琥珀の妖女の後宮入り

篠月黎 / 神楽圭

1.妖女、寵愛される

「おはよう。今日も美しいね、私の可愛い玲明レイメイ


 透き通るような黄金色の髪に湖のような碧眼を持つ第四王子は、今日も優しく囁きながら玲明の手を取った。


「こんなに美しい君に毎日会うことができるなんて、私は本当に幸せ者だね」


 その手の先の玲明は、極上の香を焚き、これまた極上の絹で作られた真っ青な衣装に身を包み、彼女の射干玉ぬばたまの髪によく映える金の飾りで髪を結っていた。


「ありがとうございます、颯秀ソウシュウ殿下。私も毎日殿下にお会いできて幸甚の至りですわ」


 春の日差しのように微笑んで返せば、2人を見ていた侍女が目の保養とばかりに溜息を吐く。


「では、颯秀殿下、玲明第四王子妃様、私は失礼いたしますので、おふたりでごゆるりとお過ごしください」


 うやうやしく頭を下げて侍女が出て行き、2人は微笑みながらそれを見送って――扉が閉まった瞬間に玲明は素早く手を引っこ抜いた。颯秀は、突然握る先のなくなった手をぼんやりと見つめる。


「そう嫌がらなくともいいじゃないか」

「嫌がるに決まってるでしょ、毎日毎日飽きもせずに歯の浮くような挨拶を並べ立ててベタベタ触って! 大体おはようじゃなくてこんにちはよ、太陽を見てみなさいよ! たまには朝に起きなさいよ!」

「そこまで言うなら今晩は一緒に寝ようか。君の声で起きる朝なら悪くない」

「冗ッ談じゃないわよ叩きだすわよ!」


 髪を一房すくいあげる王子の手を払いのけ、まるで汚らわしいものにでも触られたかのように、玲明は自分の手を庇う。


 しかし颯秀はどこ吹く風で、それどころかおっとりと微笑んで。


「恥ずかしがりやな君も可愛いね、私の玲明」

「それ以上言うとはったおすわよこの歩く変態!」


 一族郎党処刑されたトウ家の生き残りは、その甘ったるい言動に誰もが振り向かずにはいられないほど、第四王子に寵愛を注がれている。

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