金曜日の秒針
古之誰香
0秒.導入
アラビアンナイトという有名な本がある。
大昔、最愛の王妃の不貞に絶望した王が、その怒りから妃を殺してしまう。
その後、新たな妃を娶るために夜ごとに一人、新たな女性を寝室に迎え入れるが、朝までには殺害してしまう。
その事実が知れ渡り、誰も妃になりたがらなくなってしまう。
そんな時、家臣の一人娘、シェヘラザードが自ら妃に名乗り出て、狂王と成り果てたその人の寝室に上がる。
だがそこで、シェヘラザードは不思議な話を語り聞かせ、それに惹かれた王に対して、話が一夜の内に終わらないように、続きはまた明日の夜と命を繋いでいく。
狂王とシェヘラザードの枠物語の中に、無数の物語が詰め込まれ続いていく。
だがなぜか、僕はその二人の結末を知らない。
そもそも、アラビアンナイトには複数の版がある。
もしかしたら、原典には二人の結末など無いのかも知れない。
でも知らないままで良いと思う。
王がいつの日にかは滅び去るこの世界の終末時計なら、彼女はそんな世界の秒針で、物語はその切っ先がたまたま示した、ほんの瞬間の出来事なのだ。
それは実話か、妄想か、それとも借り物か。
虚実入り乱れ、互いに無関係な、小さな話が続いていく。
それは誰かの延命だろうか。
それとも狂気の延期だろうか。
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