第34話 探索者の基本とおじさん
赤木くんのレインボーがペカッと迸った瞬間、俺の魔力がググッと彼の体内に流れ込む。
まるでダムの水が一気に放出されたみたいに、ドバドバと勢いよく赤木くんの「中」に注ぎ込まれる。
「入ったぞ、赤木くん! くっ、キッツいな! 全部搾り取られそうな勢いだ!」
「――アッ、すごい、まっさん、なんか熱いのが、入ってっ! はいってくりゅぅ!」
俺の魔力を「中」に注入された赤木くんは「らめぇぇえ」と叫び、ゴリラ顔をさらにゴリラ度120%にして、ウホウホと目を白黒させる。
体がビクビク震え、メイスを握る手がガタガタと揺れ、汗と興奮で全身が油まみれのステーキのようだ。
赤木くんのビクンビクンと跳ねる体をグッと抑えつけて、これでもかと奥へ奥へと流し込んでいく。
そこへ、DDのレンズがキラリと光り、聞き慣れた声が割り込んでくる。
「《偽美怜(本物):ねぇ、ちょっと! 画面いっぱいゴリラなんだけど! 何なのこの状況!? ボクがちょっと離れてる間に何やってんの!?》」
「その声は、偽美怜! ナイスタイミングで戻ってきたな! でも、それどころじゃない! 忙しいんだ、後にしてくれないか!」
赤木くんは「うぁっ!」と叫びながら、目を白黒させてピクピク痙攣中。
レインボーの魔力が体からバチバチ溢れ出し、まるで光のスプラッシュだ。
虹色の光の奔流に、「……赤木くんの体内から出てきた魔力って考えると、キモいな」なんて、思わず顔をしかめる。
が、なるべく気にしないようにさらに次のステップへと進めよう。
「よし、これで魔力を感じ取れただろ? このまま中で動かしてみるから、感覚掴んでみてよ、赤木くん!」
「アッ、ま、アッ、まっさん、やば、やばいってェ!」
「《偽美怜(本物):うわ! 涙に鼻水によだれ! きったないんだけど! 『中』とか『イケる』とか『搾り取る』とか……な、何の話!?》」
「ギャう……」
偽美怜の甲高いツッコミと、ゴブリンの呆れたような鳴き声がダンジョンに響く。
ゴブリンの黒い靄も明らかに薄くなり、なんか元気なさげだ。
いったい、どうしたというのだろう?
俺は一瞬注入作業を止めて、チラッとフワフワしているDDを睨む。
案の定、DDのレンズは赤木くんのゴリラ顔をガッツリ捉え、汗と興奮で赤らんだ顔がドアップで映し出されているに違いない。
「放送事故」という単語が頭に浮かぶが、元々視聴者なんていないんだから、まぁいいか。
「ちょっと外野、静かに! 集中してんだから邪魔すんなよ! 赤木くんも、ゴブリン警戒しつつ『中』にも集中するんだ!」
「アッ、アッ、まっさ、まっさん、なんか、ケツ熱いっ! ケツが、ズモズモって!」
「ほら、君の『中』で俺のが脈動しているのを感じるか? じゃあ、動かすよ、赤木くん!」
俺の魔力を出したり入れたり、赤木くんの体中でグイグイ動かす。
レインボーがバチバチに反応して、赤木くんの体がリズムに合わせて揺れる。
「《偽美怜(本物):白目剥いてガンギマリなんだけど! ねぇちょっと! ちゃんと配信してよ! 『ケツ』とか『感じる』とか何!? 二人、ナニやってんの? なんかヤバいことやってるよね!? 何でゴリラがドアップで小刻みに揺れてるの!?」
「ほら、ここはどうだ? 最初はキツかったけど、もうスッカリ馴染んできたな! 俺も慣れてきたのか、動かし方もスムーズになってきた」
「あ、やば、アッ、なんか、出そう、アッ」
「《偽美怜(本物):『キツイ』とか『馴染む』とか、なんの話!? 声だけだとちょっと……卑猥に聞こえるんだけど……二人とも地味に良い声してるし……あれ? え、そういうこと!? 二人ってそういう仲だったの!? え、待って、そこダンジョンだよね? ダンジョンでナニやってるの!?》」
「だから、うるさいって! 美怜ちゃんが言ってたけど、アンタ、そこそこ上の探索者なんだよな? なら、分かるはずだ。探索者になったらみんな最初にヤることだよ! これができないと話にならないからな! アンタもやったんだろ!? そら、赤木くん、早く!」
「アッ、まっさん、奥に、おほっ、ググッとくる!」
魔力の知覚は探索者にとって、基本の技と言えるだろう。
パッシブスキルの発動もこれができないと話にならない。
探索者なら、最初に習得しなければいけない技術に、違いない!(ドヤァ!)
「《偽美怜(本物):はぁっ!? わかんないし! 奥にグイグイとか、意味不明だし! え、てか、みんなしてるの? マジで? ダンジョンで? え、待って、ダンジョンとか以前にみんな、そんな……? 嘘でしょ?》」
「そりゃみんなヤッてるだろ! 逆に聞くけど、ヤらないでどうやって上に行くんだよ? これ、必須技術だよな? アンタ、本当に上級探索者か? アンタも最初にヤッたんじゃないのか? 」
「ま、アッ、さん、おっ、」
「《偽美怜(本物):ヤるわけないでしょ! しかもダンジョンでそもそもボク経験ないしお尻とかっていや違うし! てか普通はダンジョンでとかありえないからね!? さもこれが普通みたいな感じで言わないでくれる!? うわゴリラの喘ぎ声が近い! DD離れてよ!」
偽美怜の合成音声が早口でまくし立て、焦りと混乱がダンジョンの冷たい空気を切り裂く。
対するゴブリンは、黒い靄がほぼ消えかけ、部屋の隅でビクビクしながらこっちをチラチラと伺っている。
「え? そうなの? じゃあ、どこでヤるのよ? ここ以外に適したところなんてなくない?」
「《偽美怜(本物):ど、どこって……ホ、ホテルとか? あとは家とか……いや、でも、初めては、その、ちゃんとしたとこでしてほ……てか、知らないし! ボクに聞かないでくれる!?》」
「家とかホテルって、危なくないか? 思いっきりヤれないだろ? ここなら、体も軽いし感覚も鋭くなってて、なんか色々感じやすくなってるし」
「《思いっきりヤるとか、感じやすいとか、ナニソレ!? ダンジョンでそんな……え、まーくん、いつもそんな激しいの!? そんなのボク知らないんだけど! もういいから説明してよ!》」
「説明してる暇なんてないんだよ! 」
「アッ、アッ、アッ、お、お、おぅ!? な、なんだ、この感じ!?」
「ん、どうした、赤木くん? イケそうか!?」
「あ、あぁ、まっさんのが、俺の中にズモズモって入ってきたと思ったら、こう、頭真っ白になって、気づいたら、体の奥底からグワって! ヤバイこれ、癖になりそう……」
「よし、いい感じだ! もっとだ! もっと感じるんだ! 君のもだいぶ解れてきて、スルスル動かせるぞ!」
「《偽美怜(本物):だ、か、ら! 二人、ナニヤってんだよ! ヤッてんの!? ねぇ!? もうヤってるよね!? 40歳のおじさん二人が、ダンジョンでヤッてんだよね!? いや、何でだよ! 意味分かんない! ちょっといい加減ゴリラのアップ止めてよ!」
偽美怜がさっきから意味不明なことをギャーギャーと騒がしい。
うるせぇな、お前はゴブリンか。
しかし、さすが赤木くん、すぐにコツを掴んだみたいだ。
このまま、自在に操れるようになればスキルの発動もすぐだ。
職道楽のスキルもこれでなんとかならないだろうか、と期待も高まる。
「アッ、なんか、こう、ググッと来て、俺の奥でドクドクって……まっさんのが、すげぇ、熱いっ! イケ、イケそうだ、まっさん!」
赤木くんの声は、興奮と混乱が入り混じった甲高いトーンでダンジョンの壁に反響する。
彼のゴリラ顔は汗と涙でテカテカに光り、白目を剥きながらもどこか恍惚とした表情を浮かべている。
俺は赤木くんの体内に魔力を流し込みながら、感覚を掴ませるためにリズムを変えてグイグイと動かす。
レインボーの魔力が赤木くんの全身を駆け巡り、まるで花火が炸裂するみたいにバチバチと輝きを放つ。
「よし、赤木くん! それだ、その感じだ! しっかり掴めよ! 魔力の流れ、感じ取れてるだろ?」
「アッ、感じる、感じるぅ! なんか、俺、自分の体が自分じゃないみたいに……うおっ、ふぉぉぉぉ!」
その瞬間、赤木くんの全身の穴という穴から迸るレインボーの輝きが、一気に爆発した。
屋敷の畳部屋が、まるでバブル時代のディスコホールみたいにカラフルな光で埋め尽くされる。
「グギャッ!?」
呆れてアホ面をかましていたゴブリンが、ビクッと顔を上げ黒い靄を揺らして怯む。
目がギョロリと光り、俺たちの魔力の奔流に圧倒されたのか、二歩三歩と後退る。
「まっさん……いや、Mr.葛木。君に、感謝を」
「Mr.? う、うん、いいんだ、赤木くん。それよりも、魔力は掴めたの?」
赤木くんは薄く微笑んでおり、菩薩のような慈悲深さを感じる。
「ああ、君のおかげだ、Mr.葛木。我は『到』った。――そう、魔導の真髄へと、ね。」
「相変わらず流暢な『Mr.』が鼻につくなぁ、君。いや、待てよ? この言葉で表せない香ばしいウザさ――まさか、赤木くんっ!?」
「この、感じ……! 我の『中』で、ドクドクと脈打ってるッ! ふふ、ふははは! これが、これが我の――『魔力』ッ!」
――ドゥっ!!
赤木くんの
「あ、赤木くん!」
「《偽美怜(本物):な、なに!? 画面がまっぶしくて何も見えないんだけど!》」
ゴリラ顔は汗と涙で輝き、まるで神聖な戦士の如く堂々と佇――いや、待て!
赤木くんは、右手で片目を隠し、首だけこちらを向く。
その背後には、虹色の光が無数の煌めく刃となって放射状に広がり、空間を切り裂くようにバチバチと火花を散らす。
「ま、まさか……!?」
「グレイト・マジック・キャスター・アカギ。――『再臨』」
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