大器晩成おっさんは辺境で楽しく暮らしたい ~三十歳で最強になったけど冒険者にはなれません~
長尾隆生
第1話 おっさん、転生する
白い。
辺り一面真っ白な空間に俺はいた。
「シンイチ……シンイチ……聞こえるかい? シンイチ」
呆然と白い空間を眺めていた俺の耳に、そんな声が届いた。
と、同時に目の前に何やら白い靄のようなものが何も無い所から湧き上がり、ゆっくりと人型に姿を変えていく。
「これなら君にも僕の姿が見えるかな」
人型の靄の口当たりが動き、中性的な男性の声が真っ白な空間に響いた。
「えっと……あなたは? というか、ここってどこなんですか?」
「ここは世界の狭間。そして僕は君たちの言う神様だと言えばわかりやすいかな。まぁ、君が住んでいた世界とは違う異世界の神だけどね」
異世界?
神?
「それってまさか」
「君たちの世界の人は察しが良くて助かるよ」
神と名乗った男は小さく笑って続ける。
「今君が思い浮かべたように、これから君には私の世界に生まれ変わって貰いたいんだ」
「生まれ変わるって……異世界転生ってやつですよね」
俺の言葉に自称神は頷きで応える。
「というと俺はもう死んでいて魂だけの姿になっているってことですか」
「そういうこと。まぁ、一応身体は無事だったけど、身体ごと転移させようとすると色々面倒が多くてね」
身体は無事って、一体俺はどんな死に方をしたのだろう。
たしか仕事終わってから、ボロアパートで飲むためにコンビニでニッカのリッチブレンドを買って帰った所までは覚えている。
同僚はディープブレンドの方が美味いと言うが、俺はリッチブレンドの甘い香りが気に入って、家呑みは基本リッチブレンドにしていた。
「それで、呑む前に先に風呂に入ったんだっけか」
「それ以上思い出そうとするのは辞めた方がいいよ、シンイチ」
「えっ」
おぼろげに死んだ原因にたどり着きかけた俺の思考を、自称神が止める。
「もうすぐ君は生まれ変わるんだし、死んだときのことなんて思い出しても百害あって一利無しだよ」
「そういうものなんですか?」
「そういうもんだよ。それじゃあ、早速生まれ変わらせたいんだけど何か聞きたいことはないかな? 一つだけ答えてあげるよ」
「聞きたいこと――そういえばどうして俺を異世界転生させようとしてるんですか?」
「それはね、君にとても強い『運命』を感じたからさ」
自称神は微笑しながら答える。
「君ならきっと、僕の世界を変えてくれるだろうって」
「それってどういう意味なんですか?」
だがその問いかけには自称神は答えてくれず。
「さてと、それじゃあ早速だけど転生させちゃうね」
「えっ、でもまだ俺は何も――」
「心配しなくてもちゃんと『チート能力』は授けてあげるから安心していいよ」
自称神は指を一本立てながら続ける。
「それと赤ん坊の時から前世の記憶があると大変だって、昔転生させた異世界人が言ってたから、五歳の誕生日に全て思い出すようにしておくよ」
「昔って、俺以外にも転生者がいたのか……」
「もう死んじゃって輪廻に戻ってしまったけどね。さて、それじゃあ行ってらっしゃい」
そう言って自称神は立てた指を俺に向ける。
そして俺の全身に不思議な感覚が広がった。
「いや、まだ聞きたいことがっ! それに俺のチート能力も、どんなものか聞いてないのにっ!」
ゆっくりと足下から徐々に感覚が無くなっていく。
ふと下を見ると、既に腰あたりまで不思議な光に包まれていた。
「そうだった、教えるのを忘れてたよ。君のチート能力は――」
瞬間。
俺の視界は暗転し、音も消えて――
次に俺がその記憶を思い出したのは五歳の誕生日の朝だった。
「結局俺の能力って何なんだよ!」
その日から俺の『自分のチート能力が何なのかを調べる日々』が始まったのであった。
*****
2話目は0時過ぎに更新予定です。
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