終了しますか?

新菜いに||丹㑚仁戻

12月4日 T山ミウ

「うわ、■■駅っていつも使ってるとこじゃん……」


 SNSのタイムラインに流れてきたポストを見て、わたしはうげっと顔をしかめた。なんでも駅前のバスロータリーで交通事故があったらしい。暴走した車が停車中のバスに突っ込んで、たまたまバスに乗ろうとしていた女の人がバスとガードレールの間に挟まれて死んでしまったのだとか。

 しかも衝撃でこのガードレールの横棒部分が折れたらしく、残った支柱部分に女の人の身体が刺さってお腹が串刺しみたいになったそうだ。物凄くグロい。


 怖いなぁと思いながらスマホ画面をスクロールしていたら、突然タイムラインが全然違う画面に切り替わった。


「っ、ああもうまた」


 急に表示されたアダルト広告にイラッとする。急に、というかわたしが誤タップしてしまったせいだけど。

 このSNS、近頃一気に使いづらくなった。別にマイナーなやつじゃない。誰でも使ってる、世界で一番有名な〝オウル〟っていうSNSだ。前まではあまり広告はなかったのに、最近経営体制が変わったとかなんとかで広告だらけのサービスになってしまったのだ。


 別に運営にお金がかかるのは理解しているから、広告が増えるのはまあ受け入れられる。だけど問題はその内容だ。経営体制の変化と共にチェックも甘くなってしまったのか、以前はなかったはずのアダルト広告がしょっちゅう表示されるようになったのだ。

 しかもこうやって誤タップしてしまうと、その広告に興味があると判断されるから本当に最悪。ちょっとミスしただけでしばらくタイムラインがモザイクなしの肌色に染まって気持ち悪い。えっちは好きだけど、他人のシてるところになんて興味はないし。一回高校のクラスメイトの動画出てきたのは面白かったけど。

 せめて他の広告にしてくれと思って設定をいじっても全然駄目。年齢、性別、趣味嗜好……どこを触っても駄目だった。


 だからこうなったら自分でどうにかするしかない。別の広告をタップしまくるのだ。

 無難なのはアパレル。有名アパレルブランドを検索すると、ポストに混じって高確率でアパレル関連の広告が出てくる。そうしたらそれを何回かタップして、わたしが興味あるのはこっちですよってオウルくんに教え込む。すると気持ち悪いエロ画像が並んだタイムラインは正気を取り戻して、可愛い洋服の広告を出してくれるようになるのだ。

 ちなみにこの作業、巷ではホワイトニングって呼ばれてるらしい。このSNSの正式名称がホワイトアウルだから、そこから来ているんだとか。でも周りでホワイトアウルだなんて呼ぶ人はいない。みんなオウルか、ふくろうって呼ぶ。ネットだと白い鳥とも呼ばれてる。


 というわけで、今日もわたしはホワイトニングに勤しむ。折角なので普段着るブランドを検索して、間違ってタップしてしまってもそこまでイラッとしないような広告を探す。

 そうして表示された検索結果をスクロールしていくと、洋服の可愛い着こなしを紹介するポストに混ざって、とあるブランドの広告が表示された。

 あ、これ好きなやつだ。これなら今後誤タップしちゃっても精神的ダメージが少ない――と思って広告に指を伸ばした時、タイムラインが突如シュッと一番上まで高速スクロールした。


「あああああああ!!」


 思わずイライラが口から溢れ出る。たまにあるこの現象、本当に何? 人を苛つかせる機能か何か?

 と思いつつも、画面に目を戻す。そしてあの広告を再び探そうとしたけれど、それはできなかった。


「うわ……なにこれ……」


 そこに表示されていたのは謎の画面。どうやらさっきの広告をタップしようとして、別のやつを触っちゃっていたらしい。

 しかもこれ、なんだか気味が悪い。家かな? 暗い家の中の画像っぽいのが画面全体に広がっていて、下の方に〈終了しますか?〉って表示されてる。何を終了するのかは書かれていない。


「ホラーゲームか何かかな」


 よく見ると家の中に人影っぽいものがある気がする。暗いから分かりづらいけど、多分これは浮いてるんじゃないかな。となるとやっぱりホラーゲームっぽい。裸のお姉さんよりはマシだけど、あいにく私はホラーゲームに興味はない。

 だから閉じるべく画面を更に探せば、広告の隅に小さな〈×〉マークを見つけた。なんでこういうのってこんなに小さいんだろう。間違って先に進んじゃったら嫌だなと思いながら、違うところを触らないように慎重に指先でつつく。が、失敗した。


「っ、わ……!?」


 切り替わった画面に映ったのはわたしの顔。しかも頭に何か刺さっていて、目がぐるんとどこかを向いているという、かなり趣味の悪い加工まで入ってる。ついでに血まみれだ。なにこれインカメ勝手に使ったの? 怖すぎる。


〈こちらでいいですか? 決定まで一〇〇時間〉


「一〇〇時間って何日だよ。きっも」


 表示された画像も文言も見ていたくなくて、わたしはとっさにアプリを落とした。バックグラウンドからも消して、完全に終了させる。念の為起動しっぱなしだったカメラアプリも落としたから、これでもう安心だろう。

 そうして新たにアプリを起動すれば、いつもどおりの見慣れた画面が目に入った。


「げ」


 スクロールすれば、また裸体が主張してくる。しかもご丁寧に動く画像だ、本当に気持ち悪い。どうやらさっきの広告は影響していないらしいけど、だからといってこれがこのままなのは嫌だ。


 わたしは別のブランド名を検索すると、嫌な広告を駆逐すべくホワイトニングを再開した。

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