第13話 立ち尽くす想いの先に

 愛乃わたしは、靴箱の前で足を止めました。


 今しがた、颯太先輩が昇降口を出ていくところを見かけたからです。何やら表情が暗く、元気がないように見えました。


「颯太先輩……」


 呼び止めたい気持ちはあります。でも、どう声をかければいいのでしょうか。


 ルリ先輩のことで悩んでいるのかもしれない、とわたしはうすうす気付いていました。しかし、それを聞いていいのかどうか、まったく判断がつきません。


(もしあの動画のことだったら……わたしが軽々しく言える話でもないし)


 ルリ先輩が抱えている秘密──それが「プライベートチャンネル」という形で表に出つつあるのだとしたら、もうわたしにはどうすることもできない気がします。


 下手に口を挟めば、ルリ先輩を刺激してしまうかもしれませんし、それに先輩のプライベートを暴くような真似は出来ません。


 動画なんかで配信している時点で、暴くも何もない気がしますが……いちおう顔にはモザイクが掛かっていますし、その匿名性を暴くのは……やっぱりよくないですし……


「……でも、颯太先輩があんなに悩んでいるのを見るのは……辛いです」


 わたしはそう呟いて、靴箱にかけていた手をぎゅっと握りしめました。


 助けたい気持ちはあるのに、何ひとつしてあげられない。矛盾を感じながらも、結局わたしはその場に立ち尽くすだけです。


(ごめんなさい、颯太先輩……わたし、どうしたらいいのかわからないです)

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