第9話 ふしぎな木の実(3)
「ふわぁ、美味しい〜」
ルークが蜂蜜入りのお茶を淹れてくれる。マリィの最高に贅沢なひとときだ。
ルークは、マリィのほわほわとした顔を眺めては、ニコニコしている。
森で蜂蜜を手に入れてから、マリィは頑なに蜂蜜を使うことを嫌がった。もしものときに、ルークが飢えないように、少しでも貯蓄をしておく方が良いと思ったからだ。
けれど、翌朝から、不思議なことが起こった。
店を開けると、ドアのすぐ下に木の実がいくつか落ちている。大抵が、食べられるものだ。たまに、希少な魔法薬の原料の場合もある。
マリィに、木の実を届けてくれる友人はいない。
首をかしげながらも、マリィはありがたく木の実をもらうことにした。毎日少しずつ届けられる木の実の安心感は、マリィの心の氷壁を溶かし、蜂蜜をときどき使うことに了承した。
お茶タイムの後は、ルークと魔法の練習だ。
マリィは魔法学校に通ったことはないし、高名な魔法使いに師事したこともない。
それでも魔法使いとしてなんとかやっていけるのは、両親がマリィに小さい頃から少しずつ使い方を教えてくれたおかげだ。
どうやったらルークに魔法を教えることが出来るのか。マリィは、悩んだ末に、両親が教えてくれたことをなぞる事にした。
「さあ、目を閉じて、リラックスして。からだの中の魔力の流れを感じて」
そう言いながら、ルークの両手を優しく握る。マリィは、魔力がからだの中をめぐるのを感じ、手がポカポカと温かくなってきた。
一方、ルークは青い瞳を隠す灰色のまつ毛が小さく震え、手のひらは冷たく、少しこわばっている。
マリィは、安心させるように言う。
「目を開いて、私の瞳の中のルークを見てみて」
ルークは、こわごわと目を開くと驚いたように目を見開いた。
「マリィ?光ってる?」
マリィとつないだ手のひらから温かさが光とともに少しずつルークの方に流れ込んでいく。
キラキラと光る光の粒が、ルークの手から肘まで被ったとき、ルークの腕がみるみる大きくなった。
大きく見えたのは、長い銀色の毛に覆われていたから。慌てて手を引っ込めようとするルークをマリィは離さない。
マリィの手のひらの中でルークの指先がシュルシュルと伸びて長くて硬くて鋭い爪が触れる。
ルークは、途方にくれた顔をした。
「マリィ、これ以上は危険だ」
マリィは優しく微笑みながらコクリと頷くと、手を離した。二人の体を覆っていた白い光は、霧のように晴れて拡散した。
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