第5話橋を渡れば
厳しい視線を向けて来る
「ここの公衆浴場は神殿から独立してるんだけど、西部にある方が立派なんだって」
「よしっ」
彼女の一言で期待を膨らませたエウリュアレは拳を強く握り締める。
その後もシャルたちは、
「わあ、すごーい♪」
栗色の長髪を風に
穏やかで真っ青な
橋の上は
すごいすごいとしきりにはしゃぐツェーニャを「はいはい」とたしなめるカナリア。そんな彼女も微笑に目を細め、景勝に
こうして
「なんか、天の上を歩いてるみたい」
「そうね。なんか、わかるかも」
感慨にふけるツェーニャは
しかし、渡り切った西岸は
(なんだ……?)
違和感を覚え、鬼面の下で視線を周囲に走らせるシャル。
雑踏の中、辺りを見渡す冒険者。その数の多さに妙な胸騒ぎを感じた。
物々しく異様な雰囲気が立ちこめる西岸の橋塔周辺。武器に手を掛ける数人の冒険者が市中だというのに武器を片手に、橋の関所を背にして辺りを警戒していた。
「シャル……」
振り返ったミュリンが不安げな顔を受かべている。
「ちょっと、事情を聞いて来るわ」
ツェーニャが
ひとまず様子見という事でバランが
「何があった?」
隊の後方に控えていた鎧姿の青年が
「分らんから今、聞きに行ってもらっておる」
「帰って来たのじゃ」
隊を先導していた狩人装束にキャラメルブロンドの
この状況の原因はというと、
「なんでも、不正をやらかした冒険者を捕まえようとしてるみたいね」
「不正、だと?」
ツェーニャの言葉に怪訝な表情を浮かべてグラキエースが聞き返す。
二人が聞いた話だと、
誰もが辺りを見回し、商人や町人は冒険者の関心を引かないように身を潜め、通りの真ん中を
「見つけたぞメルティナ――――!」
「っ⁉」
高々と跳躍し、戦斧を大上段に構えた有角の偉丈夫が影を落として降って来る。
狙いはミュリン。シャルは
「チッ 運のいいヤツめ……」
土煙を上げながらユラリと男が立ち上がる。
「誤解だ。この子はミュリン、間違ってもメルティナなんかじゃない!」
間違いに気付かせるため、
「おいおいおい。そんなこと言って、
「――っ 馬鹿が……ッ」
戦斧を構え、間違いを認めない男に苦虫を噛み潰したシャルは毒づく。
「こンの、バカヤロウがッ!」
「? アニキ?」
慌てて駆け寄って来たのは軽装な鎧に身を包む中年。
「確かに服は白いが、あっちはもっとボンキュッボンでブルンブルンなんだよっ こんなちんちくりんなワケあるかっ!」
「ちっ――――」
ちんちくりん。その言葉にミュリンは顔を引き
「そうだったのか。さすがアニキ、スゲェ!」
「いいから行くぞ! ったく……」
「まぎらわしいナリしてんなよ、ガキ!」
男は戦斧を肩に担ぎ、捨て台詞を残して去って行った。
「もうっ なんなの、一体⁉」
とばっちりを受けたミュリンは顔を真っ赤にして
「屋根の上じゃな」
「ん?」
ルプセナの言葉に視線を建物の屋上へと向けた。すると、様子を窺うように身を乗り出している
それに気付いたツェーニャが声を上げると、慌てた様子で屋根の向こうに姿を消した。
「あの子が、メルティナ?」
「十中八九、そうじゃろうな」
カナリアの問いに頷くルプセナ。でなければ、焦って逃げたりはしない筈だ。
(なんだ、これは……)
彼女の姿を見た途端。シャルの胸中がざわざわと騒ぎ、鉛のような不安が
自分はどうしてしまったというのか。
(一体、何があるっていうんだ…………?)
縁も
「どうかしたの? シャル」
ミュリンは不思議そうな顔を浮かべて
自分の変化に困惑し、居ても立っても居られなくなったシャルは説明の時間すら惜しかった。
「ゴメン、ちょっと様子を見て来る」
「え?」
困惑する少女を無視してシャルは腰元の
「
シャルの足元から風が舞い上がる。結界術式の一種で、気流を
異変を察知した周囲の仲間が驚いてこちらに視線を集中させた。
「ちょっ シャルっ⁉」
「すぐ戻る!」
言うが早いか、【
「待たんか! 将たる者、自らの軽挙妄動――」
バランの
確かめるしかない。屋根に降り立ったシャルはメルティナを探すため、周囲を見渡す。
そして、居た。
作戦は冒険者
マントには【
体内に魔力を
(え――――?)
逃げるメルティナ。彼女の姿が一瞬、薄紅色の巫女装束を来た少女の影と重なる。
(テミ、アス…………?)
いや、違う。頭の中で即座に否定するも、焦燥感は募るばかり。まるで引き寄せられるように徐々に速度を上げていく。それに気付いて自身に制動を掛け、一旦距離を取った。
やがて
「信じてください。わたくしは、何らやましいことなどしておりません。ただ、あの人が。
悲痛な叫びが空に響く。しかし、それを信じる者は誰一人としていなかった。彼女の言葉に耳を傾けるものなどおらず、戦端が開かれる。結界を展開しての健闘も虚しく、腹部に蹴りを喰らったメルティナは地面に転げ落ち組み伏せられる。
その姿がまた、
「…………ッ」
テミアスは死んだ。もう、居ない。頭では分かっている。それでも焦燥が胸を焦がし、今すぐ声を上げて駆け出したい衝動が込み上げるのを歯を食いしばって必死に耐える。五体を支配する不快感に総毛立ち、
彼女の元へ近付く度に呼吸が乱れ、肩が上下する。喉を引き絞って息をひそめ、握りしめたマントの繊維に爪が食い込む。長く大きな尻尾が不快に身を
「たすけて」
救済を願う彼女の声を聴いた瞬間、シャルの中で何かが弾けた。
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