二章

第32話 念願の!


 「ベル! エディブルフラワーサラダの売れ行きはどう?」

幼馴染のベルの、ベジタブルショップへ様子を見に行った。邪魔にならないように裏側から入った。


 「マオ! 順調と言うか、お店に並べるのが間に合わないくらい売れているわ」

 ベルは額の汗を拭いながら返事をした。従業員も増えて立派な店長さんだ。


 スイートバイオレットの花入りの綺麗な、食べられる花のサラダは村の中でも冒険者の間でも人気が出た。今も店頭ではお客さんが並んでいた。


 ベルは丁寧に、素早くエディブルフラワー入りのサラダを作っていた。

 「手伝うことがあったら言ってね、ベル」

猫の手も借りたい忙しそうなベルに言った。すると、ちょうどいい手伝いが! という顔をして返事をした。

 「追加でエディブルフラワーを持って来て欲しいの! 今すぐ」

 両手を合わせて「お願い!」と言った。


「そうだろうと思って、摘んできたよ」

持っていた、かごの中にスイートバイオレットの花がたくさん入っていた。それを見たベルは、ありがとう! と言って、かごを受け取った。

 「毎回助かるわ!」

 ベルはそう言って、スイートバイオレットの花を中から出した。


 片方一つに緩やかに結んだ、おさげは肩よりも長くなった。飾りのないお店の名前入りのエプロンや、髪の毛が落ちないための帽子も今では見慣れた姿だ。


 「じゃ、また」

 「ありがとう!」

花を届けたら邪魔にならないように裏口から出ようとした。


 「え――、マオさん。もう行っちゃうんですか――?」

従業員の女の子に呼び止められた。ベルより年下のショートカットの子だ。

 「もうちょっと、お話ししましょうよ!」

 もう一人の子にも声をかけられた。髪の毛を後ろに束ねている。


 「あ、いや。これからやることがあるんだ」

早朝から予定はいっぱいだ。

 「え――! ちょっとだけでも……」

 女の子たちが呼び止めた。でも忙しそうだ。


 「ほらほら! 間に合わなくなるから、手をとめないで! マオは忙しいのよ」

ベルが、女の子たちに注意した。

 「は――い」と言い、女の子たちは作業を再開した。


 「じゃあ」

 挨拶をしてお店の外に出た。

裏口のト会を閉めた途端、「きゃ――! マオさん、かっこいい!」という声が聞こえた。

 「こら。手をとめないで」

 「は――い」

 ベルと従業員の女の子の声を後ろに聞きながら、村のお店が立ち並ぶ場所からダンジョン前へと戻った。



 女神様の鑑定を受けてからと、ケルベロスの子供と出会ってから、二年が過ぎた。

僕は17歳になった。


「マオ様。お耳に入れたいことが」 

ミレーヌは変わらず、スラリとしたスタイルで動きやすい貴族のドレスを着ている。ダンジョン経営を大きなトラブルなく運営できているのは、このミレーヌと背の高いサウスさんと村の皆のおかげだ。


 ダンジョン経営は順調。

村もダンジョンへ挑戦しに来た冒険者の購入する、お土産品や特産品などで発展してにぎやかになった。

 

「マオ様、また背が伸びましたか?」

 サウスさんが僕の目の前に立って話しかけてきた。

「そうかな? 最近、服が小さくなって」

 この二年で僕は背が30センチも伸びた。伸びすぎ! と皆にも言われていている。


「筋肉もついて、だいぶ逞しくなりましたわ」

 ミレーヌが僕の腕を見て言った。この二年間、筋トレや剣の素振り、ダンジョンでの戦いで力もついた。


 「お――い! マオ!」

森の方から幼馴染のジーンが、こちらへ走ってやってきた。ジーンと一緒に鍛えたら僕よりも筋肉がついた。くやしい。

 「ジーン、どうした?」

 急いできたようだ。何かあったのかな? 僕の目の前で立ち止まった。



 「とうとう念願の、お前の宿屋が完成したっていうのにお祝いをしないのか!?」

両肩をガシッとジーンに掴まれて言われた。


 僕はコツコツとお金を貯めて、念願の! 宿を建てることが出来た!

 

「ダンジョンがバージョン2へレベルアップするし、冒険者もたくさん来てくれるからすぐに営業するよ」

 「え――!?」

 僕がそう言うと、皆がびっくりしてた。


 「いいえ。宿屋開店オープンはお祝いしないといけません」

ミレーヌが力説した。

 「そうだそうだ!」と周りにいた冒険者の方たちも、なぜか交ざって言った。


 わいわい言われたので、お祝いすることにした。

「ベルに相談して、パーッとお祝いしようぜ!」

ジーンがどや顔して、めちゃ乗り気になって言った。


 「俺達も祝いたいぜ!」

宿屋を造ってくれた職人さんや村の人達も集まってきた。

 「お祝い事は盛大にやらないとね! 手伝うわよ!」

普段お総菜屋で常連の、お客さん達が名乗り出てくれた。助かる!


 お惣菜屋は僕と母が料理を作り、家の出入り口横の窓を改装してそこで母がお惣菜を販売することにした。料理上手な母の手作り総菜も加わって、種類も増えて好評だった。 


 「皆、ありがとう!」

 

 やっと……子供の頃からの夢が、叶う日が来た。

 

 

 休憩所&宿泊所のあった場所に、三階建ての木造の宿屋を造ってもらった。

一階は食事処。二階は宿泊所。三階は事務所と、僕達の個人的な部屋をつくった。なかなかこの村で見ない大きな三階建ての宿屋が出来た。


 扉を開けるとカランカラン♪ と鈴が鳴ってお客さんの来店がわかるようになっている。

入って右側が注文カウンターになっていて、奥はキッチンだ。

 左側は広く、椅子とテーブルがたくさん並んでいる。


 壁にはダンジョン情報やギルドの情報をお知らせできる、水晶掲示板が見られるようになっている。


 今日は村の人や魔族(人間の姿になっている)や警護の騎士さん達もお祝いに来てくれた。

 「ハリマさん! 来てくれたんだ!」

 「やあ! 思ったより宿屋開店早かったな! おめでとう! これお祝い」


 渡してくれたのは、たくさんのお米や調味料だった。

「マオにはこれが一番、欲しいと思ってさ。持ってきた」

ハリマさんはもう長い付き合いになる。子供の頃から外の国のことを教えてくれたり、お米を仕入れてくれたりと僕にとって大事な人だ。

 「ありがとう御座います! 嬉しいです!」


 「しかし、でかくなったなあ……。俺と背が変わらないじゃないか」

「急に伸びました」

 筋肉もすごいな――と言って肩をポンポン叩かれた。

 「努力したんだな。色々と」

 ハリマさんは「うんうん……偉いな」と言って頷いた。


 「今日は皆にごちそうしますので、遠慮なく食べて飲んでいってくださいね!」

「おう!」

 そう言い、ハリマさんは奥の席へ座りにいった。

 

食事処は、村のベテランママさん達に手伝ってもらっている。稼げて嬉しいと言われた。


「皆さんのおかげで子供の頃からの夢、『美味しい食事ができる宿屋』を開店できました。ありがとう御座います!」

 わ――! と歓声と拍手が起こった。

「今日は皆さんへ感謝の気持ちを込めて、料理や飲み物をお出しします! どうぞ、ごゆっくりなさってください!」 


 そのあとの盛り上がりは凄かった。お祝いのプレゼントをたくさんいただいたし、皆に楽しんでもらえたようだ。頑張ってきて良かった。


 まだまだ始まったばかり。これからも、頑張らなくては!

 

 二年の間、村のみんなもお店を出したり土産品を売ったりして、それぞれ得意な事で活躍している。


 父が冒険者たちの武器や防具の修理をしていたら、ぜひ武器防具の店を! と大勢の冒険者に言われて、本格的に武器防具の店をやることになった。

 家を改装して、お総菜屋さんの隣に父の武器防具の店が出来た。張り切っていい物を作るぞと言っていた。

 

入場券&時間予約券の売り場はそのまま隣にあって、行き来しやすい。強面のサウスさんに売り場を任せれば、もめ事も少なかった。



 カランカラン♪

誰かが来たようだ。おかしいな。今日は村の人や関係者のみのお祝い。


 「俺にもタダ酒、飲ませろや!」

珍しい。荒くれ者がやってきたようだ。ずかずかと店の中へ入ってきて女性の腕をいきなり掴んだ。

 「きゃあ!」

 「ね――ちゃん! 酒を注いでくれや!」


 人相の悪い荒くれ者は、近くにいたベルの腕を掴んでいた。

「マオ様」

 サウスさんが行こうとしたけれど制止して、僕がすばやくベルの側まで行った。


 「マオ!」

「なんだあ? お前は……うっ!」

ベルから荒くれ者の手を払って、腕をひねった。


 「いてててて……! はなせ、このやろう!」

力を入れて後ろ手に身動き取れないようにした。

 「お帰りはあちらになります。それとも騎士様のお世話になりますか?」

僕が荒くれ者の手をひねった時に、騎士さん達も椅子から立ち上がっていた。


 「ひっ! す、すみません……」

何十人もの強面の強い騎士さん達に睨まれて、荒くれ者はさすがに腰を抜かしてしゃがみこんだ。

 「マオさん、この者は私たちにお任せください」

 騎士さん達がこの荒くれ者を引き取ってくれた。


 「大丈夫かい? ベル」

 僕は怯えていたベルに話しかけた。

「え、ええ。大丈夫。助けてくれてありがとう、マオ」

 ちょっと震えているようだ。

 「飲むと落ち着く、ハーブティーを持ってきてあげるから待ってて」

 僕はキッチンへ行こうとした。


 「ああ。お騒がせしてすみません! もう騎士さん達が連れて行ってくれたので大丈夫です!」

 僕が皆に言うと安心して会話を楽しんだ。


 「はい、ハーブティー。これ飲んで落ち着けて」

僕はブレンドしたハーブティーの入ったグラスをベルに渡した。

 「ありがとう……」

 座ってと言うとベルは近くの椅子へ座った。


 「怖かった……。助けてくれてありがとう」

ハーブティーを飲んで少し落ち着いたようだった。

 「本当に強くなったのね、マオ」

 僕を見上げたベルは、小さく華奢に見えた。荒くれ者から守れて良かった。


 ベルと和みながら話をしていた。そこに……。

 

 カランカラン♪ 

「マオ、いる――?」

 今日はお客が多いみたいだ。

 

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