眠れるもの -大災禍怪獣起因説-

堺栄路

プロローグ「それから」

 これは僕がとった一枚の写真だ。

 それは舞い上がる灰の中で立つ、鱗を持つ獣の姿である。巨大なハ虫類か、さもなければ幻想種の龍にほど近いそれは、大災禍以後、人類が最初に目撃することとなった、新たなる万物の霊長である。

 今でこそ、大災禍の原因は怪獣による物だと信じられているが、これを撮った当時は、まだ原因が特定されていなかった頃だ。怪獣はフィクションの生き物として考えられていた。だからこの写真は、世界に怪獣という概念を広めるきっかけになったんだ。

 僕は未だ、この写真を世界に広めた事を頭の片隅で後悔している。確かにこの一枚と、著作『大災禍怪獣起因説』によって世界は変わった。人間は怪獣に立ち向かうことを選び、人類史初の、そして地球統一国家が誕生した。

 けど、僕の中で、ずっと消え去らない考え方がある。

 だけど、と頭の中で言い続ける自分がいる。

 本当に怪獣は、戦うべき相手だったのだろうか。僕たちはただ、誤った出会いをしてしまっただけなのではないか。

 浦嶋杏子のことを考えるたびに、その考え方は僕の頭の中を支配した。

 ――だから、確かめることにした。

 僕は今、南極探査船に乗り込んでいる。年齢や体力的に無茶な旅だというのは分かっている。白土しらどにも、みんなにも止められた。でも、今までの功績を全て並べて、あらゆる特権を使ってねじ伏せた。普段の僕からは思いもつかないようなやり方だったから、みんな相当に驚いただろう。

 けれどどうか許してほしい。これは最後の我が儘だ。

 僕は南極へ行く。

 あの龍ともう一度会わなくちゃいけない。それが、短いこの先の人生に残された、唯一にして最大のやり残しだから。

 ……。

 …………。

 眠くなってきた。

 探査船は旧オーストラリア大陸を出たところ。南極へたどり着くにはまだまだかかる。

 一休みしよう。体力を温存しなくっちゃ。

 ベッドに横になり、目をつぶる。

 体が鉛のように重たくなって、僕の意識は、深い深い底へと沈んでいった。

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2025年1月6日 11:00
2025年1月10日 11:00
2025年1月13日 11:00

眠れるもの -大災禍怪獣起因説- 堺栄路 @sakai_age

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