第49話 剣
足に、力が戻る、魔力も、でもそれを私は隠す
男はそれに気づかない
耳をつぶし目に泥水をかぶせてもなお男の足は速い
だけど、私の行く先に、私がさっき落とした剣があるのを男は気づく
後ろで急ブレーキをかける気配がする
考えなしに走り出したと思ったでしょう?
でもまだあなたは私を侮っている
だから、剣を持たず私を追いかけたことをまだ、『しまった』と思っていない
それでいい
私はその侮りを使わせてもらう
剣までたどり着いた私は、しゃがんでそのまま剣を握る、魔力を全開にして握る、そして、
振り向きざまに、投げる!!
投げた瞬間、私は全魔力を集中させ、時間を止める
投げた剣が、片手で弾かれようとする、その瞬間、考えるより先に、体に従う、タイミングは任せる
剣を投げた私にもう剣はないとあなたは思う、
わが師よ、だけどあるのです、剣は私の手に
届くか、届かないか、そんなのはどうでもいい
ただ、遠くへ、はるか遠くへ、私が目指した高みへと、私は、跳ぶ、剣を、手に
「アリシア!!・・・・あ?・・・」
届いた
私の剣
子どもの頃届かなかった私の剣が今、届いた
「アリシア!!・・・・あ?・・・」
届いた
私の剣
子どもの頃届かなかった私の剣が今、届いた
「これ・・・は・・?」
ハミルトンは、自分の胸に突き刺さった剣を凝視している
それともまだそれを剣とは認めたがらないだろうか
「スモールソード、さっきあなたが女子供の剣、戦場の剣ではないと言った剣です、ハミルトン」
「・・・く・・・」
私は剣を斜めにねじり、それから抜いた、それと同時に後ろに跳んだ
私を捕まえようと、ハミルトンの両手が宙をさまよった
その左胸からは、血が流れだしている
ハミルトンは両膝をついた
「・・・バカな・・・」
「・・・・」
「バカな・・・お前は完全に心が折れていた、完全に、間違いない、あれは演技などではなかった
お前は演技などできない、そういう女だ
お前は本当に私に怯えていた
怯えてもう何もできないはずだった
なぜ、なぜ動けた
なぜ、私に勝てた」
「恐怖を凌駕するものが私にはある、それだけのことです、ハミルトン」
「・・・そうか、私への憎しみ、恨みが、お前のその恐怖を凌駕したのか、そうか」
「・・・あなたは何もわかっていない、ハミルトン、恨みや憎しみなんかで、人が強くなれるものか」
「なに?なんだと?では何がお前を強くしたのだ、アリシアよ」
「言ったはずだ、私は剣だと、あの方の剣だと」
「剣・・・」
「ジェラルド・ハミルトン
あなたはこの国に仇名すもの
この国の敵
あの方の敵
だから倒すと決めた
だから倒した
それだけのことだ」
しん、と一瞬静寂が訪れた
ハミルトンの目が、和らいだ
「そうか・・・剣か・・・そうか・・・」
「・・・」
「見事だ、アリシアよ、見事だ・・・」
私は唇を噛んだ
目を強くつぶる
そして目を開ける
でも目の前の現実は何も変わらなくて、だから私は、剣を拾いに歩き出した
スモールソードがこの方の死になっては、いけないから
この方の死は、長剣でなくてはいけないから
だから私はこの方が今弾いてみせた長剣が落ちている場所まで歩いた
そしてそれを拾い上げた
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