第14話
「はあー……ほんとにいいお天気。ね、パパ、ママ」
お昼寝から目覚めた茉莉ちゃんが俺の膝に頭を乗せたままで言うのに対して俺は頷く。
「うん、そうだね。それに他の人もいなくて静かだし、なんだか貸しきりみたいな気分だな」
「たしかにそんな感じですよね。本当にどうしてこんなにも人がいないんでしょうか」
「ですよね……」
茉莉ちゃんが嬉しそうにする中、俺達はこの状況に疑問を持ち始めた。変な邪魔が入らないだけいいけれど、ここまで人がいないのはやっぱり変だ。
「ほんとになんでなん――」
「ねえねえ」
「え?」
突然話しかけられて俺達は驚きながらそちらを見る。するとそこには、和装の男の子と女の子が立っていて、その手には小さなボールが握られていた。
「君達は?」
「僕は白玉、この子は小花だよ」
「白玉君と小花ちゃんですね。この辺りの子なんですか?」
「うん、そうだよ。ねえねえ、私達と一緒に遊ぼ」
「わあ……ねえ、二人と遊んできていい?」
茉莉ちゃんがワクワクした様子で言う。この子達にも少し疑問はあったけれど、茉莉ちゃんが楽しそうにしているし、俺と真夏さんで見守っていれば大丈夫だろう。真夏さんと頷きあってから俺は答えた。
「うん、いいよ」
「わあい! 白玉君、小花ちゃん、何する?」
「このボールでキャッチボールしよう」
「三人で軽く投げ合えば遠くにはいかないと思うから」
「うん!」
茉莉ちゃんが起き上がり、靴を履いて二人のところに駆け寄っていく。その姿は本当に嬉しそうであり、やっぱり同年代の子達と遊べるのは楽しいみたいだ。
「楽しそうなのはいいんですけど、あの子達は本当に何者なんでしょうね」
「たしかに……誰もいないと思っていたらいきなり現れたわけですし、今の状況も含めて不思議な事ばかりです」
「ただ、あの子達は悪い子達じゃなさそうなんですよね」
「それは私も思います。ただ単に茉莉ちゃんと遊びたいだけに見えますもんね」
「はい」
茉莉ちゃん達が遊ぶ姿を見ながら話していたが、白玉君と小花ちゃんも楽しそうに笑っている姿を見て、俺達は二人の事を疑うのを止めた。これ以上考えても仕方なかったし、変に疑い続けて茉莉ちゃん達が楽しそうにしているのを邪魔するわけにはいかなかったからだ。
そうして茉莉ちゃんは白玉君達と一緒にキャッチボールやおいかけっこをしたり日々の事を話したりして楽しい時間を過ごし、やがて時間は夕方になった。
「もうこんな時間か……そろそろ帰らないとですね」
「あ、たしかに……茉莉ちゃん、そろそろ帰るよ」
「あ、はーい!」
茉莉ちゃんは白玉君達と一緒に戻ってくる。素直に戻ってきてはくれたけれど、その表情はまだ遊び足りなそうであり、二人と遊ぶのが本当に楽しかったことを物語っていた。
そんな茉莉ちゃんの頭を撫でた後、俺は白玉君達に視線を向けた。
「二人とも、茉莉ちゃんと遊んでくれてありがとう。茉莉ちゃんも楽しかったみたいだよ」
「僕達も楽しかった。普段は二人でしか遊ばないから、他の子と遊べたのは本当に楽しかったし、嬉しかったよ」
「もっと遊びたいけど、そろそろバイバイだもんね」
「うん……でも、私はもっと遊びたいから、また今度遊ぼうね。その時はもっと色々な物を持ってくるから」
「うん、楽しみにしてる。それじゃあそろそろ君達を帰してあげないとね」
その言葉に疑問を覚える。それではまるで二人が俺達をここに呼び寄せたみたいだ。
「それってどういう……」
「ここは君達のために用意した場所なんだ。あっちはなんだか人が多かったし、ゆっくり出来る場所が少なそうだったから君達だけここに呼び寄せてゆったりした時間を過ごしてもらったんだよ」
「本当はその姿を見て楽しむつもりだったんだけど、段々一緒に遊びたくなって。だから、こうして姿を見せて一緒に遊んでたの。遊びたい時はいつでも言っていいみたいだったし」
「え、それじゃあまさかあなた達は……」
真夏さんがハッとすると同時に俺も二人の正体に気づく中、白玉君と小花ちゃんは手を繋ぎながらにこりと笑った。そして茉莉ちゃんに近づくと、
スカートのポケットの中に何かを入れた。
「日が暮れるまで遊んでくれて本当にありがとう。だからこれは、そのお礼だよ」
「きっと茉莉ちゃんにとって色々な助けになってくれるはず。もしまた機会があったら、一緒に遊んでくれると嬉しいな」
「うん、もちろん! 約束だよ!」
「うん、約束」
白玉君が嬉しそうに笑う中、小花ちゃんは俺達を見ながらにこりと笑った。
「二人も見守ってくれてありがとう。怪しいはずの私達を止めずに茉莉ちゃんと遊ばせてくれて」
「どういたしまして。茉莉ちゃんも楽しそうにしてたし、悪い子達じゃないと思ったから邪魔するわけにはいかないと思ってさ」
「不思議な子達だとは思いましたけど、冬矢さんが言うように悪い子達じゃなさそうでしたしね。また茉莉ちゃんと遊んであげてくれると嬉しいです」
「それはもちろん。そんな二人にも今後いい未来が待ってるように祈ってるよ」
「うん、ありがとう。それじゃあまずは帰る準備するかな」
みんなで後片付けをし、帰る準備が整った後、俺達は白玉君達と向かい合った。
「それじゃあそろそろ帰るよ。二人とも、またな」
「また会いましょうね」
「二人とも、またね!」
「うん。またね、みんな」
「また会えるのを楽しみにしてるよ。このまま歩いていけば帰れるからね」
「わかった」
そして二人に見送られながら俺達は歩き始めた。すると、気づいた時には公園の近くの神社の境内に立っていた。
「ここは……」
「神社ですね。そしてやはりあの二人の正体は……」
「そうみたいですね」
俺達はあるものを見る。視線の先には一対の狛犬があり、片方は白いボールを口に咥えていて、もう片方には小さな花が供えられていた。
「なるほど。だから、白玉と小花だったんだ」
「そうみたいですね。あの日に茉莉ちゃんが言っていた言葉が聞こえていて、場所探しをしていた私達を助けてくれたんですね」
「そうなんだね。白玉君、小花ちゃん、本当にありがとう。二人の事、いつまでも大好きだよ」
茉莉ちゃんが笑いながら言う。その笑みはとても明るいものであり、今後会える機会が会えるかはわからないとわかっていながらもまた会える事を願っているものだった。
「そういえば茉莉ちゃん、白玉君から何をもらったの?」
「あ、そうだった。なんだろ……」
茉莉ちゃんはスカートのポケットに手を入れ、何かを掴んでからそれを取り出した。
「これは……ペンダント?」
「綺麗な水晶がはめ込まれていますね。そういえば、水晶の石言葉は『純粋』や『無垢』などで、心身に溜まったネガティブな気やマイナスなエネルギーを浄化してまっさらな状態にしてくれる効果があると聞きます。まさに茉莉ちゃんのような石ですね」
「私みたいな……」
「いいものを貰ったね、茉莉ちゃん」
「うん! 白玉君、小花ちゃん、本当にありがとう。大事にするからね」
茉莉ちゃんは一対の狛犬の頭を優しく撫で、夕焼け空の下を俺達は話をしながら帰った。その後、俺はまたこの神社に来てみたが、あの場所に迷いこむ事はなかった。だけど、きっとまた会えるはずだ。あの水晶のペンダントは実在していて手入れの方法を真夏さんから聞いた茉莉ちゃんが大切にしているし、いつかまた会えるという確信にも似た何かが俺の中にあるからだ。
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