6.小さくて大きい先輩

【学食の黒渦】を見つけてから三日、ここ最近は平和そのものだった。

 強も飽きたのか、新たな七不思議を探そうとはしていないようだ。

 とは言っても皆人の元へ来ていないだけで水面下で準備を進めているのかも知れない。

 どちらにせよ皆人にとっては平和ならなんでも良かった。


 皆人は頬杖をつき、二日前のローズとのやりとりを思い出す。

『無口喰臥ファンクラブ会員番号0001』巨傲久美子は自分と同じ、いやそれ以上の地位を皆人に与えたいと言った。そこまでしなくても良いと言う皆人の言葉を彼女は最後まで聞くことはなかった。

 結局お互い折り合いをつけ、皆人をに就ける事でこの話は終わった。

 律儀な金髪縦ロールだった。


「最近求平の奴来ないな」


 六時限が終わり、秋山は振り返ると皆人へと声を掛ける。


「良いんだよ。平和だろ?」


 怖い話をすると霊が寄って来ると聞いたことがある。強も同じだ。その名はできるだけ口にしない方が良い。

 皆人は一考して口元を歪める。


「どうした?」

「いや、嵐の前の静けさって奴かな? 嫌な予感がする」

「虫の知らせって奴か?」

「そんなとこだけど……あぁ、もうやめやめ!」


 嫌な事は頭からっぽにして考えるのを放棄。皆人は強引に話を打ち切る。

 ちょうどHRが始まる。どちらにせよ終わり、あとは帰るだけなのだ。


「では皆、気をつけて帰るように」


 最後に担任の話を聞いて皆で礼。

 秋山と別れを告げ皆人は鞄片手に教室を後にしようとして、


「よぅ皆人! 息災か?」


 諦めたように天を仰いだ。扉を開けると奴がいた。

 皆人は頭を押さえ、その場をどう凌ぐか思案して目を泳がせる。

 なんなら本当に痛くなってきた気さえする。思い込みってのは怖い。


 皆人は強から目線を逸らせていると何かが目に入りそのまま視線を落とす。何故か強の横には喰臥がいる。

 それを見て皆人の痛みは少し和らいだ。思い込みってのは単純である。


「少なくともお前のせいで頭痛がしてきたよ」

「はっはー、冗談が上手いなぁー、なぁムック~?」


 逆撫でするような棒読みである。


「ん? 待て、ムックって何だ?」


 一瞬何かのマスコットが頭に浮かんだのだが気のせいだろうか。いや、気のせいに違いない。

 皆人はそう思い込み、強へ投げ掛けた。


「無口だからムックだ! 大丈夫だ。許可は得た!」


 皆人は強の言葉を半信半疑で聞きながらムックと呼ばれた少年へ目を向ける。

 彼は大きなリュックを背負い何も気にしない様子でポップコーンを口に放り込んでいた。

 その可愛さに当てられながらも皆人は地面を力一杯掴む。ここで倒れるわけにはいかない。

 まるで最終決戦前の勇者の気持ちだった。


「まぁ、本人が良いならいいよ。で?」


 ここからが本題。答えは分かっているのだが一応聞いておくことにする。


「何の用だ?」

「七不思議だ!」

「だろうな!!」


 逆にそれ以外の用事があるなら快く受け入れるつもりだった。

 分かりきった事を聞いた後はこれも聞いとかないといけない。

 皆人は無口喰臥に目を向ける。


「何でムックがいるんだ?」


 周りにはローズはいない。強とムックの二人だけだ。

 いつもローズが付きっきりって訳ではないが、それでもこの二人だけが一緒に居ることに違和感を覚える。

 皆人の考えが正しければ強はムックを食べ物で釣って連れてきている。それは何故なのか、答えはでない。

 そして考えている間に思ったのがふと流れでムックと呼んでしまったのだが、なかなかどうして、確かに呼びやすい。

 自分も使わせて貰おう、そう決めた皆人だった。


「ムックをある人に会わせようと思ってな」

「ある人?」

「ああ! 先輩だ!」


 チビなのにでかい、不意に投げられたなぞなぞに皆人は首を傾げる。

 そもそも強に先輩の知り合いがいることにびっくりだ。皆人の知らない所でどれだけ顔を広めているのか。謎が深まるばかりである。


「それでその先輩はどこにいるんだ?」

「放送部だな」

「ってことは放送室か……放送室ってどこだっけ?」

「職員室の横だよ。皆人は何にも知らないんだなぁ~」


 強のやれやれってジェスチャーが鼻につき皆人の眉が上がる。

 普通に高校生活を送っていたら関わりない場所だ。

 というわけでこのまま一生関わらないまま生涯を終えたい。

 皆人は回れ右をし駆け出そうとするがしかしムックに回り込まれてしまった。

 一言も発さず、小さい両手を広げた通せんぼ。

 強にいくら貰ったのか、いや、ムックの場合何を貰ったのか、どちらにせよムックの可愛さに当てられ詰みである。

 皆人は素直に同行する事にしたのだった。

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