死エンド不可避の悪役に転生した俺だが、いずれ殺しにくる幼い頃の女勇者を拾ったら求婚してくるほどヤンデレになってしまったのだが。

灰色の鼠

第1話 悪役に転生と行き倒れ


 社会人だった俺は、気付けば遊んでいたRPGゲームの悪役に転生していた。


 名前は『ラインベルト・クロード』

 上流貴族の御曹司だったが父に反発したことで屋敷から追放。


 婚約者にも見限られて、行き場のなくなったラインベルトは闇落ちしてしまう。


 禁忌と恐れられた”闇魔法”を研究して、その力で世界を混沌に陥れようと計画していたラインベルトなのだが、彼の前に『女勇者ティファ』が現れる。


 凛とした佇まい、女神と見間違えるほどの美貌をもった彼女は世界を救う為にラインベルトを討ちに来たのだ。


 全てを滅ぼそうとする悪役ラインベルト。

 滅びから世界を救おうとする勇者ティファ。


 決して交わらない思想を持つ二人による一騎打ちは、国の地形を変えるほどの規模で行なわれた。


 ラインベルトは闇魔法で遠距離に徹して、ティファは攻撃を掻い潜って近距離に徹した。


 戦争。

 そう錯覚してしまうほどの規模を誇る戦いは五日間も続き、最終的に勇者ティファに勝利によって幕引きとなった。


 満身創痍のラインベルトは地に這いつくばり、ただ死を待つしかなかった。


 それを見ていたティファは、彼の心臓を聖剣で突き刺した。

 これ以上、苦しまないようトドメを刺したのだ。

 

 ティファは、どこまでも慈悲深い。

 誰一人として目の前で苦しんでほしくない、それが例え世界を滅ぼそうとした悪役のラインベルトであろうと。


 そうしてラインベルト・クロードは死んだ。

 悪役に相応しい、最後バッドエンドを遂げたのだ。


 



「そんなバカなぁああああ!!」


 姿見に映る、自分の姿に絶叫する。

 銀髪と青い瞳、そして目元の濃い隈、黒装束。


 転生なんてラッキーな体験、中々できることじゃないのに何でよりにもよってこのキャラなのか!?


 ブラック企業に勤めて五年目、デスクの上で過労死。

 顔も知らない神様の慈悲によって異世界転生を果たすことができたのだが、普通にそこは主人公ポジションだろうがい!


 ラインベルトが拠点にしているボロボロの館。

 その自室の床で頭を抱えながら床を転がり、最悪な状況に恨み辛みを何度も吐いてしまう。


 誰かに見られでもしたら、変人認定されそうだ。


「クソッ! 人生ハードモードはこの世界でも変わらないのかよ!」


 闇魔法は、火、水、土、風、あらゆる属性をもつ魔法の中でトップクラスに恐れられている属性だ。

 

 メリットは超強い魔法だということ。

 デメリットは魔力消費が激しく、油断をすれば意識を乗っ取られ、怪物のように暴走してしまうこと。


 使わないに越したことないのだが、容姿的にすでに悪行を重ねている時系列かもしれない。


 つまり魔法を使っても使わなくても、見られただけで怖がらせてしまうかもしれない、ということなのだ。


 この世界の言語は日本語ではない。

 しかし、肉体の持ち主であるラインベルトの記憶のおかげでこの世界の言語を話すことができるし、ある程度の世界の情勢も把握することができた。


 ラインベルトが経験してきた記憶も、断片的だが見ることができる。


『ゲームの知識』と『ラインベルトの記憶』。

 利用しない手はない。

 前世の日本で流行っていた『悪役令嬢に転生』みたいに攻略してやろう。


 ゲーム通りのシナリオになるのならば近い将来、勇者ティファが殺しにやって来る。


 隠居では安心できないので、確実にバッドエンドを回避するためには汚名返上するしかない。


 いつ殺されてもおかしくないので、早速行動を起こすことにした。


 長旅に必要な荷物をまとめ、拠点である館を外を出発する。

 館は鬱蒼とした薄暗い森の奥地に位置しているので、森を出るのに苦労しそうだ。


(怖ぁ……)


 こことはもうお別れか、どうでもいいか。





 結論から言おう。

 ラインベルトの悪名は、もうとっくに殆どの国に知れ渡っていた。


 最初に立ち寄った町で大騒ぎになってしまった。

 駆けつけた衛兵に囲まれたが命辛々に逃げることができた。


 辺境の田舎村でさえ俺を知っている連中がちらほらいて、泣きながら追い出されてしまった。


「何か、困っていることはありますか?」

「ぎゃああああああああ!!」


「お助けしますよ」

「うわああああああああ!!」


「なんでもしますよ!」

「ひゃああああああああ!!」


 散々な結果に、意気消沈してしまう。

 宿にも泊まれない為、仕方なく雨の降る森の中で、野営ができそうな場所を探す。


 暗い顔で歩いているせいか、動物たちが怖がって逃げていく。

 どんだけ悪党ヅラなんだよ、ラインベルトは。


「……」


 前世では仕事での人間関係、上司との付き合いが嫌で、一人になりたいと幾度か思ってきたことがある。


 家でゲームを遊ぶ時間がなによりも至福だった。

 永遠に続けばいいのにな、と思ったことがある。


 だけど、本当の孤独というものを体験して分かったことがある。

 苦しい、寂しい、虚しい。

 結局、人は繋がりが無ければ生きていけないのだ。


 とんだ大バカ者だな、俺。

 こんな日が続くなら、いっそ本当に悪役になっても―――


「?」


 道の先、生い茂った茂みの中で誰かが倒れているのを見つける。


「お、おい……!」


 傍らまで駆けつけると、倒れているのが少女だと気づく。

 まだ十歳ぐらいだろうか、まだ幼い。


「君、大丈夫か? こんな所で何で……?」


 上着を脱いで、女の子に羽織らせる。


 魔物が生息している森の中で、少女がたった一人だけ倒れている状況に違和感がある。

 何かの幻影かという警戒心を持ちつつ、見過ごすことができないので気絶している少女を連れて行くことにした。


 そう、これは悪役に転生してしまった俺と、少女の出会いだった。





———


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