そこの白い髪の方、もしよかったらこれを」


<シリウス>

「ありがとうございます」


<シャトレ>

「あっ高級なやつ!」


手は拘束されているけど、棒を手に持ち口に運ぶくらいはできる。

でも、これ……………毒とかだったらどうしよう。

捕虜の自分に食べ物を差し出すなんて絶対罠に決まってる。


不安そうな僕の顔を察したのか、お坊さんは柔やかに微笑んでいる。

シャトレさんとは違った笑顔。その温かさを信じて思いきって一舐めした。


<シリウス>

「美味しい………」


<三善秋楽>

「捕虜であれ、誰であれ人間には変わりません。飴玉一つで笑顔になる、小さな幸せの積み重ねが人生を豊かにするのです。ようこそAICLアイシールへ。他の方は色々仰ると思いますが、私は歓迎しますよ」


<パレ・リブッカー>

「甘いな」


<三善秋楽>

「これまた手厳しい」


<シャトレ>

「その飴出した技って噂に聞く”陰陽道”?」


<三善秋楽>

「いえ、ただの説法にて」


検問が終わり、僕達は車から出た。動けないシャトレさんは軍の人が用意した担架で運ばれる事となった。


<シャトレ>

「ねえパレ、今回の報酬として僕が回復したらご飯でも行かない?」


<パレ・リブッカー>

「行ってもいいが、悪いな、当分は先約がいる」


<シャトレ>

「当分?」


奴が振り返ると僕の方へまっすぐと指を指した。


<パレ・リブッカー>

「こいつだ」


<シリウス>

「僕!?」


<シャトレ>

「まじで」


<パレ・リブッカー>

「王命だ、こいつと王都観光をしろってな」


どういうことだ!?

僕とこいつが……………一緒に……………観光??????

なぜ?僕を捕まえるんじゃなかったのか?

王命?何を考えているんだ…………

でも嫌だぞ。絶っっっっ対に行かない!行きたくない!!!


<シャトレ>

「え、大丈夫?パレには荷が重いんじゃない?説明苦手じゃない?仲良く会話できる?」


<パレ・リブッカー>

「余計なお世話だ。食事は、またいつかな」


<シャトレ>

「いつか絶対だからね〜!」


僕の思考も定まらぬまま、シャトレさんはそのまま運ばれていった。

そして残された二人。


<シリウス>

「なんでこいつと行かなきゃ行けないんだよ!」


拘束具を必死に引きちぎろうとすると、奴がまた手に持っているボタンを押した。

僕は力を抜かれ、そのまま床に倒れ込んだ。

膝を付きながら何とか立ち上がろうとする。


<パレ・リブッカー>

「お前は懲りないな」


<シリウス>

「こいつめ」


<パレ・リブッカー>

「こいつ呼ばわりされるのも心外だな」


<シリウス>

「僕だってお前呼ばわりされるのは心外だ」


<パレ・リブッカー>

「……………なら名乗り合うっていうのが筋じゃないか」


<シリウス>

「じゃあ先名乗ってどうぞ」


<パレ・リブッカー>

「いや、先に名乗れ」


…………………………


<パレ・リブッカー/シリウス>

「私は」「僕は」


………………………………………


<パレ・リブッカー>

「じゃあ先に言わせてもらおうか」


<シリウス>

「どうぞ」


<パレ・リブッカー>

「私の名前はパレ・リブッカーという」


<シリウス>

「僕の名前はシリウス」


<パレ・リブッカー>

「よろしく。シリウス」


<シリウス>

「フン」


僕は顔を逸らして彼女を見ない。


次回は11/26になります!


☆いっしょに!なになに~☆


Hood フッド


英名:Hold Order Diffusion

対魔術師用の拘束具。

捕らえた者の魔力を拡散させ、魔力を減少させると共に体力を奪う。その力はAランク魔術師ですら抗うことは難しい。

拘束力は自由に設定でき、手足を自由にさせる事も可能。自由状態での行動範囲は半径1メートル圏内から100メートルまで広げられるが、最大範囲を越えようとすると強制的に魔力と体力を奪う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る