TS転生したら悪役令嬢になりました〜義弟よ、俺は悪役令嬢だ。シナリオ通りにヒロインの元にいってくれ〜
七彩 陽
第一章 悪役令嬢頑張ります
第1話 悪役令嬢? なってやろうじゃないか
ドンッ!
「そんな穢らわしい手で、わたくしに触らないで頂戴」
俺は義弟であるテオドール・ウォーラム八歳を思い切り突き飛ばした。
「姉さん……ごめんなさい、ごめんなさい」
蹲って懇願しているテオドールに蔑んだ目を向け、吐き捨てるように言った。
「あんたがそんな気味の悪い力を持ってるから悪いのよ」
「……」
「これに懲りたら金輪際わたくしに関わらないことね」
そのままテオドールの部屋から出て、俺は急いで自身の部屋に戻った——。
部屋に戻るなり、小さなクマのぬいぐるみのビリーを掴んで言った。
「よし、今回も酷い義姉を演じられたぞ」
「まぁまぁですね」
「まぁまぁって何だよ。俺がどんな思いであんなクズみたいなことやってると思ってんだよ」
これはあくまでも俺の意思ではない。いや、俺が望んでやっているので俺の意思と言えば俺の意思なのだが……。
とにかく、俺は本来可愛い義弟を虐めたくなんてない。虐めたくないが、それが俺に課せられた使命らしい。
ビリーは遠くを見るようにして言った。
「話せば長くなりますが、あれはマスターが可憐な乙女ではなく、まだオジサンだった頃……」
「オジサンって何だよ。前世って言えよ。てか、勝手に話進めんじゃねーよ」
そう、俺、転生者。しかもTS転生で、今は可愛い女の子。ひょんな事から小説の世界に転生してしまったのだ。
——時は遡り、前世の俺は仕事終わりに後輩と飲みに出掛けていた。
『よし、次だ次! まだまだ飲むぞー!』
既に足元がおぼつかない。顔も真っ赤だ。
『先輩、程々にしないと明日も仕事ですよ』
『これが飲んでないでいられるか! 初めてだったんだ。初めて本当にマッチ出来たと思ったんだ……』
俺は産まれてこの方、彼女がいない。
彼女いない歴=年齢なんて、最近では普通かもしれない。ただ、俺は三十八歳だ。三十八で彼女の一人も出来ないなんて……。
それに俺は、決して草食系でも理想が高い訳でもない。この際、容姿や性格、どんなのでも良いから付き合いたい! あわよくば結婚したい!
『そう思ってマッチングアプリを始めたのに……どうして誰も待ち合わせ場所に現れない? おかしいだろ』
『先輩……』
『お前、その哀れみの顔腹立つんだよ。この爽やかイケメンが!』
後輩の髪の毛をこれでもかという程にグシャグシャにしてやる。
『や、やめてくださいよー。あ、先輩、神社ありますよ。恋愛成就でも願って行きましょうよ』
『そうだな。この際、神頼みだ』
赤い鳥居をくぐり、賽銭箱にお金を入れた。
『え、先輩。それ万札っすよ!?』
『独身貴族はな、金は腐る程持ってんだよ。出し惜しみして彼女が出来ない方が問題だ』
俺は拝んだ。必死に。
『神様仏様女神様、どうか次こそは、次こそは恋愛が実りますように。いっそ来世は女性にして下さい。可愛い女性になってこんな悩みとは無縁の生活を送りたい……』
『はは……神様お願いしますね』
ピカッ!
『え? 先輩?』
俺は眩い光に包まれ、神社は静寂と化した。
◇◇◇◇
そして、目が覚めたら赤ちゃんになっていた。しかも女の子。
名前はアンジェリカ・ウォーラム。侯爵令嬢。土魔法も使える。
こんなことってある? 漫画の世界じゃあるまいし。と、何度も疑ったが、何回寝ても夢から覚めないので現実だと受け入れた。
訳もわからないまま順調に成長し、十歳になったある日、ビリーが突如現れた。
『マスター、そろそろ来ますよ』
『うわ! ぬいぐるみが喋った』
俺は驚きのあまり、クマのぬいぐるみと距離を取って机の陰に隠れた。
『ぬいぐるみではありません。神の使いで、ビリーと申します。今後、マスターのサポートを致します』
ビリーは空が飛べるようで、警戒する俺のことなどお構いなしに俺の元まで飛んできた。
『マスター、ミッションをこなさないと』
『……ミッション?』
キョトンとする俺を見て、ビリーは察したようだ。
『え、まさか神から聞かされていないのですか!?』
『髪? 紙? 何を?』
『神様です。マスター、お願いしたでしょう? 来世は女の子になって恋がしたい……と』
『あー、したかも。それでこんな可愛いんだ』
プラチナブロンドの髪に澄んだ青い瞳。大きな瞳で上目遣いなんてしようものなら、男は誰もが虜になるような。そんな美少女なのだ。嬉しすぎて、手鏡で毎日眺めている。
『でもミッションって何?』
『神もタダでは願いを叶えません。ミッションをこなすことが条件です。マスターに課せられたミッションとは……』
『ミッションとは?』
『悪役令嬢になることです』
『は?』
『ここは小説の中の世界。主人公はこれから現れるあなたの弟————』
ビリーの話をまとめるとこんな感じ。
小説【闇と光】の主人公は義弟のテオドール八歳。もうすぐ父が連れてくるのだとか。
テオドールは親戚の子。両親が事故で亡くなったからと、父が引き取ることとなる。
ただ、テオドールはこの世界では忌み嫌われる闇魔法の使い手。両親の死もテオドールの魔力のせいでは? と周りは考えている。
義姉であるアンジェリカとその両親は、そんなテオドールの存在を不愉快に思い、毎日のように罵声を浴びせ、暴力も振るった。
そして、人間不信に陥ったテオドールは、どんどん深い闇に落ちていく。自身の魔力に呑まれる程に。
魔力大暴走したテオドールの前にヒロインが現れ、闇とは相反する光の力、そしてヒロイン自身の優しさに触れることで、テオドールの暴走は食い止められる。やがて二人は恋に落ち、晴れてハッピーエンドに……。
『で? 俺がもし悪役令嬢やらなかったら? 元の世界に戻……』
『戻るわけないでしょう。あれは既に死にました』
『あれって酷いな。じゃあ、どうなるんだよ』
ビリーが暫し黙ったので、緊張した面持ちで次の言葉を待った。
『さぁ』
『さぁ、って何だよ! 緊張して損したじゃねーか!』
『だって、やらなかった人を見た事ないんですもん。ですが、成功したら更に願いを叶えてくれた事例も……』
『え、マジで!? 前世の記憶消せれたりする?』
前のめりで聞けば、やや怯んだようにビリーは応えた。
『前世の記憶いらないのですか? 珍しい人ですね。あった方が便利でしょうに』
『いや、だって……』
可愛いから喜んでいるが、精神が前世の俺なのだ。前世の記憶が無い状態で育てられたなら構わないが、今の状態で男と恋愛は複雑すぎる。心まで乙女になる日はいつ来るのやら……。
『はぁ……本当に願いが叶うなら、イケメンに生まれ変わるように願えば良かった』
『それなら、記憶は消さずにイケメンに変えてもらえば良いのでは?』
『確かに。でも、それ以前に悪役令嬢したら普通に罰せられるんじゃ……』
『それはないのでご安心を。それに、役目を終えれば自由です』
それを聞いてホッとはしたものの、やはり虐待は俺には荷が重い。やりたくないと思っていると、ビリーが補足して言った。
『新たな願いはさて置き、ハッピーエンドを迎えられなかった作品はお蔵入りとなります』
『お蔵入りって?』
『この世界そのものが破滅します』
『うわ、マジで!? 転生した意味ねぇ……てか、悪役令嬢やる選択肢しか残ってねーじゃねーか』
『そういうことです』
という訳で、俺はこの世界を守り、あわよくば新たな願いを叶えてもらおうという下心の為、悪役令嬢を演じる日々を先月から送っている。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
初めまして七彩 陽です。
目に留めていただきありがとうございます!
少しでも面白い。続きが気になると思っていただければ幸いです。
引き続き宜しくお願いします(๑˃̵ᴗ˂̵)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます