第22話【ププラと仕掛けと、ナイト】
飛んできたスペースシャトルを見て俺が考えたことは、
1・アトラクションのトラブル
2・なにかのイベント
3・刺客の攻撃
など色々あるが。
とりあえず実際に行動したこととしては、
「あぶない!」
サツキの手を引いて身をかわすことだった。
本気をだせば、あの程度のスピードで飛んでくる小型の乗り物くらい難なく受け止めることはできるだろうが。
さすがに変にリスクを背負うよりは回避を優先すべきなのは明らかだった。
俺はサツキと抱き合うような格好になりながら、芝生の上を転がり。
すぐに態勢を立て直して立ち上がった。
サツキももちろん同様に、立ち上がり戦闘態勢をとる。
一方のスペースシャトルは、地面にぶつかる寸前で上空へと舞い上がる。
これでアトラクションのトラブルという線が消えたのを察した。
近くに居合わせた客室たちは、
「なになに?」
「なんかのイベントか?」
などと呑気に話したり、スマホで写真をとったりしている。
「どうしたどうした! まだ終わりではないぞ!」
そしてまた、どこからともなく謎の声が聞こえる。
どうやらこの声は、スピーカーを通してこのあたり一帯に流れているらしい。
スペースシャトルに乗っているのかと目を向けると、座席にはププラの着ぐるみが鎮座しているのがわかった。
あのププラが操縦しているのか、遠隔操作されているのかは判別がつかなかったが。
ただひとつ言えるのは、あのスペースシャトルは間違いなく俺やサツキを狙っているということだった。
イベントであるかのように、他の客に近づいて旋回したりもしているが。
そのなかでなお、動きが明らかにこちらを警戒しているのが理解できたからだ。
「刺客、か」
ついにやって来たこの事態に武者震いがする。
それにしても、空からの奇襲とはさすがに予想外な相手だが、そのくらいの想定はこれまでにしてきたつもりだ。
だから石かなにかを投げて撃墜することもできなくはないが。
いま不用意にそれをして撃墜して、周りに被害が及ぶのも好ましくない。
それよりは、目論見を崩す簡単な方法がある。
「サツキ、こっち!」
「あ、うん!」
俺はサツキの手を引いて駆け出した。
スペースシャトルはそれを受けて、不自然ではない動きでこちらを追ってくる。
なので俺は、"ププラのびっくりスターハウス"というアトラクションの建物に待避した。
建物の中に入りさえすれば、さすがにあの乗り物のまま突撃するわけにもいかないはずだ。
※
≪空手着の男視点≫
「標的は"ププラのびっくりスターハウス"へ逃げ込んだようだな」
『…………了解。プランBに移行する……』
我の報告に、簡潔な返事がかえってくる。
我らの仇敵である吉良桜の孫、皐月。
長年の悲願が叶うまで、あと少し。
柄にもなく、心臓が早鐘を打つのがわかった。
※
建物の中に入った俺は、ひとまず追撃がないことに息をつく。
「とりあえずここで、様子を見るか」
俺はサツキを連れて入口から離れる。
建物の中に目をやるとそこは、学校の教室くらいの部屋の壁に、大きな扉がひとつあるだけのものだった。
そこへ、
「こんにちはだプゥ!」
いきなり床の板を開けて、びょんと飛び出してきた着ぐるみのププラに、思わず拳が出そうになった。
「ププラのびっくりスターハウスによく来たプゥ! ここにはたくさんの面白い部屋がキミたちを待っているプゥ!」
そうしてププラはテンション高めにアトラクションの説明をはじめていく。
当たり前だがさっきのスペースシャトルに乗っていたのとは別人(別ププラ?)のようだった。
しかし、だからといって中の人が刺客である可能性は否定できない。
「さあ、びっくりぎょうてんの、ふしぎな世界へレッツゴーだプゥ!」
「あ、いや俺たちは……」
警戒し、後退る俺とは対照的に、ププラはどうぞどうぞと扉を指差し、来たんならさっさと入れとばかりに先を促してくる。
参ったな。これでこのププラが刺客じゃない場合、俺たちはとんだ迷惑客になってしまうが。
「いいじゃない、リュウくん。ただここで様子を見てるだけっていうのも退屈だし」
そんな俺を見かねてか、サツキはそう言って、俺の手を取り扉へと歩み寄る。
少し能天気なサツキの態度に、さすがに苦言を呈するべきかとも思ったが。
すぐに、まあいいか、と思い直した。
何かあればすぐに引き返すなりなんなりすればいい話だ。
そうして扉を開けて、びっくりスターハウスとやらに足を踏み入れた俺達は……。
普通にアトラクションを楽しむ形になった。
中は色々とびっくりな仕掛けが満載で。
階段にみせかけた壁や傾いているように見える床などが満載の部屋や、
床や壁全体がトランポリンのように跳ねる仕掛けの部屋、
更には家具が上下逆さまに置かれた部屋なんてのもあり、
うっかり刺客のことを忘れそうになるくらい、面白い部屋がたくさんあった。
そうして、すっかり毒気を抜かれつつ、俺たちは新しい部屋へと足を踏み入れた。
そこそこ広めのその部屋は、全体が鏡張りになっており、たくさんの俺やサツキや、他の客の姿が映し出されて目が痛くなりそうだった。
「……ひっく、ひっく。おとうさん……どこ……」
しかしそんな部屋の隅で、泣いている女の子がいるのが目に留まった。
その子は、かわいらしい赤のワンピースを着た、小学生くらいの子だった。
周りの客たちは、不人情にもほとんど見てみぬふりをしてそそくさと別の部屋へと去っていく。
内心穏やかではいられず、それと同列になりたくない俺は声をかけようと近づいたが、それよりも先にサツキが既に駆け寄っていた。
「どうしたの? おとうさんとはぐれちゃったかな?」
サツキの問いかけに女の子は目に涙を溜めたままこくん、と頷く。
「そっか。お姉さんはサツキって言うの。あなたのお名前は、なんて言うのかな?」
「……つばさ」
「つばさちゃんか、いい名前だね」
サツキがにこりと笑うと、
つばさちゃんも、えへ、と少し笑顔をみせてくれた。
なんとも微笑ましい光景に、俺も自然と笑みがこぼれる。
「それじゃあお姉さんと一緒に、おとうさんを探しに行こうか」
「…………うん!」
サツキはつばさちゃんと手を握り、非常口のほうへと歩みを進める。
なので俺は一旦その進行方向へと先に駆け出し、その先や外に刺客の影がないかを確認しておくことにした。
非常口の扉を少し開けて外を確認すると、さっきの広場へと戻る形になったが。
空にも地上にも、さっきのスペースシャトルは見当たらなかった。
ほっと息をつき、サツキ達に声をかけようとしたが。
振り返ると、サツキの姿も、つばさちゃんの姿もなくなっていた。
「え?」
周囲が鏡が多いせいで、死角になってしまったかと思い。
慌てて部屋のなかに舞い戻り、そこかしこに視線を送り、声をあげて呼んだりもしたが。
サツキやつばさちゃんどころか、唐突に他の客の姿もなくなっている。
鏡に映るのは、俺ただひとりだけだ。
ほんの数秒で一体なにが、と血の気が一瞬で引く一方で。
「心配せんでもいい。人払いをして、密かに作った隠し扉から、別の部屋に案内しただけのこと」
そんな言葉と共に、鏡のひとつがどんでん返しになってくるりと回転した。
そして現れたのは、明らかにカタギではない顔と体格をした、空手着を着た中年の男。
「さて……。前座にしては、ややお粗末な気もするが。お姫様を守る
発せられたその声が、さっきスピーカーから聞こえていた声の主と同じであることはすぐにわかった。
コイツが、サツキを狙う刺客。
そのことを理解した俺は、即座に両の拳を固く握りしめた。
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