第10話 料理の効果と魔族の女の子


『わたくしは、魔の者。魔王様の強い魔力に惹かれて来ました』


「……は?」

なにを言っているのかな――? この子……。


 女の子はおもむろに、くたびれた三角帽子を片手ではずした。長い艶のある黒髪はサラリと女の子の肩から風に、なびいた。

 その頭には立派な、ひつじのみたいのが生えてた。

「我が王。魔力を与えていただき、ありがとう御座います」

 え――。……与えたおぼえ、ないけど?


「我が王のお料理には、たっぷりな栄養と良質な魔力が混ざり合って、とても美味しゅう御座いました」

 女の子はそう言い、優雅なお辞儀をした。チラリとマントから見えた服装はゴスロリ風? 日本でいうコスプレみたい洋服だった。


羽織っている地味なマントより高級そうな生地に、フリルやアクセサリーがたくさんついていた。何者だろう?


「え? 料理に魔力が混じっているの!?」

初耳だ。そんなの聞いたことない!

「はい。人間もわたくし魔族にも、とても良質な魔力でしたわ」

 にっこりと微笑んた女の子は、さっきより肌艶の良くなった気がするけれど……!


  あ、だから? 病気のママさんの回復が早かったのかな? ……いや、どうだろ?


「まだお疑いですの? ……外側が人間である貴方様の、女神のお告げとやらを見てみると良いのでは?」

 女の子は腕組みをして、僕にアドバイスをくれた。

「うん……」


  ピコ!


 〜◆レベルアップ!◆〜


 •料理レベル 18 (1アップ)

 •【回復食】レベル 10 (4アップ)

 •テイマーレベル 70 (20アップ)


 〜◆おめでとう御座います◆〜 


「すごくレベルアップしてる……」

料理レベルは作るたびに、1アップしてる。回復食は……食べさせた人(魔物)によるのかな?

 テイマーレベルが……今度は、20アップ!?


 ケルベロスに懐かれてレベルアップしたけど、もしかして……。

 僕は女の子をチラッと見た。

「我が王、何か?」

ニコニコと微笑んで僕を『我が王』なんて、呼んじゃってる。


「君は……!」

僕はふらりとやってきた、得体の知らない女の子が怖くなった。

「ああ! わたくしとしたことが、いやですわ。自己紹介がまだでしたわね!」

 もうお惣菜屋を店じまいして、家の中へ入りたかった。


「わたくしは、ミレーヌ。魔族の中でも1位、2位を争う強さの者ですの。お見知り置きを」

 また優雅にお辞儀をした。

 

 魔族。昨日はケルベロス、今日は魔族の女の子。僕は……。

「僕は、魔王になんてならない。人違いだよ」

お店を片付け始めた。魔族の女の子は、「え」と言って口を開けたまま動きが止まった。


「で、でも! その強大な魔力は、間違いなく魔王様のもので……!」

「違う」

 僕は、女の子の言葉を遮るように否定した。


 とたんにうなだれて、シュンとなった女の子……ミレーヌさん。ちょっとキツく言い過ぎたかな?

 ミレーヌさんを見ていたら、プルプルと小刻みに震えだした。


「わ……、」

 下を向いたまま、何か話そうとしている。 

「わ?」

 両手をぎゅっと握り、キッ! と僕を睨んだ。でもはっきりと見た顔は……。

 ぱっちりと大きな瞳に、長く上を向いたまつ毛。細く高い鼻に、小さな赤い唇。気品があるけど、どこか童顔の可愛らしい顔に睨まれても怖くはなかった。


「わたくしは、我が魔王様をあきらめませんからね!」

 僕をビシッと指差し、眉間にシワを寄せてもう片方の手を腰にあてて言った。

「覚えてらっしゃい!」

 そう言ってマントをバサッと脱いだ。背中から翼がバサリと生えているのが見えた。

  「ええっ!? 翼!?」

捨て台詞のようなことを言って、行ってしまった。


 何だったのだろう……? 嘘みたい。魔族の女の子なんて、本当にいるんだ。僕の魔力が混じった料理に惹かれて来たとか、嫌な予感がする。まさか次々と魔族が、この村まで来ないよな?

そんなことになったら、村中大騒ぎになってしまう。

 「どうしよう?」

僕は考えて、神父さんの所へ行って相談することにした。


 お店を片付けて……。

と、いってもテーブルの上と、テーブル、その他こまごまとしたものを片付けるだけの、家の前に設置しただけの簡易なお店だけど。このままお金を貯めて、立派な店舗を作る! それが目標。


 教会は近くなのですぐ着いた。

「こんにちは。あの……」

教会の扉をそっと開けて、中を覗いた。

 「いらっしゃい」

「うあ!」

 神父さんが、扉の内側のすぐそばに立っていたのでびっくりした。


 心臓の鼓動がわかるくらい、早くなっている。

「なにか用かい?」 

 神父さんはニヤリと笑い、他の村人には見せない凶悪な笑顔を僕に見せた。

ひいぃ! このまま帰ろうかと扉を閉めようとした。

 ガッ! と扉に手をかけて阻止されてしまった。


 「せっかく来たなら中へ入りなさい」

そう言い、僕の腕を掴んで中に引っ張られた。

「いやあの……」と僕は抵抗したけど力では敵わなかったので、あきらめて教会の中へ入った。


 教会の中は変わらず綺麗に掃除がされていて、ステンドグラスから入ってくる色とりどりの光が神々しかった。

 「で、何の相談?」

神父さんはいつもと違い、ラフに僕に話しかけてきた。

 「あ、その……」

 僕の正体を知っているのは、神父さんだけだ。今後もしかすると、僕の作った料理が原因で村に迷惑がかかるかもしれない。話しておくべきだ。


 「実は……、僕の作った料理のことで相談があります」

 

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