第52話 魔王と勇者 記憶(過去) 

 「は?」

 ルルンを始め、皆、呆気にとられた。僕はかまわず話を続けた。


 「ケルベロスは、親ケルベロスを盾にされて、強制的に命令を聞かなければならない魔法と忘却の薬を飲まされて、仕方なく人間を襲ってたんだ」

 僕はルルンたちへ説明を始めた。


 「ケルベロスは男によって操られてました。それがこちらの男です」

サウスさんに、後ろ手を拘束されて連れてこられた。

 「この男は?」

 ルルンの後ろから前へ出てきたのは、以前リール村へ招待されてきた騎士団団長さんだった。


 「この男は見覚えがあります。二年前に辺境の村ダンジョン地下で、眠気と忘却作用がある白い花を採取しようとしたことがあって、要注意人物としてダンジョン使用禁止になった者です」

 医師から説明し、注意したのに反省の色がなかったので、ダンジョンの使用を禁止した。無断採取に薬草の転売。要注意人物として騎士団へ報告していた。すぐに身元がわかるだろう。


 「第一級の強さの魔物を強制魔法と薬物で人を襲わせるなんて重罪だ。引き渡してもらって、男から詳しく話を聞こう」

サウスさんから男を団長さんへ引き渡した。

 「ケルベロスをどうやっておとなしくさせたのか。聞きたい」

 団長さんは鋭い目で僕に聞いた。


 「ケルベロスは、僕がテイム手懐けました」

「は?」「え!」「うそだろ!?」

 

 僕がそう言うと、みんなが驚いていた。だろうな……と思ったけれど、嘘は言ってない。


 「なので。もうおとなしくなりましたし、帰ってもらいました」

にっこりと笑っていうと口を開けたまま、僕を見ていた。


 「そ……、そうか! 住人に被害はなかったし、感謝する!」

ざわざわしたけれど、団長さんのお礼の言葉に皆、納得したようだ。

 「では、我々は事件の首謀者を連行するので失礼する。マオ君、ありがとう!」

 団長さんはニッ! と微笑んで騎士団と、男を連行していった。


 林の間の広い場所に僕達、ミレーヌとサウスさん。ルルンとジーンだけが残った。町の自警団の人達や騎士団の人が去ると静けさを感じた。

 「マオ、ケルベロスをテイムできたってすごいじゃない! いつの間にそんな高レベルのテイムが出来るようになったの?」

 ルルンがニコニコ笑って話しかけてきた。

「前に、出来るようになったんだ」

「そうなんだ!」 

 

勇者 ルルンと騎士のジーン。

 

 「そういえば俺、正式に騎士になれてルルンのパーティに入ったんだ。勇者パーティの一員で冒険できるなんて嬉しくてさ!」

 ジーンは本当に嬉しそうに、僕へ話しをしてくれた。


 「マオは宿屋とか、王都まで時々評判が届いているよ! ベルのエディブルフラワーのサラダは、貴族のお土産に喜ばれているって聞いた!」

 「本当? 嬉しい」

 

 こうやって向かい合って話をしていると、何かを思い出しそうだ……。

「マオ?」

 僕の様子がおかしいことに気が付いた二人は、心配して顔を覗き込んできた。……まただ。知らない記憶が次々と浮かび上がってくる。



 

 ――転生一回目の、記憶。

 

村や街を破壊しまくって、は勇者 ルルン率いるパーティと対峙していた。

 なぜ俺が、人間どもの村や街を破壊しまくったのか。


 初めに人間が魔物を遊び娯楽として、狩り始めたからだ。子供さえも弱い魔物を枝で叩き、傷をつけた。親を亡くした魔物や子を亡くした魔物。こちらから襲わないのに、魔物というだけで危険とみなされて排除される。だんだん魔物の数が減っていく。

 

 ダンジョンの奥深く住む魔物の、テリトリー内まで入り込んで金銀財宝を盗んでいく人間。たまらず俺は人間に、宣戦布告をした。……できれば話し合いで線引きを決めたかったが、拒否された。争いは避けたかったのが本音だった。


 勇者パーティと魔王の戦いは互角だった。これ以上戦いが長引けば、勇者パーティの誰かが犠牲になる。お互いに傷だらけ。疲労もピークだった。

『勇者 ルルン。俺は取引……で、ないな。協定を結びたい』

 汗まみれで荒い息を吐いている勇者が、剣を構えながら俺を驚いた表情で見た。


 『協定、ですって? どういう、つもり?』

勇者 ルルンは、息切れしながら質問してきた。無理もない。人間の村や街を破壊してきた魔王からの協定なんて、受け入れられないだろう。


『人間のテリトリーと魔物のテリトリーをお互いに侵さない、というものだ』

『えっ!?』

 勇者と勇者パーティの仲間は、呆気に取られていた。魔王を倒す気でここへ来たから無理もない。


魔王は魔族の王として、魔物たちを守るために来た。人間たちが魔族こちらに危害を加えてくるので報復しただけだ』

 俺がそう言うと、勇者は剣を強く握ったのが見えた。

『だがそれではお互いに、安心して暮らせない』


 勇者パーティの者たちはお互いに顔を見合わせて、話し合いをしだした。罠じゃないか? 隙を見せて仕掛けてくるのではないか? 等、聞こえてきた。俺は人間より聴力がいい。

『そちらの条件は、なんだ?』

 話し終わったのか、勇者が条件を聞いてきた。


『お互いのテリトリーに入って来ないこと。一方的に魔物・魔族だからと言って攻撃されるのは公平でない』

 俺はまっすぐに勇者を見た。ただ一つの願い。


『最近の人間側の、魔物へのひどい攻撃等の報告は聞いている。……私も何とかしなくてはと思っていた』

 勇者の後ろから慎重に話し合いをしろ、という声が聞こえた。


『勇者もルルンになって、ただ魔物を討伐するだけではなく……何とか共存できないかと考えていた』

『ルルン!』

『勇者!?』『それもかな?』

 

 パーティとは混乱していた。今代の勇者は話が通じそうだ。

『だまされるな! そんな都合の良い、話なんてない! なにか企んでいるぞ、気をつけろ!』

 パーティの魔法使いが反対意見を言った。激しく警戒をしていた。集中して魔力を集めてる。魔法を放つつもりだ。

 

 『無駄だ』

俺は魔法を使おうとした、魔法使いのを手刀で落とした。カランカラン……と杖が地面に落ちた音が響いた。

『あ……、あ……』

『よせ! 手を出すな』

勇者は仲間を制した。再び俺を見て話しかけてきた。


『何が欲しい?』

 勇者は俺が何を欲してるのか、理解したようだ。

『王の許可が欲しい』

 続けていった。

『魔族・魔物に対する領域進入禁止。および、むやみに危害を加えないこと。ただし、各ダンジョンによって違いがあり』


 『王の許可、ですか……』

勇者 ルルンは考え込んだ。

 

魔王の命が欲しいなら、くれてやる。すきにするがいい』

 

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