第30話 リール村産の牛の串焼きと、ケルベロスの子供とプルプル
スイートバイオレットのエディブルフラワーのサラダ、スイーツの飾りつけ、香水など、ベルや村の人に製造&加工や販売をしてもらうことにした。
村の年配の方にお手伝いをお願いしたら、ベテランさんばかりで驚いた。さすが職人さんの多いリール村だ。
僕はお肉が好きなのでダンジョン前の休憩所に、リール村産の牛の串焼きを店頭で売ることにした。
「うおっ!? いい匂い! リール村産の牛の串焼きかぁ……。じゅる……。おっと、よだれが。一本売ってくれ、兄ちゃん!」
「ありがとう御座います!」
炭火焼で、味付けは岩塩と胡椒。少量のハーブとレモン。
リール村産牛自体が、ほのかに甘みがあって柔らかいのでシンプルな味付けのほうがいい。
お肉を炭火で焼いていると、油が網の下に滴り落ちて炭にジュッ……! と音を立て、香ばしいお肉の香りが漂う。
「たまらない……! 俺も食いたい! 二本くれ!」
「ありがとう御座います! はい、二本どうぞ!」
煙が森や洞窟の中に広がっていかないように、サウスさんに匂いや煙だけを遮断する結界を休憩所に張ってもらった。便利。
お酒をメニューに入れたかったけれど、やめておいた。酔って入ったら、いくら初心者ダンジョンでも命取りだ。治安の悪化も考えてあきらめた。
「おっ? これは! 最弱スライムのゼリーだと!?」
「あの、何か……?」
すると厳つい顔の冒険者は、がはははは! と豪快に笑って言った。
「いや。あのめったに人前へ出てこない、でも可愛いくて人気の最弱スライムのゼリーなんてお土産にいいなと思って!」
厳つい顔の冒険者さんは、指さして「一つ、もらうわ!」と言い、買ってくれた。
「消費期限は次の日、夜中の12時までです。袋ごと消えて無くなるので注意してください」
袋を丈夫に改良して、転移魔法で回収できるようにした。浄化魔法をかければ衛生面でも問題なし。環境にも、良し。
「ん?」
何だか視線を感じて、ダンジョンに顔を向けた。
「あ、わぁ!!」
「兄ちゃん、どうした!?」
僕は、出てきてはいけないものを見つけてしまった。
「い、いや。お、お肉を焦がしそうになっただけ……!」
僕は苦しい言い訳をした。お肉を買って、美味しそうに噛り付いていた冒険者は「気をつけろよ!」と言って笑ったから良かった。
「さ、サウスさん。……ここを任せてもいいかな?」
僕は騒ぎにならないうちに、
「わかりました。……お願いします」
察してくれたようで、すぐにお肉の焼くのを変わってくれた。
ダッシュして、ダンジョン入り口に向かった。
僕はダンジョンの入り口から、ケルベロスの子供が僕達の方を覗いていたのを見つけた。
「ケルガ、ベロン、スーグ。ダメだよ。ダンジョンから覗いたら、冒険者たちが驚くよ」
ぼくが小声でケルベロスの子供を注意すると、シュンとした。
「ガウ……」
「なかなか会えなかったけど、元気だったかい?」
三匹の頭を撫でた。
ダンジョンがオープンしてから、ケルベロスの子供は森に行けず退屈していたそうだ。……そもそもこの平和な辺境の村の森に、ケルベロスの子供が見つかったら大変な騒ぎになるけど。
「ガウウ!」
三匹、口からよだれがちょっと出てる。
「もしかして、牛の串焼きを食べたかったのかな?」
「ガウ!」
やっぱりそうか。いい返事。結界を張ったはずなのに。さすがケルベロスの子供だ。
「お肉は営業時間が終わってからな。入口だと見つかってしまうから、隠し従業員専用通路に行こう」
僕はケルベロスの子供と一緒に、ダンジョンの中に入って隠し従業員専用通路へ向かった。
途中で魔物が襲ってきたけど、メンテナンスのために毎日ダンジョンへ入っている僕はいつの間にか軽く倒せるくらい強くなっていた。
「しかし、いくら倒しても湧いてくる。それでダンジョンに冒険者が来てくれるからいいけど……」
ガランとした空間の、隠し従業員専用通路。花がたくさん咲いていて和む……。
僕はケルベロスの子供を撫でていると最弱スライムのプルプルが様子を伺いながら岩陰から出てきた。
「プルプル!」
プルプルはケルベロスの子供の横顔に、攻撃のスライムアタックをした!
ぽよ――ん! 痛くはなさそう……。
ケルベロスの子供は平然としていて、鼻でプルプルをつついた。どうやらこれは二匹間の挨拶らしい。……たぶん。
その後、プルプルはいつものように僕の肩に乗った。
「僕は色々な人に助けられてこのダンジョン経営を始めたけど……。特にミレーヌやサウスさん魔族の人に、お世話になってばかりで……いいのかな」
スイートバイオレットの花の香りに癒されながら、ぽつりと弱音を言う。ケルベロスの子供は、撫でられてウトウトと眠りそうになっていた顔を上げた。
プルプルは僕の肩の上で、ぴょんぴょんと跳ねた。
僕は少しづつだけど皆の役に立てるよう頑張っている、つもりだ。だけどまだまだ一人じゃ何にもできない。――ダンジョン経営は順調だけど、そういう時に不安が募る。
これでいいのか、間違っていないか。正解のない道を選んでいく。
僕は一回目の転生で間違った選択をしてしまった。何かの力で転生二回目を歩むことが出来たけど、いつ間違って誤った選択肢を選んでしまうか恐ろしい。
「大丈夫かな……」
僕はしゃがんで、顔を下に向けて膝に額をつけた。目をつぶって膝を抱えて無言になる。
急に弱音を言いたくなった。
「ガウウッ!」
ケルベロスの子供が吠えたので、驚いて顔を上げた。
「驚いた……」
ぼやける視界、僕は笑いかけられなかった。
ペロン!
「わっ!」ケルベロスの子供、三匹に頬を舐められた。
ペロペロ! ペロ!
「ちょっ、ケルガ、ベロン、スーグってば! やめっ……」
僕は尻もちをついてしまった。プルプルも、そのプルプルした体で僕の頬を撫でていた。
もしかして……慰めてくれているのかな?
「ケルガ、ベロン、スーグ! プルプル!」
僕はケルベロスの子供のお腹に顔を埋めて抱きついた。ふわふわ、もふもふで気持ちがいい。しばらく僕はそのままケルベロスの子供のお腹に顔をうずめていた。……ちょっとお腹が濡れてしまうけれど、許してほしい。
ふわふわ、もふもふの毛と、プルプルした感触に僕は癒された。顔を上げて再びケルベロスの子供の体をギュッと抱きしめた。
「ありがとう……。ケルガ、ベロン、スーグには、あとでたくさん牛串を食べさせてやるからな! プルプルには魔力を分けてあげる」
腕で目元を拭って立ち上がった。指先でプルプルのからだに触れて、魔力を分けてあげた。
「プル――プルッ!」
ぴょんぴょんと跳ねて、元気になった。
村のみんなのためにも、魔族のみんなのためにも。――頑張ろう。
僕はスイートバイオレットの花を摘んで、胸のポケットに入れた。
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