【終了】『KAC2024 ~カクヨム・アニバーサリー☆ 1~8 』

越知鷹 京

KAC20241 “〇〇には、3分以内に やらなければならないことがあった!”

☆――― 除夜の鐘 ―――



和尚には、3分以内に やらなければならないことがあった。


「我々は、断固阻止します!」


ベッドタウンにおける人口増加に伴って、

彼らは その行動は黙って見すごすわけには いかなくなったのです。


……おっと、失礼しました。


この話をするには、すこし、時間を遡らねばなりませんね。

こちらの寺の和尚とは、切っても切れない縁があったのですが……。



***


この『お寺』の歴史は、とても古かった。


第一次世界大戦のときも、第二次世界大戦のときも、辛くも空爆を逃れてきたのだ。


――されど、時代は 世知辛い。


「昭和」から「平成」へと元号は変わり、いまでは「令和」ときた。

その間に、世の中の 生活スタイル は大きく変わってしまった。


昭和の頃は、周りに民家などはなかった。

荒れ果てた大地と、小さな畑だけがあったもんだ。


そんでもってよ。

ちょっとくらい大きな鐘を鳴らしても、誰も文句なんて言ってはこなんだ。


――あれから、30年。「昭和」は「平成」へと変わってよ。


地域住民は、年々と増えていった。


年の暮れに鳴らす『除夜の鐘』も、年々、 鳴らす ようにと自治会長さんに注意をされての。……あんガキャ、儂がおどれのオトンの世話を どれだけ したったと思とんねん、ごらぁっそ⁉ …………コホン。



そして、「令和」へと時代は変わってな。


終いにゃ、この寺を囲むように高級マンションやらが、建ってしもた。こうなると、年の暮れに鳴らす『除夜の鐘』が「うるさい!」とクレームをいう輩が出始めるんよな。


儂。ごっつう悔しいやん。


せやから、こんな『ご時世』に逆らったろうと思てから、始めたんよ。

こんな事を――。


【 シークレット‐ミッション 】

『除夜の鐘』を3分以内に 鳴らし終えろ! ※近所に住む自治・PTE会長からのクレームを阻止せよ!



――23時58分。


この日のために、どんだけ筋トレを頑張ってきた思てんねん。


手のひらに、ぺっ、と唾を吐くと鐘ヒモ【 鈴緒(すずお・すずのお)】を握ると グワッと 目ん玉を見開いた。叩き棒【 撞木(しゅもく)】がグギギッときしむ音がする。



「よっしゃー! やったるでーーー!!!」



令和元年。

この日は、39回しか鳴らせなんだ…。


令和2年。

コツをつかんだ儂は、88回を叩き出した。


令和3年。

手がもげるかと思たわ。79回で ギブアップ やった。


令和4年。

――覚醒――。101回の高みへと昇った。


令和5年。

なんや、カメラマンの数が増えた気がするで。どえらい機材まで運びこみよってさかい。


「ほな、慎重にいこか」


連打、連打。ひたすら、連打!

手の皮がむけてしもて、血が出ようと関係なしや。


「そりゃそりゃ、どしたぁあああ!!!!」


自治会長が、猛ダッシュで寺に向かってきおったわ。

「ジジィ、成仏せいやッ!」


ヤツの視界に儂が入るまで、3秒くらい。(;゚д゚)ゴクリ…


102回………、


103回……、


104回…、


――と、そのときや。



叩き棒を固定しとるヒモが切れてしもうてな、

撞木(しゅもく)が自治会長のデコポンに クリーンヒット してもうた。


えろぅ、バツが悪うての。

せやから、もだえとる会長さんに、言ってやたんやわ。



「あちゃ~」

「………」


「これから鐘 打とう 思たら、ヒモが千切れてしもたわ」

「……」


「こりゃ、今年は無理やな~」

「…ガク」 Ω\ζ°) チーン♪



***


その後、ごつい勢いで鐘を打つお爺さん として、有名になってしもてな。

どんどん、どんどん。


観光客が押し寄せてきよったわ。

ほんま、令和6年は、さらに厳しい状況になってしまうわ (草ww) 。


――そう。


和尚には、3分以内に やらなければならないことがあった!


それは、3分以内に『除夜の鐘』を打ち終えることだった――。


◇ おしまい


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