第3話 以前は苦手だったんだよ?


 テストが終わってからの学校のイベントは遠足。


 周りのみんなは小学校の頃から楽しみにしているイベントの一つかも知れないけれど、わたしにはこれも苦手なものの一つだったよ。


 途中で気分が悪くなって迷惑をかけちゃったことも少なくない。だから不安系の行事なんだ……。


「行き先は日光だって。なんか小学の修学旅行で行った気がするんだよなぁ」


 今日も悠太くんのお家にお邪魔しているわたし。


 同じマンションだから、部屋の作りは一緒……ということで、悠太くんのお母さんにお許しをもらって、お台所を使わせてもらえることになった。


 宿題や勉強を見てもらっているお礼に、おやつ作りはどちらのお家でもわたしが準備している。


 今日は暑くなってきたので、昨日の夜から仕込んでおいた水出しのアイスティーとフルーツを入れて固めたゼリーの組み合わせをおうちから持ってきた。


「こんなお店で売ってそうなのを自分で作っちゃうんだもんなあ。琴葉さんは素質あるんだよ」


「このくらい、小学生でも作れちゃうからそんなに自慢できるものじゃないよ。ケーキはまだ練習中だし」


 こんな会話を毎日交わしているわたしたちの放課後。中学生の頃には全く想像もしていなかったな。


「そうだね。日光って言ってたよね。みんなに迷惑かけなければいいんだけど……」


「先生も琴葉さんのこと分かってるんだから、そこまで危ないことはしないんじゃないかな」


 実際に行程表が配られて内容を見てみると、日帰り遠足ということもあってほとんどがバス移動。


 東照宮でお参りをして、華厳けごんの滝と中禅寺湖ちゅうぜんじこに寄って、最後は戦場ヶ原せんじょうがはらでウォーキングというほとんどモデルコースだった。


 それに、悠太くんがわたしのサポートでついてくれると先生に言ってくれたみたいで、それならばとわたしも参加することに決めたんだよ。


* * *


 当日のお天気は晴れ。服装は制服だったけど、歩きの行程があるから靴は歩き慣れたものでってこと。


 悠太くんみたいなスポーツスニーカーは持っていないから、それでも布スニーカーなら革靴よりは歩きやすいよねって決めたんだよね。


 最初に寄った東照宮とうしょうぐうで気をつけなければならないのが石畳の階段と玉砂利のお庭。


 確かにこれは普段の革靴じゃ厳しい。今までのわたしだったら、この時点でギブアップしてしまいそう。


「空乃さんは、何かお守り買っていく?」


 そんなわたしの隣を歩きながら、心配していてくれる。


「やっぱりわたしの場合は『健康のお守り』かなぁ?」


「じゃぁ買ってあげる」


「え? いいの?」


「僕には空乃さんが元気で笑ってくれている方がいいからね」


 悠太くんはほんのり顔を赤くして笑ってくれたっけ。




 そのあとは再びバスで移動して、お土産屋さんを回ったり華厳の滝に行きたい組と、遊覧船で中禅寺湖を一周してくる組に分かれることになって、わたしは後者の組に入ることにした。


 新緑に囲まれた湖の上の吹き抜ける風が気持ちよくて、わたしには珍しく船の二階のオープンデッキのベンチに座っていた。


 座っていれば危ないと心配することもない。後ろ髪が湖の上を走る涼しい風に吹かれてなびく。


 ふと反対側を見ると、悠太くんがわたしをじっと見ていることに気がついた。


「なぁに? ひょっとして……、なにか恥ずかしいことしていたかな……」


 心配になってそっと小声で聞いたら、反対に悠太くんの顔が今度こそ真っ赤になってしまった。


「い、いや……、空乃さんてあんまり外での表情って多く見ないから」


「そ、そっかぁ……。そうだよね。だから子供っぽいって言われちゃうんだよ」


「そんなことないと思うけど。なんでみんな空乃さんの魅力に気づかないんだろ」


「わたしはその方が気楽だってずっと思ってきた。それに、見た目とか雰囲気でお付き合いしたとしても、苦労しちゃうのは相手の人だもん。すぐに離れて行っちゃうと思う。それだったら、わたしは一人の方がいいんだって。誰にも迷惑かけないから……」


 悠太くんが寂しそうな顔をしていたから、それ以上続けるのはやめた。


 そっか……。悠太くんも引っ越しを何度も経験しているから、お友達がほとんどいないということは聞いていたのに、わたしのネガティブな発言で傷つけたりしたくない。


「でもね、杉原くんといるとわたしも安心するんだよ。わたしのことをいつも気にしてくれているって。それは本当にありがとうって思ってる。きっと、杉原くん以外はわたしのこういうところも知らないと思うし、もしかしたら中学生までのみんなの中の思い出にすらなれない存在だったと思うんだ。それが高校では変わった。もし杉原くんがこのままわたしのことを覚えてくれているなら、間違いなく初めてのことだよ。それって、わたしが『そんな友達ができたらいいなぁ』って思っていたことだから、そうなってくれたら本当にうれしい」


 今回の行事はまだ班行動ではなくて、クラスごとに移動。グループに分かれるにしても船に乗るグループと滝を見に行くグループに分かれたくらいだったから、小さな班行動にはなっていない。クラスの中には同じ中学から来た子たちの小さなグループはあるけれど、わたしたちが二人でいることをひやかしに来る人はまだいない。


「空乃さんがそう思ってくれるなら、僕にとっても同じことを考えてる。一人ってきついもんな」


「うん……」


 なかなか答えにくい内容に素直に頷いて自分でも驚いた。以前ならそんな質問をされても誤魔化していたのに……。


 船が中禅寺湖を一周りして、桟橋が見えてきた。今日はあそこのレストハウスでお昼ご飯だ。


「午後は歩くから、ちゃんと食べておかないとね」


「うん。遠慮しないで食べるから心配しないで?」


 わたしたちはお互いの顔を見合わせて小さく笑うとベンチから立ち上がった。




【遠足の後半は第4話に続きます。お楽しみにね】

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