第6話 推しヒロインと恋愛映画




土曜日の昼過ぎ。



 やっふぅー!! ややややふぅー!!


 俺の心は荒ぶっていた。なぜなら、これから七瀬と映画を見に行くからだ。


 推しのヒロインと休日に映画なんて……こんなんテンション上がるに決まってるだろ!!


 正直、昨日からハイテンション過ぎて一睡も出来ていない。


 ……最初は振られた七瀬を放って置けなくて始まったこの関係。まさかここまで絆を深めることになるとは。


 なんともまぁ……随分、遠くまで来たものだ。


 しかし、勘違いしてはいけない。


 これはデートではなく、あくまで友達と遊ぶ的なやつだから……


 待ち合わせ時間まで残り15分。


 あはは。楽しみと緊張がごちゃ混ぜになって吐きそうになってきた!!



「あ、文くん! ごめん! 待たせちゃったかな?」


「大丈夫! 今来たとこ!」



 嘘です。楽しみ過ぎて朝7時にはスタンバってました。



 いや、浮かれてる場合じゃない。どんな会話から入るのか、ここがモテる男のターニングポイント。


 まず最初は女の子の服装を褒めければ。



「七瀬。その服。いいと思う。うん……めっちゃいい。なんか」



 俺の語彙録クソ雑魚すぎないか?



「文くんはもうちょっと褒め言葉を勉強した方がいいんじゃないかな。でも、ありがとね。文くんもめっちゃキマってるよ」



 七瀬は白い歯をのぞかせながらニコリと笑ってくれた。



「ほら、行こ?」



 七瀬に手首を掴まれ、引っ張れながら歩き始める。


 …………これはもしかして、デートというやつなのでは?



 ハッと我に返り、俺は流れる汗をハンカチでそっと押さえる。



 ……やばいな。


 笑いかけてくれるし、触ってくるし、褒めてくれたし……俺、このままいったら七瀬のこと好きになっちゃう。


 う、あかん、意識したらなんか急に緊張してきた。吐きそう。



「……あの、七瀬さん。本日はお誘い頂きまして、誠にありがとうございます」


「え、どうしたの? なんで敬語?」 



 なんでだろう……なんでだろうね。



「なんで、俺を誘ってくれたんですかね?」


「恋愛映画なんだけど……前から気になってたやつでね。花ちゃんを誘ったんだけど……どうやら天馬と見に行くみたいで」



 ……あっ。察した。



「ほしのん達も誘ったけど、興味ないってバッサリ断られたし……下手な男子とかとは行きたくはないし……文くんなら、来てくれるかなって」



「………………………………楽しもう。映画」


「うん!! えへへ……今日はね。結構楽しみにしてたんだ!」


 

 なんか、浮かれていた気分が全部吹っ飛んでしまった。七瀬は今、ちょっとメンタルが弱っている。


 まら、メンタルケアーに努めるのが俺のやるべきこと。



 気持ちをビシッ!と切り替えて映画館に着き、予約チケットを使ってシアターに入る。


 七瀬が見たいと言った映画は少女漫画が原作の実写映画だった。


 ポップコーンを食べながら、映画を見る。



『転校して来た谷口美咲です……よろしくお願いします』


『……綺麗な子だ』


「…………」



 見ているとどうやら、転校してきたヒロイン『谷口美咲』がクラスの人気者の男子『一ノ瀬雅人』と親しくなって結ばれる的な内容っぽい。



『まーさひとっ!!』


『うわ、なんだ小春か……』



 なんか、明らかに負けヒロイン的な女の子が出てきたんだけど……


 ヒロインの名前は桜井小春。どうやら、雅人君とは中学から3年間ずっと同じクラスで、ずっと片想いしているっぽい。



 この設定、なんだか身覚えが……


 どこか不穏な気持ちを抱きつつ見続けていると、転校したばかりで居場所がない美咲は雅人と小春と交流を深めていき3人はとても仲良くなっていく。


 そして、その中で生まれる美咲と雅人の恋心。それに気付いて、曇り始める小春。


 なんでだろう。主役2人のキュンキュンするシーンを見ると胃がキリキリするぞ。



 ……だ、大丈夫か? 七瀬、自己投影しないか?



「……うん。わかるよぉ。小春ちゃんっ。不安になっちゃうよねぇ……」


 

 めっちゃ、感情移入してる……



 隣の七瀬の反応を見てしまったら、ヒロインの美咲より、負けヒロインの小春に感情移入してしまう。


 物語は進み、無事に結ばれる二人と体育館裏で一人泣く小春。



 チラッと隣の七瀬を見る。



「ぐっ……う、うぇぇっ……小春……ちゃんっ」



 うわぁぁぁ……めっちゃ泣いてる。ガチ泣きじゃん



「つ、辛いよねぇ……!! う、うぅっ……がんば……た。頑張ったよっ」



 なんだろう。見てるこっちも辛い。



『小春ちゃ〜ん。大丈ぶい〜?』



 お、お前は……モブキャラのチャラ男くん!!


 泣いている小春に手を差し伸べたのは映画中ちょくちょく小春にちょっかいをかけていたウェーイ系チャラ男君だった(名前なし)


 正直、ウザキャラであんまり好きではなかった。よりにもよってうちの小春ちゃんに手を差し伸べたのがこいつかよ……



『小春ちゃんがどれだけ一生懸命だったのか、ずっと見てきたよ』



 そう優しい微笑みを浮かべながら言って、チャラ男は黙って……ただ小春の隣にいた。



 は? チャラ男お前……めっちゃいいやつじゃん!!



「ちゃ、チャラ男……さんっ」



 チャラ男くんの行動に見直したと言わんばかりに感動する七瀬。きっとこの映画で最も俺と七瀬のテンションが上がった瞬間だった。


 

 映画が無事に終わり、余韻に浸りながらシアターを出る。



「……小春ちゃんよかったね」


「……うん」



 七瀬と感想を話し合う。


 正直、ヒロインたちの話より小春ちゃんとチャラ男君との話しでめちゃくちゃ盛り上がっていた。



「チャラ男君、いいやつだったなぁ。ウザキャラだったけど」


「だねっ、正直、最後でめちゃくちゃ見直しちゃったよ。あのチャラ男君はきっと今後、小春ちゃんの大きな心の救いになるよ!」



 チャラ男さん。まさかの最後の最後で七瀬の好感度爆上げだった。



「……もしかしたら、小春ちゃんの新しい恋は意外とすぐ近くにあるのもね」


「……ふぅん?」


「雅人君との気持ちに折り合いをつけて、その時も隣にチャラ男君が居て……そこから少しづつチャラ男君へと気持ちが向かっていくのは……おかしなことじゃないと思うから」



 それは……もしかしたら、小春はチャラ男君のことを好きになるかもしれない。ということなのだろうか。



「そいえばあのチャラ男君。なんか文くんみたいだったね」



 くすくすと笑いながらからかうってくる七瀬。



「いや、俺あんなチャラチャラしてないんだけど」



 即座に否定した俺に七瀬は不機嫌そうに頬膨らませながらそっぽを向いた。



「………………そういう意味じゃないし」




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