第8話 森でケルベロスに出会う


 ピコン! という大きな音で飛び起きた。女神様からのレベルアップのお知らせだ。

 「もう少し音が小さくならないかなぁ……?」 

時間も考えてほしい。僕は目を擦りながらつぶやいた。

 

 

 ~◆おめでとうございます! レベルアップしました!◆~


 ★料理スキル★

 ・料理レベル 17(1アップ)

 ・【回復食】レベル 6(1アップ)

 ・テイマーレベル 20(19アップ)

 

  ~◆ がんばってね! ◆~


 斜め前の空中に浮かぶノート型のお告げを見た。料理と【回復食】のレベルが一づつ上がっている。なんで【回復食】のレベルが上がっているのだろう? 誰か回復するような食事を作ったかな?


 テイマーレベル? テイマーって魔物を飼いならす人のことじゃなかったかな? え? 僕はいつの間にか、魔物を飼い慣らしていた?

あと「最後の「がんばってね!」 って誰?」

 誰が言ってるのだろう? まさか女神様……?

 「起きなきゃ……」

僕は「う――ん」とをした。


 昨日のお惣菜屋さんの売り上げは、おかげさまで黒字になった。このまま続けてやって行こうと思う。

 この村は、ほぼ自給自足だ。それぞれ女神様に授かった加護得意な事で野菜を作って売ったり、森にいる動物を狩って肉や毛皮などを売り賃金を得ている。


 「今日は狩りをしてみようかな?」

多めのお肉が欲しいので森に狩りへ行くことにした。


 弓と矢を持って森に来てみた。

家からすぐの森は、子供の頃から来ているので奥まで行かなければ大丈夫だ。村の人達が、迷わないように木々に目印をつけたり共同で使える休憩小屋を所々に建てたりしている。

 弓と矢は武器職人の父の特製品で、殺傷力を強化してもらっている。これなら僕でも獲物を狩ることができる。


 たまに鳥は狩って調理しているので、もっと大きな獲物を狩りたい。

「まあ。女神様の思し召しその時の運……だな」

 何か幸運なことがあったときは『女神様のおかげ』と言い、あまりいいことがなかったときは『女神様は留守、出かけていた』と言って、運のなさをあきらめるときに村の僕達は言っている。


 「とりあえず、鳥から狩ろうかな」

少し森の中まで入っていき、何羽が仕留めた。これだけでもいいけど、違うお肉も欲しいし……。

 「もっと奥まで行ってみようかな?」

幸い、天気もいいし急に崩れることもないかな? そう思って僕は森の奥まで進んだ。


 ガソコソと足元に生えている草木が音を出す。

「ちょっと奥まで進みすぎたかな……」

村人たちが歩いて出来た通り道から、どうやら外れてしまったらしい。た。でもそのおかげで大物の鹿が狩れたので、そろそろ戻ろうと考えていた。


 「グルルル……」

「……!」

 しまった。狩りをして夢中になって、大きな動物か魔物の気配に気が付かなかった。森の奥に入りすぎた。

 ここは動物と魔物のテリトリーなわばりだ。人間である僕が勝手にテリトリーに入ってきてしまった。僕は獲物の鹿を置いてテリトリーから速やかに去ろうとした。重い獲物を持ったままじゃ逃げられないし、置いていけば大型の動物や魔物のご馳走になるだろう。僕の代わりに……。


 そっと腰を低くして静かにこの場所から離れようとした。

「グルッ!」

 「あれ?」

鳴き声の方に振り向いたら、斜面に洞窟があってそこから小さくて黒い塊がこちらへ近づいてきた。

 「がう!」

「がうう!」

 「グルッ!」


 「昨日、お惣菜屋に来たケルベロスの子供!?」

三つの顔が僕を見ていた。尻尾を振っている……。昨日来た仔達で間違いなさそうだ。でもなんでこんな所に……?


 「グルルルル……!」

「ひっ!」

洞窟から大きな黒い魔獣が顔を出して、僕を威嚇してきた。やばい。逃げ遅れた!

動けず、恐怖のあまり立ちすくんだ。僕の背より魔物の頭の高さが高い。つまり僕よりかなり大きい魔物だ。グルル……! と威嚇している。

 やられる! ……そう思った。

 「がう!」 

小さいケルベロスの子供が吠えた。すると大きな魔物は、威嚇をやめて洞窟から出てきた。


 「大人のケルベロス……!?」

洞窟から出てきた魔物は、黒い大きな大人のケルベロスだった。想像よりもはるかに大きくて、僕は腰を抜かしそうになった。

 「ガウガウガウ!」

子供のケルベロスの一匹が、大人のケルベロスに吠えている。いや、何か話しているのか?


 「ガウ」

大人のケルベロスは、ひと吠えして子供のケルベロスの顔をペロンと舐めた。もしかして子供のケルベロスの親なのかな?

 見上げるほど近くにやってきた大人のケルベロス。僕は恐怖のため動けずにいる。

チラと僕の狩った鹿を見た。食べたいのか? 

 「あげるから、僕を食べないで」

勇気を振り絞って、大人のケルベロスに話しかけてみた。口の端から覗く、鋭い犬歯が恐ろしい。


 「ガウウ!」

 「ひ!」

大人のケルベロスの、真ん中の顔のやつが鹿の足を咥えた。洞窟がケルベロス親子のなのだろう。僕はそこへ咥えた鹿を運ぶと思った。

鹿は僕より高い位置にケルベロスに咥えられた。そのままケルベロスは歩き始めた。

 「え!? どこへ行くの?」

言葉が通じないはずなのに、僕はケルベロスに話しかけてしまった。


 見上げたケルベロスは大きく、僕なんかひと噛みでやられてしまうだろう。だけど襲っている感じはなくてつい話しかけてしまった。

 「ガルル!」

鹿を咥えてないもう一つの顔が首を振って僕の後ろを示した。

 「え? 後ろ?」

僕の後ろは、やってきた方向だけど……? よくわからなくてもと来た道を見ていた。するとケルベロスの子供が「がう!」と鳴いて、僕が来た道を走り出した。


 「もしかして、運んでくれたりして……?」

まさかと思ったけれど、親ケルベロスに聞いてみた。

 「ガルッ!」

返事した。どうやら運んでくれるらしい。

 「えっ! 助かるっ!」

鹿は軽いものじゃない。運んでくれるなら嬉しい。


 親ケルベロスは僕が狩った鹿を咥えて子ケルベロスと一緒に歩き出した。危害を加えないと分かったので僕も一緒に、行くことにした。


 ケルベロス親子と森の中を村へと向かって歩いて戻ってみると、かなり森の奥まで入ってしまっていたようだ。

 「ケルベロス。狩りに夢中になったとはいえ、君たちのテリトリーまで入って悪かった。今度から気を付けるよ」

 話が分かる気がしてつい話しかけた。

 「ガウ!」

ん? 返事をした?

 

 「もしかして、僕の話すことが分かっているの?」

半信半疑でケルベロスに聞いた。

 「ガウッ!」

親ケルベロスが鳴いた。

 「がう!」

「ガウウ!」

 「グル!」

 子ケルベロス三匹がそれぞれ鳴いた。これは僕の言葉がわかっているという返事だ。え、すごい! 


 「頭が良いんだねえ……!」

「がう!」

 子ケルベロスはなんだか嬉しそうに見えた。

そんなことを話していると、親ケルベロスが歩くのをやめて鹿を地面に降ろした。

きっとここまでが、ケルベロスの来られる場所なのだろう。

 「ありがとう、ケルベロス! お礼に僕が狩った鳥をあげるよ」

鳥は十分すぎるほど狩ったので、子ケルベロスに渡す。

 「がうう!」


 僕はケルベロス親子にお礼を言って別れた。迷わず森から出られたので、ケルベロス親子に感謝した。

 ピコン!

 「ん? またレベルが上がったみたい」

とりあえず獲った鹿の処理が先だ。僕はケルベロス親子と出会ったことを思い出しながら家路に着いた。

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