第6話 魔力制御のアイテム②

「えっと、ビリー? ユリウスはサブキャラでは?」


 光の魔力はヒロインが使えるのでは? ユリウスまで扱えると聞いて特別感が一気になくなった。


「サブキャラですよ。魔力量がヒロインよりも少ないせいか、一回でほら、すぐに疲れ果ててしまったようですよ」


 ビリーが指さした方を見れば、ベッド端に突っ伏している銀色の髪が見えた。


「わ、いたのか!? いえ、いたんですの?」


 焦って咄嗟に言葉遣いを改めたが、ユリウスは無反応。


「御安心を。ユリウスは寝ていますよ。寝ていなかったら私も出てきませんよ」


「確かに。それより、光の魔力ってヒロインだけのものじゃないんだな」


「稀少ですが、何人かいますよ。ちなみに、ユリウスとヒロインが学園祭で光魔法を使って場を盛り上げるシーンなんかもあったりしますよ」


「原作のアンジェリカが嫉妬しそうだな」


「するでしょうね」


 何にせよ、今回はユリウスに助けられたという訳か。普段は鬱陶しいユリウスだが、今回ばかりは頭が上がらない。


「一回くらいならデートしてやるか」


「元はと言えば、マスターのうっかりから始まった恋ですからね」


「うっ……でも、コイツがいたら悪役令嬢出来ないんだけど。ただの優しい義姉だぞ」


「そこはもう大丈夫かと」


「え?」


 何が大丈夫なのだろうか。両親だけの虐待で事足りるのだろうか。それとも、倒れる前の演技で再びテオドールが俺に怯えるようになったのか?


「マスターが闇の魔力にあてられて倒れたのを知った両親が、監禁……」


「なるほど。激怒して閉じ込めたのか」


「いいえ」


 ビリーに即答された。


「じゃあ何だよ」


「監禁しようとしたのですが、その前にテオドール自ら部屋に篭ったのです」


「地下牢みたいなとこに監禁されるより、自分の部屋が良いよな。テオ、まだ八歳なのに考えたな」


「マスター、人の話は最後まで聞きましょう。自ら篭ったのは、責任を感じたからですよ」


「責任? って、まさか」


 俺が倒れたことの? でもあれは、俺がクリスタルを無理やり奪ったからで、テオドールは何の関係もない。


「責任を感じたテオドールは他人との接触を一切遮断。自責の念から、勝手に闇に堕ちていくでしょう。原作とは多少違いますが、マスターのミッションは成功ですね」


 成功と聞いても全く喜べないこの状況。悪役とは何て虚しい立ち位置なんだ。


「引き篭ったテオドールと会うことはないでしょうが、万が一会うような事があれば、悪役令嬢のアンジェリカで通して下さいね。これ以上拗れたら、修正が難しくなってしまうので」


 そう言うと、ビリーは枕元にチョコンと座った。少しすれば、ユリウスがモゾモゾと動き出した。


「ユリウス……様?」


「ああ、アンジェ、目が覚めたんだね。良かった」


 イケメンは寝起きもやはりイケメンだ。眩しすぎる。


 そんなしょうもないことを考えていたら、ユリウスに抱きしめられた。


「わっ、ユリウス様?」


「心配したんだから。アンジェが死んじゃったらボク、怖くて……」


 ギュッと抱きしめてくるユリウスを突き放す気にはなれなかった俺は、ユリウスの背中に手を回した。


「心配かけてごめんなさい」


「本当だよ。これからもボクが守るからね」


「頼もしいですわね」


「じゃ、御両親呼んで来るね」


「お母様達は……もう少し後で良いですわ」


 何となく両親に会う気にはなれず、そう言っただけなのだが、ユリウスは何やら勘違いし始めた。


「そんなにボクと二人きりに……?」


「は?」


 ユリウスがそっと離れたかと思えば、顎をクイッと持ち上げられた。


 これが俗に言う“顎クイ”か。確かにこれは心臓に悪い。そして、イケメンがやると格好良さが三割増しになるのだと知った。


 自分にされる日が来るとは思ってもみなかったので、現実逃避したくて他人事のように分析していると、ユリウスの顔がどんどん近付いてきた。


「あ、あの。ユリウス様、何故顔が……」


「恋人同士なんだから良いだろう」


「え、いや。恋人って、わたくし達は……」


 覚悟を決めて目をギュッと瞑れば、額にチュッとキスされた。


「え……」


「こっちはまた今度」


 唇にそっと触れられ、ドキドキが止まらない。


 これだからイケメンは……。やることなす事キザすぎる。そして、十歳とは到底思えない。大人になったユリウスは更に女泣かせになることだろう。


 ドンッ。


「な、何!?」


 突然扉の方で大きな音が聞こえた。


「テオ……?」


 扉の前にはテオドールがいた。


(おい、ビリー。テオドールとは、もう会わないんじゃなかったのか? 早速会ってしまったぞ)


 チラリとビリーを見ると、澄ました顔でクマのぬいぐるみになりきっている。


 そして、大きな音は、沢山の本を落とした音だったようだ。俺が貸した本が沢山落ちていた。


「姉さん、僕。これだけ返そうと思って……邪魔するつもりはなくて」


「邪魔?」


 俺は、まだ至近距離にいるユリウスの顔を見た。ニコリと微笑まれ、顔が真っ赤になった。


「テオ、違うわよ。こ、これは、そういんじゃ……てか、そんな本、使用人に頼めば良かったのよ」


「そ、そうだよね」


 動揺しながら本を拾うテオドール。それを見ながらユリウスが耳打ちしてきた。


「君の様子を見にきたんだろうね」


「え?」


「責任感じちゃったみたいでさ、一度部屋に閉じ籠っちゃったんだ。だけど、君の様子を自分の目で確かめたかったんじゃないかな?」


「テオ……」


 何て優しい子なんだ。こんな優しい子なのに、酷い仕打ちばかり。原作者は何て残酷な物語を書いたんだ。


 心の中で原作者に文句を言っていると、テオドールは本を机の上に置いてから、無理やり笑顔を作って言った。


「最後に姉さんの元気そうな顔が見られて良かったよ」


「最後って……」


「じゃあね」


 それだけ言って去ろうとするものだから、俺はベッドから下りて、テオドールを呼び止めた。


「テオ、待って。コレ」


 クリスタルをテオドールに差し出せば、テオドールは目を逸らした。


「元はと言えば、僕がコレを取りに行ったのが間違いだったんだよね」


「いや、そうじゃなくて。あなたには必要な物でしょ?」


「姉さんにあげる」


「あげるって……」


 こんな危険な物いらないんだが……ではなく、テオドールはこれがなければ闇の力を制御出来ない。ヒロインに出会う前にバッドエンドになりそうだ。


「良いからあなたが持ってなさい」


「いらない」


「良いから持ってなさい」


「いらない」


 何て頑固な義弟なんだ。


「あー、もう! つべこべ言わず持ってなさいよ!」


 無理やりテオドールの胸ポケットに入れようとすれば……。


「いらないって言ってんじゃん!」


 テオドールから闇の魔力が放出された。


「キャッ」


 俺は後ろに吹き飛ばされ、ユリウスが支えてくれた。


「アンジェ、大丈夫? テオドール、やり過ぎ」


「姉さん……僕、また」


 テオドールは、絶望的な顔をしながら部屋を出た——。

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