塾講師の俺、最近生徒の距離が近い気がするがきっと気のせいだろう

東宮 小十郎

第1問 最近教え子の距離感が近い気がする。

俺は山本康介やまもとこうすけ、その辺にいる理系の大学生だ。

幸いにもうちの大学は偏差値が比較的高く、国立大学ということもあり、塾でアルバイトをさせてもらっている。


この塾バイトというものは大学の授業と時間が被ることはほとんどないし時給も悪くない。

そういった理由で、今ではバイトを続けて3年目のベテランと言えなくもない立ち位置だ。


個別指導の塾なのだが、高校生をターゲットとしていて、高校生で塾に来るような生徒は勉強にもある程度以上意欲的なため基本的に手がかからないことが多い。


そういった好環境で働くことができ、全くと言っていいほど不満は無い。


「はい、それじゃあ最後にこの問題を解いたら終わりな。もし時間内に終わらなかったら宿題ってことで」

「分かりました」

俺の指示に生徒は従って問題集に目を向ける。

今日教えている生徒は武田優梨たけだゆうり、高校生3年生。


俺がこのバイトに就いて最初に受け持った生徒だ。

当時はこの子も高校1年生で入学したてだった。

最初は数学だけだったのだが、何を気に入ったのか俺指名で英語、2年生に上がってからは化学と生物も取るようになった。


1人の生徒で週4コマ、4科目というのは異例も異例の状況である。

一般には言われていないが、個別塾は生徒が講師の指名を行うと塾側が叶えようとすることが多い。

勿論、講師の予定が合わないなどのできない理由があったら断る場合があるが。


一人暮らしで金欠の俺としては断る理由などなかったのだ。


実際この生徒は素直で俺が課した課題などは実直にこなし、この2年でみるみる成績が上がった。

2月に行われた模試が先月の3月に結果が出たそうで志望大学もB判定と現実味を帯びてきた。


講師としては非の打ち所のない素晴らしい生徒だ。

全く不満は無い。

これさえなければ…


「ところで先生って彼女はいますか?」

「突然だな。それに先月も同じ質問をしてきて答えたはずだが」

「もしかしたらこの1ヶ月で変わってるかもしれないじゃないですか」


これだ。授業の演習の時間で俺が暇している時に必ずと言っていいほどプライベートの質問をしてくるようになった。

しかも微妙に答えづらいやつ。


さらに、ただ質問するだけなら構わないのだが質問の時はこちら側に寄ってくるのだ。

生徒と講師の関係としては不適切な距離感と言えるくらい。


最初は無意識だと思っていたのだが俺がたじろぐのを見て揶揄うような笑みを浮かべていたことがあるため、意図的だろう。


「だから近いって」

「で、どうなんですか?先生なんですから質問には答えてください」


そしてこれだ。1回答えないでみようとしたら塾長に「質問に答えてくれない」とチクリに行こうとしやがった。

生徒と講師という立場上質問を無視するわけにはいかないため俺は答えざるを得ないわけである。


「いないよ、いない。先月と何も変わってないさ」

俺は嫌々ながらも正直に答える。

もしも彼女なんかがいれば堂々と答えられたのだろうが、生憎とそんなものは存在しない。


いると見栄を張ってもいいと思うだろうが、こいつの事だ。写真を見せろだの会わせろだの言うに決まっている。


そういった理由で俺は惨めな思いを抱えつつこういった質問に答えるわけだ。


「ふふっ。そうですか。そうですよね」

俺がこう返すとこいつはいつも嬉しそうに笑いやがる。

人の不幸がそんなに嬉しいか。


「そういうお前はどうなんだ?モテるだろう」

俺はお返しとばかりに同じ質問を返す。

普通こういった質問や発言は良くないのだが、まる2年の付き合いともなるともはや気にする必要もない。


しかしこいつは顔が良い。

肩までかかるセミロングの髪型も相まって、The清楚といった感じだ。

恐らくだが高校では何回も男子から告白を受けているのかもしれない。

だからこそカウンターになり得るのか分からないが一応という形だ。


「先生、私は受験生ですよ?そんな暇はありません。もし付き合うとしたら私に勉強を教えてくれる方だけです」


受験生だからという至極真っ当な全く惨めじゃない理由を盾に返してくる。

カウンターは当然空振りに終わったと言える。


「何言ってんだ。お前は高校内で学年1位だろ?教えれるヤツなんていないじゃないか」

そう、こいつは高校の偏差値がそこまで高くないというのもあるが成績が上がりに上がったということもあり学内では圧倒的に成績が良い。


つまりは彼氏を作る気がないのだろう。


「ふふっ。いるじゃないですか。目の前に」

優梨は俺の目を見て言ってくる。

いつもの冗談だ。


「はいはい、からかうんじゃない。それじゃ、時間だから終わりな。気をつけて帰れよ」

俺はいつも通りそう言って授業を締める。


「むぅ…。さようなら」

俺の反応が悪いのがお気に召さなかったか少し不満そうに優梨は帰り支度を始めた。


これが最近の日常だ。


少々大変だが、良い生徒ではあるし、2年も受け持って愛着も湧いている。


小生意気だが、是非志望校には受からせたいものだ。



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こちらの作品ではエピソードの後に『今日の1問』を載せます。

本編とは全く関係ないので解きたい方だけ解いてみてください。

基本的に簡単な一問一答形式です。(数式は流石に書き表すのが大変)


それでは、今日の1問はこちら

次の空所に入る言葉を選べ。

なほ、中垣こそ『 』、ひとつ家のやうなり。

①あら

②あり

③ある

④あれ

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