第18話統括教官ミネルバと合同訓練
午前の合同訓練が始まった。
我々勇者はそれぞれの職業を急いで極める必要があるので、一般的な軍隊の初期訓練などはすっ飛ばして個々にトレーナーを付け訓練を行っている。
今回は連帯を強め、その中で自身の課題を見つめるという目的があるそうだ。
まあ私は職業がないし、スキルも微妙なので、一般兵の訓練をしているのだが…
「では勇者諸君、今回の仮想敵はネモルジャだ」
私たちの目の前で淡々と説明しているのが我々の統括教官のミネルバだ。
美しい金髪をポニーテールにし、長い前髪も規則正しく目にかからないよう流されている。端正な顔立ちで、チャームポイントの金色のまつ毛はで美しく長いカールを描いている。シルバーの甲冑の胸元には菱形の魔石が青白く光っている。彼女の青色の瞳と魔石の色がリンクしているようで、少しだけ不気味さを覚えた。
ミネルバは軍人家系に生まれ、幼少期からその武の才を発揮していたそうだ。現在の攻撃力や知性などをパラメーターにすると、満点の五角形になるほどの完璧超人だ。そんな王国防衛隊のNo.2の地位を持つ彼女が我々勇者の教官に選ばれた。それほど勇者の教育は重要な位置づけとなっているのだ。
「こいつはデカいし、動きが素早い。外皮は強靭な毛で覆われており、刃が通りにくい。なので、顔を狙って攻撃するのが一般的だ。魔法やポーションで動きを制限し、盾と連携して攻撃部隊は目や口に切り込む。基本的な陣形でいける。お前ら、わかったか!!!」
「「「「「はい!」」」」」
闘技場の大きな鉄の扉が開くと、勢いよく大物が飛び出してきた。
教官が言っていた通り、敵は毛が生えた大きな蛇のような生物だった。ビビットピンク色の毛皮にライムイエロー色のお腹という、なんともまあアメリカンなお色味のモンスターだった。
よく見ると毛皮の一本一本がとても鋭利なので、無闇に近づかないほうがいいだろう。
そんなアメリカンカラー大蛇のネモルジャがニュルニュルと地面をものすごい速さで這い、こちらに近づいてくる。
「剛士、ハルカ、鈍足処理を!」
我らがリーダーの聡一くんが指示を出す。
「はい」「ごわす!」
剛士くんは念仏を唱えるように魔術を唱え始めた。彼が行使できる魔法は長文の詠唱が必要だ。それを「正しい発音で、噛まずに、できるだけ早く」唱え終わることが要求される。今までの人生経験から得たスキルとは全く違うものなので、習得に苦労しているようだった。
そして私はマジックボックスを開き、いくつかポーションを取り出す。そして、魔物目掛けて投擲する。
が、ものの見事に外してしまった。あんなに的は大きいのに…
「ごらぁああぁあああああ!ハルカこんくらい当てんかーーー!!!!」
「すいません!!!」
美しい教官の口から怒号が飛ぶ。いや、悪いのは使えない私だ…。
ココアちゃんが大盾を構えその周辺にもバリアを貼り、聡一くんと剛士くん、葵さんを守っている。防御の要となる彼女も、その小さな体格に見合わない大きさと重さの楯に苦戦しているようだった。この大楯はバリアを張る時に魔力を消耗するので、体力・気力・精神力の全てが求められるのだ。
物理攻撃隊の聡一くんと葵さんのきなこは、なかなか攻めに転ずることができない。剛士くんの詠唱完了までまだ時間がかかる。
早々に「こいつは弱いから攻撃しなくてもいい」と見抜かれているような私には一切攻撃を繰り出してこない。
どうする…
そうだ…私の【 制限付き 】マジックボックスだが、任意の場所で開くことができる。貫通しない攻撃を大楯にしている、今のネモルジャの上からポーションを落とすのは…
そう考えた私はすぐに自身の横にマジックボックスを開き、中に入ってから一度閉め、魔物の頭上に展開した。
ネモルジャの視界の外に来れた私は大量にポーションを投下する。
『よし、いっけーーーー!』と心の中で叫ぶ。
実際に叫ぶとバレるだろうし…
私の意外とナイスな作戦でポーションの雨を降り注ぐことができた。
ちょうどそのタイミングで剛士くんの詠唱も完了し、ダブルで魔物の鈍足化に成功した。
大楯に守られていた攻撃部隊が一気に飛び出した。
「きなこ!口元!!」
「言われなくても、わかってるヨ!」
「はぁああああぁああああ!!!」
聡一くんの大剣で左目を、葵さんの指示できなこが口元にかぶりつき着実にダメージを与える。
「やったー!」
状況終了していないのに一安心してしまった私は、そこそこの高さで展開したマジックボックスの縁から足を踏み外してしまった。
「きゃぁああーーーー!!!」
やばい、完全にやらかした。
この高さから落ちたら………!
「きなこ!!!頭上5m!!!」
「はいヨッ!」
きなこが魔物の頭を踏み台にし、私を助けに来てくれた。
その一瞬の隙を見逃さなかったネモルジャが、聡一くんを振り払い、次の魔法を詠唱していた剛士くんとそれを守護するココアちゃんに突進した。
正面突破するのかと思ったが、魔物は体の後ろを大きく曲げ、守護神の背後から鋭利な尻尾で攻撃しようとしていた。
すぐに気づいた剛士くんは間一髪で交わしたが、地中にまでめり込ませた大楯を抜くことができず焦っているココアちゃんは逃れることができなかった。
「ココア!!!!」
建物が崩れるような騒音が闘技場中に鳴り響いた。
目視での確認は、砂塵のせいでできなかった。
あの声が葵さんだったのはわかるのだ…。
私は大きなフェレットの背中に乗ったまま、毛皮を無意識に強く握ることしかできなかった…
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