第39話 推しヒロインがいない学校生活
「えと……スポーツドリンクとゼリー、のど飴、うどん、おかゆもあった方がいいか」
朝、公園で俺はひよりのお見舞い品リストをスマホのメモ帳に入力しながらある人物を待っていた。
ふと、前を見ると小走りで駆け寄ってくる美鈴の姿が。
「おはよ。文学、待たせてごめん」
「大丈夫、俺もいま来たとこだし」
「おぉ……なんか、恋人って感じがする」
感慨深そうな表情をする美鈴。
「まぁ、恋人だからね。なんちゃってだけど……行こうか」
「うん」
二人並んで学校へと歩き始める。
「……まさか文学の方から一緒に登校しようなんて提案してくるとは思わなかった」
「あー……まぁ、恋人ぽいことした方が良いかなって」
発案者は桐藤さんだけど……
「ふふ、そうなんだ」
どこか上機嫌で肩をぶつけてくる美鈴さん。
桐藤さんの言った通り、美鈴の機嫌が良くなった。さすが桐藤さんだな……
「そういえば、昨日芹澤家の家族会議があったよ」
「……ど、どうだった? やっぱり怪しまれた?」
「ううん。パパとママ……普通に信じてくれた」
得意げな顔で胸を張りながらピースをする美鈴。どうやらうまくいったようだ。
「まぁ、最初は疑われてたけど……文学のことを話たら信じてくれた」
「へぇ……ちなみにどんなことを話したの?」
「えと……パパに文学のこと聞かれて……文学はぼっちでクラスで浮いてて、おどおどしてて、鈍感で節操なしの甲斐性なしで人たらし。そんなところが好きって言った」
「え、ただの悪口じゃん」
「大丈夫、ちゃんとたまにかっこよくなるってフォローしておいたから」
「そんな取って付けたようなフォローで大丈夫だったの?」
「うん。二人とも私が文学のこと好きなのはしっかり伝わったって」
美鈴パパ、美鈴ママ。本当にそれでいいのか。
……さて、そろそろ本題を切り出そう。
「そう言えば、七瀬さん今日は風邪で学校休むから伝えておいてって」
「え、そうなの?」
さて、ここからが本番だぞ。
「うん。熱も39度あるらしい。一応、朝からお母さんと病院に行くみたいだけど」
「…………そういえば、あの日は雨が降ってた」
「美鈴さん?」
「…………お見舞い、行かなきゃね。ひよりとはちゃんと話した方がいいのかも」
「そのことなんだけど……七瀬さん、風邪がうつったら大変だからお見舞いは大丈夫だって言ったんだ。でもー」
「もしかして、文学だけなら来てもいいって言ったの?」
美鈴の言葉に驚きつつも、頷いた。
「だから、その……お見舞いにいってもいいでしょうか?」
「いいよ」
「え、あ、いいの?」
思わず聞き返してしまった俺を見てあきられたように頷く。
「ダメだって言ってもどうせ文学は行くだろうし」
「うん! さすがなんちゃって恋人。分かってるね」
サイムズアップをしながら言ったら、ジト目の美鈴が肘で横腹を突いてきた。
すいません……開き直りました……
「……ひよりにはわたしたちの事情、話しても良いよ」
「え、いい……の?」
まさか、美鈴の方から提案してくれるとは……第二の関門もあっけなく突破してしまった。
「うん……私、ひよりの気持ち。ちゃんと分かってなかったっぽいから……」
どういうことなのだろう?
その言葉の真意を探ろうとした瞬間、美鈴の言葉がそれを遮った。
「だから文学、ひよりのことお願いね」
◇
「あ、学級委員長〜ひよりちゃんって今日どうしたのか知ってる?」
「風邪で熱が出たんだって」
本日、もはや何人目かすら覚えていないやりとりをクラスメイトの女子、小鳥遊さんとしていた。
ちなみに小鳥遊さんとは喋ったことは一度もない。
「あ、そうなんだ。心配だね。教えてくれてありがと……ん? どうしたの? そんな顔して」
「あ、いや……七瀬さんのこと、なんで俺に聞いてくるんだろうって」
「え、そりゃ……ひよりちゃんと言ったら学級委員長ってくらい一緒にいるじゃん。それじゃ、お大事にって伝えといてー」
そう言って、ひらひら〜と手を振りながら席に戻っていく。
きっと、小鳥遊さんが俺のことを学級委員長と呼んだのは俺の名前を覚えていないからではなく、学級委員長という肩書きが浸透していたからだ。
多分。きっと、おそらく。
「……ふぅ」
流石に疲れた。なんせ月見さん、天馬、一花、クラスの男子や先生までもがひよりについて聞いていたから。
……もしかして、このやりとり今日一日ずっと続くのだろうか。
「なに、珍しく疲れてるじゃん」
机に項垂れている俺に話しかけてきたのは月見さんだ。
「うん。七瀬さんのこと、みんな俺に聞いてくるから……」
「なるほど、今日は文学がいろんな人に話しかけられてるから変だと思ってた」
美鈴は相変わらず俺の人間関係になると容赦がない。
というか、二人ともなんで俺の席に……ああ、そっか。もうお昼休みか。
二人が持っている弁当箱を見て気が付いた。
「……ちょっと購買に行ってくる」
ちょうどいい……気分転換のついでにお昼ごはんを買いに行こう。
「文学が行くなら私もいこうかな」
「月見さんが寂しがるからだめ」
「は?」
「確かに、星乃が一人ぼっちになって寂しがっちゃうか」
「は?」
よしよしと頭を撫でながら月見さんに抱きつく美鈴。
ふむ、どうやら俺はお邪魔虫のようだな。ここはさっさと退散しよう。
こちらを見つめてくる月見さんの圧を感じつつ教室を出た。
廊下を歩きながら、さっき小鳥遊さんに言われた言葉を思い出していた。
『ひよりちゃんと言ったら学級委員長ってくらい一緒にいるじゃん』
……そんなに俺とひよりは一緒にいるイメージなのだろうか。
そんなことを思いながら売店にたどり着くと、ちょこんと誰かを待っているように立っている一花の姿が。
「あ、文学くん」
「あれ? 花さん。なんでこんなところに」
彼女と天馬にはひよりが風邪で休みなのでお昼ごはんは教室で食べると伝えたはずだが……
「売店でひよりちゃんのお見舞いの品を買っていたんです。はい、文学くん。よろしくお願いします」
一花が渡してきたのはフルーツのど飴。
「え、あ、うん。受け取りました……ってなんで俺に?」
「なんでって……文学くん、ひよりちゃんのお見舞いに行きますよね?」
あれ? 確かにメッセージで二人がお見舞いに行こうとしたのを止めたけど、俺がひよりのお見舞いに行くことは伝えてなかったはずだ。
何も言わない俺に一花は不思議そうに首を傾げる。
「あれ? 違いましたか?」
「いや、あってるけど……俺、ひよりのお見舞いに行くって伝えてなかったような気がするんだけど……なんで分かったの?」
俺の疑問に一花はクスッと笑って答えた。
「なんとなく、です」
そっか、なんとなくかぁ……女の勘というのは恐ろしい。
「それに、言ってたでしょ? ひよりちゃんが誰よりも頼りにしてるのはきっと文学くんだって」
「……そう言えば、そうだったね」
「……私も、この学校に来たばかりの頃、風邪をひいちゃって学校を休んだことがあったんです。その時は、天満くんがお見舞いに来てくれて」
おっと、惚気タイムかな? そう思っていると一花の顔はどこか真剣で。
「熱がある時って、心が不安定になって思っていることを言っちゃうんです。誰にも言えないようなことも……ですから文学くん。もし、ひよりちゃんが自身の想いを吐き出してしまった時は全部聞いてあげて欲しいんです。そして、どうかきちんと受け止めてあげて」
「………………」
「少なくとも私は天満くんにそうしてもらって救われました」
そして最後に困ったように笑う。
そんな大役、俺なんかにまわってくるのだろうか?
そう思いながら、窓から見える澄んだ青空を見つめた。
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