第16話 私の文くん
「……あ、飲み物買うの忘れてた」
花ちゃん達とテーブルに着き、お昼ご飯を食べようとした瞬間、文くんがそう呟いた。
「ちょっと自販機に行ってくるからみんなは先に食べてて、ついでに飲みたいものがあったら一緒に買ってくるけど」
「あ、じゃあ。コーラでお願いしていいか?」
「私はレモンティーをお願いします」
「あ、私はねー」
「七瀬さんはミルクティーでいいでしょ……あ、ちょっ、なんで肩を叩いてくるの……もしかして違った?」
「……別に、合ってるけどさ。なんか……なんかっ」
嬉しくて、恥ずかしくて、むず痒くて……照れ隠しのようにポカポカと文くんの肩を叩いてしまう。
「入江、1人で大丈夫か?」
立ち上がった文くんに天馬が心配そうに声をかける。
確かに、天馬のいう通りだ。一人で4人分の飲み物を持つのは少し大変だと思う。
それじゃ、私も一緒にー
「……確かに、それじゃ綾部さん。申し訳ないけど一緒に来てもらえるかな」
立ち上がろうとした瞬間、文くんは花ちゃんに声をかけた。
「はい、いいですよ」
花ちゃんは一瞬、驚いた表情をしたものの、どこか納得したような顔をしながら立ち上がる。
「それじゃ、行ってきます」
「う、うん」
「ああ、悪いな」
お金を渡して、自販機へと向かった二人を見送る。
……………………なんで、私じゃないんだろう。
なぜか、胸の奥にモヤモヤっと黒いものが渦巻く。こんなの……初めてだ。
「……入江ってさ。いい奴だよな」
「へ? どうしたの? 急に」
「今回の件で思ったんだ。入江は最初から最後までずっとひよりの味方で居て……友達とはいえ、ここまで支えてくれる奴なんてなかなか居ないぞ……多分、今も気を遣ってくれてるし」
「……え?」
「一花を連れ出したのは、俺とひよりの話す場を設けるためじゃないかな」
「……あ」
そうだ。花ちゃんとは話し合ったけど、天馬とはちゃんと話をしてなかった。
だとすると花ちゃん表情も理解できる。
……私の為。だったんだよね……それなのに。
モヤモヤを抱いてしまている自分に自己嫌悪する。
「それに、結構頼りになるし。俺が入江に相談した時だって同い年とは思えないほど、大人で……堂々として。ほんと凄い奴だよ」
「そうでしょそうでしょ!? いや〜文くんの良さが天馬にも分かっちゃったか〜」
なんだろう。文くんがこうして褒められてるのを聞くと自分のことのように嬉しくなる。
「私が天馬たちに向き合えたのはきっと……文くんがそばにいてくれたからだと思う」
「ああ……そうだな」
文くんが支えてくれたからここまで来れて……
そう。文くんの……おかげ……で……
あれ……?
私、文くんが居なかったら……どうなってたんだろう……?
「ひ、ひより? 大丈夫か?」
「……え? なに?」
「いや、急に顔が真っ青になったから……気分でも悪いのか?」
「あ、え……いや……大丈夫、大丈夫だから」
……一瞬、すごい鳥肌がたった。
これ以上考えるのはやめよう。あまり良くない気がする。
「………………ひよりと入江って付き合ってるのか?」
「…………はいっ!?」
「あ、いや……今日、ひよりが入江と付き合ってるって噂を聞いたんだ……実際のところどうなんだろうって」
きっと、笹原先輩の件が原因だろう。それに最近は私が文くんによく絡みに行っているから余計に。
実際、私と文くんは付き合っているわけではないから否定すれば話は丸く収まる。
とはいえ、このまま素直に答えるのはつまらない気がする。
……そうだ。
「ああ、うん。付き合ってるよ」
天馬がどんな反応をするのか気になって、ちょっといじわるで嘘をついてみた。
「マジか……!! やっぱりな……」
すごく納得したように何度も頷く天馬。
え、ちょっと!?
「いや、冗談だから……! そんな簡単に信じないでよっ」
「え? 冗談……? それじゃあ、本当は付き合ってないのか?」
「付き合ってません! も〜なんで信じるかなぁ〜…………正直複雑なんですけど」
「わ、悪い……最近は二人が一緒にいるところをよく見かけるし、ひよりがあんなに男子と距離が近いのは初めて見たからさ……お前、結構人を見て距離感とか測るところあるだろ?」
「ま、まぁ……それは……そうだけど」
天馬のいう通り、私は誰にでも距離が近いわけじゃない。
文くんに対しては特別、距離感が近いのも自覚はしてる。
「……それに」
「それに……なに?」
「……自覚ないのか? さっき入江が一花と自販機に行った時、すごく嫌そうな顔してたぞ」
「……え」
私が……? 二人を見て……?
「ですから、何か困った時は遠慮なく言ってくださいね? いつでも、どんなことでも入江くんのお力になりますから!」
「分かった。困った時は遠慮なく綾部さんに相談するよ」
「はいっ! 任せてください!」
天馬の言葉に困惑していると、二人の姿が視界に映った。
目の前には楽しそうに会話をしながらこちらに来る文くんと花ちゃんの姿が。
花ちゃんはたまに見せるいたずらな表情で文くんをからかって、文くんはぶっきらぼうにペットボトルで花ちゃんをつっつく。そこに険悪な空気感はなく、ただ単にじゃれあっているように見える。
だけど……なんか、なんで、
……
…………
………………私の
「私の文くんなのに……」
「ひ、ひより?」
「……え? なに?」
「い、いや……多分気のせいだな」
天馬はそれ以上なにも言わず、二人に向かって手を振った。
また、胸の奥のモヤモヤを感じながら私も二人に向かって手を振る。
……今、無意識になにかを言ったような気がする。
「二人ともおかえり」
「ただいまです。はい、天馬くん」
「ああ、さんきゅ」
はなちゃんが天馬にコーラを手渡す。
戻ってきた文くんはミルクティーを2本持っていた。
「……あれ? 文くんも私と同じミルクティーを選んだの?」
「え? まぁ……うん。七瀬さんがいつも飲んでるからさ、俺もなんか飲みたくなっちゃって」
「……ふーん。へぇ〜そっか、そっか」
照れ臭かったのか、目を逸らしながら言う文くんに肩をぶつける。
照れている文くんを見ていたら、なぜかモヤモヤがなくなった。
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