第3話 影屋敷の霜月
「影屋敷!?」
瞬と諒が同時に声を上げるとお互いを見合わせた。瞬はそっと頭に右手を乗せるとこう聞いた。
「ホントに影屋敷なんて存在するのか?」
「影屋敷が本当にあるかは君たちが少しずつ分かっていくと思うよ。」
瞬は口を尖らせ不満そうな顔をした。
「俺たちの名前を知るのなんて朝飯前ってことか。それに⋯俺よりずっと強い。」
「僕は察しの良い子は好きだよ。そして伸び代がある子も。」
霜月は瞬を見た後、諒を見て笑みをこぼした。
「鍛え甲斐があるからね。」
「ひっ!」
諒は慌てて走ると瞬の後ろに隠れた。
霜月は瞬の方に向き直り、変な顔をした。
「瞬、さっきからしているそれは一体なんの真似だい?」
瞬はまだ頭に手を当てたままだった。口を開こうかやめようかもごもごしている。瞬は霜月を下からじっとみると見透かされてるような目をしていた。これ、絶対知ってるなと思った。霜月が口を開こうとするので慌てて口を開いた。
「うっ影屋敷の噂がたくさんあるだろ?」
「どんなことかな?」
「例えば、影屋敷の悪口言った奴は何者かに消される。影屋敷を探しに行ったものは帰って来ないとか。」
「それと?」
霜月は畳み掛かける。
俺が強くなったら絶対痛い目あわすと瞬は心に誓った。
「影屋敷を口に出したら⋯ハゲる⋯とか。」
「ハゲるの??」
諒は目を丸くした。
慌てて諒も両手で頭を隠して瞬と霜月を交互に見た。霜月は諒と目が合うとゆっくり口角を上げてにっこり笑った。
「さぁ、本題に入ろう。影屋敷と言う組織は存在するし、僕も影屋敷の一員だよ。影屋敷では表舞台で活躍する武将の影武者を統括する組織だよ。」
霜月は一度区切ると瞬と諒をじっと見た。
「僕は瞬と諒を影屋敷の僕の所属・
⋯どうかな?」
それを聞いた瞬は霜月に強い目をした。
「霜月さん、俺の命を救ってくれてありがとう。この恩は霜月さんに返したい。
俺は影屋敷へ入る。
でも諒にも救われた。良かったら諒も一緒に行かないか?」
「行く。僕も瞬に助けてもらった。
僕も瞬たちと一緒に行きたい。」
霜月はニッコリと頷いた。
しかし里長は里の者が里から離れることはあまり良しとしない。特に忍の里と影屋敷は相容れない存在なのだ。つまり里長に話をつけて許可をもらわないといけないようだ。
「白龍の里は諒以外に
「そうなんだ。⋯よかった。」
「ただ僕は影屋敷の人間だから自由に里に入れない。彼らが嫌がるからね。だからこれは君たち二人でやらなくちゃいけないんだ。
⋯もちろん瞬の傷が良くなってから特訓するよ。」
諒はぜーぜーと肩で息をしている。
瞬が治るまで先に特訓をすると霜月に言われて山を駆け上がっていた。
霜月によると諒は絶対的に体力が足りていない。技術を上げるのはそれからだ、だそうだ。
木の根っこの盛り上がる足場の悪い山道を全力で登っていく。心臓の鼓動が大きくなりどくどくと揺れて立っているのがやっとだった。
「諒、木に登れ。」
霜月は淡々と指示を出す。諒は霜月に一言物申してやりたかったが息が苦しくて何も言えない。そのまま近くの木を登り始めた。
「上に登ったら俺が石を投げるから跳ねのけて隣の木に移れ。先ずは5個投げるよ。」
諒は肩で苦しそうに息をしながら先ほどの特訓で走りすぎてガタガタと上下に震えている足を引きずるようして両手で木にしがみついて登る。全身が疲労感に覆われてきた。
下から石が飛んでくる。ちょうど座っている足の付根や胸の近くに飛んでくる。なんとか石を払って隣の木にうつる。思った以上に木の枝から飛び出せず隣の木の枝に届かない。
木の枝から落ちた。
鎖を木の枝に回しつけしっかり握ると鎖がビィンと緊張し腕に負荷がかかったが落ちる衝撃を減らしてどさっと背中から地面へ落ちた。
「諒、何やってるんだ?」
霜月が倒れている諒をみると冷ややかな声で聞いた。諒は何か言いたげな顔をしている。霜月はたたみかける。
「本当の戦いでもそれをやるのか?」
それを聞いた諒はぴくっと反応し霜月に何か投げてきてこう言った。
「今のは練習。これから本番なの!」
諒はさっさと木に登っていった。霜月は諒に投げつけられた物を手の上で確認すると「バカ」と形になった金属だった。霜月は
「わんぱくなわんこを拾ってきたものだ。」
「ねぇ早く石投げてよ!」
霜月が腕を組んだまま瞬を見下ろす。諒の特訓が終わって戻ってきたときのことだった。
「瞬、お前は何をやっているんだ?」
「えっ身体慣らしをしてる・・んです。」
瞬は怒られていることを察したがなぜかはわからなかった。しかし返答を間違えると危なさそうだ。霜月を観察しながら探る。霜月は瞬の左手をじっと見ると怖い顔をした。
「左手を動かしたな。」
「えっ・・」
「左手を3日間は絶対使うな、動かすな!傷の治りが悪くなる。他の部分にしろ。」
「はい」
「良い子だ。僕は
霜月は森の中に消えていった。瞬は肩の力を抜いた。
そこへ諒はさっと駆け寄ってくる。諒は不満そうな顔だった。
「瞬!霜月さんになんであんなに素直なの?」
「なんでって逆らう理由がない。霜月さんは俺の恩人だし、言ってることは正しいし俺より強い。今反発したって利になることがない。」
うぐ、諒は反論できなかった。
瞬は諒を見るとその説明では納得しないのが分かった。瞬は真剣な顔で諒の目を真っすぐ見た。
「俺たちは剛を倒したと言っても内容はひどかった。惨敗したようなものだろ。とにかくもっと強くならないと話にならない。」
「うぐっ⋯分かってるもん!だてまきー!」
「にゃ?」
諒はだてまきを見つけると走りよりぎゅっと抱きしめてだてまきのお腹に顔をうずめた。諒は行き場のない感情をだてまきにさらけ出していた。
1週間も経つと霜月は瞬を呼んで向き合った。
「そろそろ訓練を始めるか。まだ左手は治っていない。訓練ではひたすら攻撃を避けてもらう。」
霜月は簡単なパンチや蹴りを出した。避けれるものは避ける。避けきれないものはガードする。
パンチは首を左右に動かし避ける。蹴りも距離のあるものは左右又は後ろに飛んで避ける。
瞬の右側に蹴りがくる。距離が近くて避けられない。
「右手でガードするな無理なら腹で受けろ。」
霜月はすかさず口を開く。その言葉に反応して瞬は右手のガードを頭の方まで上げてお腹で受ける。瞬がくぐもった声を出す。霜月の勢いこそないが重たい蹴りに痛みと苦しさを感じた。
「くそっ!」
慣れない痛みに瞬は思わずこぼす。
霜月は足を下ろすと瞬を見た。
「なるほど対人戦闘は慣れていないんだね。ならば打撃に慣れろ。」
「霜月さん、あんたいい性格してるな。」
瞬は嫌味たっぷりに返した。その時、瞬はこの前の諒の反応を思い出した。
その後、組手をしていると何度も何度も霜月の攻撃が瞬に当たった。その度に歯を食いしばって顔に出さないように努めていた。しばらく続けていると霜月がスッと動きを止めて立ち止まると瞬に声をかける。
「昼だ。一度休憩しよう。」
その場で地面に座り込んだ。
そうするとだてまきが瞬にすり寄ってくる。瞬は口を緩めて右手でだてまきを優しく撫でる。今までで一番癒される時間だ。
遠くから諒が走っているのが見えた。諒は午前の特訓を終わって帰ってきたのだ。前より頼もしい走り方をしている。諒が瞬に近づくと瞬は腕のあざを見せる。
「瞬!⋯うわっひどいあざ。」
「これ全身に出来てるんだぞ。」
「霜月さん、いじめるのが趣味なんだよ。」
「諒、この前のことは悪かった。霜月さんは俺たちを痛めつけて楽しんでる。」
それを聞いた諒は頭を上下に大きく動かし同意した。ふいっと瞬は空を見上げて不満そうな顔をした。
「でも霜月さん、栄養ある食べ物ばっかり持ってくるんだもんなあ。これじゃあ言い返せない。」
「パンチで返せば良いんだよ。」
「じゃぁ俺は蹴りだ。」
昼餉が終わると霜月が瞬に近寄ってきた。
「瞬、身体はどうだ?かすり傷や出血がないかだけは全身確認しろ。」
「分かった。⋯見る限りはないな。」
「そうか、それなら少し休憩したら違う訓練を始める。」
霜月は瞬から背を向けた。
それを見た瞬は慌てて霜月の背中へ言葉を投げかけた。
「あっあの霜月さん、俺を助けてくれてありがとう。」
「その言葉は君たちがもっと強くなってから受け取ろう。それにもともと僕が君たちを影屋敷に引き込むつもりだったんだ。君たちが強くならないとこの後の任務は行えないよ。」
「ふん、望むところだ。」
それから特訓が終わるまでの間、瞬も諒も何度も痛みと苦しみと悔しさを感じた。その度にだてまきに癒しを求めていたがここしばらくは見ていない。二人はもやもやした気持ちを溜め込んでいた。
霜月がどこかから戻って来る。
「待たせたね。残念だけど特訓は一旦中止だよ。」
「中止っていうのはどういう事だ?」
「白龍の里長・白龍殿が里に戻ってきた。明日、瞬と諒は白龍の里に行くように。今日はその準備に当てろ。」
【次回予告】
次回は瞬と諒は白龍の里ですね。諒の出身の里ですが、諒は里に戻ることは心持ち大丈夫なんでしょうか。
次回の
「白龍殿、提案ありがとう・・ございます。とても魅力的です。」
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