第7話 待ちかねたぞ
《敵ゲイズチェイサ、確認――っ……”バハムート”、”ノーヴェ”です!!》
《やはり来たか》
オペレーターとヨハンは、想像通りの敵がやってきた事に苦渋の意を漏らす。
”マサムネ”の姿は、案の定無い。
だがあの二機の傍らに、見慣れない機体が平行して飛んでいた。
スタイリッシュな骨格は深緑の装甲で覆い尽くされ、手脚はしっかりとした形状で、ゴーグル型複眼を有する頭部は戦闘機のパイロットを思わせる。
旧地球連盟”ウィルペイン”の非正規発展機――”サーティペイン”。
色は違うが、この機体のプラモデルは当時 棚の守護者と揶揄されていたのを覚えている。
おそらく、機体カラーからして乗ってるのは”マサムネ”のパイロットだろうか。
本編ではあり得なかった展開だ。
そもそも、この戦闘にはアスカが参戦しているはずなのだ。
あそこでアズチを殴り、ミハイルの意見を無理矢理捻じ曲げて、彼女は”アストラル”に乗り込んで戦う。
だがどういうわけか、気が立っている彼女が出撃してくる気配はない。
――意気消沈したか?
彼女らしくない、がウィザードは苦い顔を浮かべていた。
このままアスカが戦わなければ、あの結末を避けられる。
だが、大きく一つ変われば、追随して何かが大きく変わる。
――定められた目的地、定められた場所へと行くための道標。
あの少女の言葉が脳裏に浮かぶ。
「受け入れろと言うのか……目の前で、あの結末を」
「許さねぇ……許さねぇぞ……!! 変態ロマンチストが!!」
翡翠に輝く機体の中で、金髪の男 イガクが怒鳴り声を上げた。
サブモニターには、仲間である他の二人の姿が映っていた。
《ねぇ、アリア。あの変態、落としちゃってもいいよね?》
《いちいち聞かなくたってわかるでしょ。地球の人間は根絶やしよ》
桃髪の娘 マーチの言葉に、白髪の男――アリアは女性らしい言葉遣いで返事を送る。
イガクはそんな、自分たち作られた人間に与えられた使命を忘れてしまうほどに、自分に屈辱を与えてきた人間へ怒り心頭であった。
愛だのへったくれだの、気持ち悪い言動のクセして機体の操縦だけはピカイチ――気に入らない。
”マサムネ”の方が何倍も強いはずなのに。
《いいかしら、アタシ達〈スピーラー〉の役目は地球市民の撲滅、それさえ果たせばいいの》
《うん!! 分かってるよ、アリア!!》
――イガクは落ち着きを取り戻す。
宇宙市民の代弁者〈プライムテラーズ〉。
自分たちは、地球市民の根絶やしと宇宙市民の再生だけを考えればいいのだ。
敵を見定めた”ガーゴイル”は、すぐに敵の元へ飛翔しようとはしなかった。
ウィザードは深々と考え込んでいたのだ。
(これから先のシナリオは……セカンドシーズンにおいて重要な分岐点)
セカンドシーズン第三話辺りに位置する今――敵の正体が判明するとともに、物語が急加速していく。
あの三機のパイロットは、人ではない。人間に限りなく近い、兵器のような存在だ。
彼、彼女ら〈スピーラー〉を生み出したのは、旧アーク連邦の残存勢力や結束連盟への不信感を抱いた者で構成された組織〈プライムテラーズ〉。
奴らは結束連盟へ反旗を翻すべく、三機の〈レギオン〉の圧倒的なパワーを用いて、地球へコロニーを落とす。
情報統制は出来ても、被害拡大は防ぐことができないため、結束連盟への不信感は少なからず生まれる。
それが奴らの目的であり、平和になったはずのセカンドシーズンの世界が完全なる平和ではないことの裏付けだ。
「考えていても仕方がない、先手必勝!!」
”ガーゴイル”は翼を展開し猛進。
二機のレギオンをビームピストルの照準に定めたが、割り込んできた”サーティペイン”の妨害を受ける。
振り下ろされる巨大な剣――”ガーゴイル”は即座にスラスターを吹かす。
空振りにも関わらず、鼓膜を唸らせるような空を薙ぐ音をセンサーが捉えた。
怖気づくことなく、ビームセイヴァーを抜刀。
お得意のバレルロールで相手を翻弄しながら、翡翠の戦士の懐へと潜り込む。
が、奴も安々やられる気はないらしく、攻撃は煌々とする刃によって防がれた。
対艦刀――熱エネルギーへ物量を上乗せして、ビームセイヴァー以上の切断力を誇る武器。
これと鍔迫り合いをするのは、正直いって分が悪すぎる。
《テメェだな……! 俺をコケにしやがったのは……!》
「貴様にはこの機体のほうが似合うぞ。安心しろ、褒めている」
《黙れぇぇぇぇぇぇッッ!!!!》
押し切られそうになったのを境に、”ガーゴイル”はその場から撤退。
ビームピストルを乱射し、紅の嵐を巻き起こそうとも、”サーティペイン”は容易く見切って追跡してくる。
「”サーティペイン”は”マサムネ”より機動性では上なのだろう。だから似合うと言ったのに……」
《テメェ…………!! おちょくるなよぉっ!?》
とはいえ、”マサムネ”でもイガク用にカスタムされた”サーティペイン”でも、”ガーゴイル”ではスペックで大きく劣る。
だが〈フォースレヴ〉を使う訳にもいかない――いや、使える確証もない。
「これは危機――すなわち、ピンチというやつだな」
《いちいち言い換えるな!!》
「言い換えるな――つまり、このウザイ喋り方をやめろと? フフ、無理とだけ言わせてもらう」
《殺す!!》
”ハンドレッド”の格納庫では、メカニック達が次々と退却を始め、入れ替わるようにゲイズチェイサが発進準備を進めていた。
ミハイルの乗り込む”サウザンド”が、カタパルトデッキにつく。
行く手を阻むキャットウォークは撤去され、ハッチが開いて、遠くで赤々とした交戦の軌跡が伺える紺碧の空を、その瞳に写す。
(ミスター……ウィザード)
名前に、顔を隠すための仮面――彼女だからこそ、そんなことをする意味は両方よく理解できる。
だが、そういう思考に陥ってしまえば、次に来るのは疑念だ。
彼はどういう目的でここに来たのか。そもそも、一体何者であり、何を知っているのか。
(仲良くなれると、思ったのにな)
めったに巡り会えない、同年代の軍人――が、疑念を持ったまま付き合っても、それは単なる友人ごっこだ。
バイザー越しの赤い瞳が目蓋に閉ざされる。
額に残る痛々しい傷跡。
医療が発達し、再生治療などそう高額を費やさずに出来る世の中で、彼女がそれを残す理由は後悔しているからに他ならない。
《進路クリア、”サウザンド”どうぞ!》
ミハイルは吐き出したいものをぐっと飲み、それを原動力に無理矢理変換する。
「ミハイル・バジーナ、”サウザンド”出る!」
紺碧の空に描かれる、九つの赤い軌道。
ビット兵器――”スティング”が高速機動を行う”ガーゴイル”を、容易く追跡する。
「これを落とさねば、私に勝ち目はないということか……!! 面白い……!!」
燃え盛る蒼炎を吐き出し続けるスラスターが悲鳴を上げていた。
”ガーゴイル”はウィザード用に武装とデザインをカスタマイズしただけで、元は単なる”ヴァリアンス”にすぎない。
とっくに、スペック以上の機動をしているということになる。
異様な熱源を感知し、ウィザードは身体への負荷を関係なしに機体を急速旋回。
爪先をじりりと焼き払った、赤々とした極太のビームが駆け抜けていく。
《やだ、外れ。すばしっこい虫は嫌いよ!!》
急速接近する
”バハムート”が片翼の体言たる、大型ビームセイヴァーを抜刀し、猛進の勢いを乗せて振り下ろす。
セイヴァーで受け止めるも、すぐに破られそうになり、すかさず退散。
それを逃がさんと”バハムート”はもう一振りを繰り出した。
間合いは広かったが、敵の機動性から見て避けきれない。
被弾を覚悟した瞬間――目眩がするような機影が、その間に割って入る。
紺碧を照らす黄金の装甲。
”サウザンド”は蹴りを叩き込む体勢のまま、”バハムート”は大型セイヴァーから火花を散らしている。
「おおっ……!! ”CSS-012 キロツィア烈脚刃”!! その効力を間近で見られるか!!」
コックピットに響く声。それは、彼が生粋のメカオタクである証明だった。
”バハムート”の猛攻を、蹴り払うことで押しのけた”サウザンド”。
ビームライフルを乱射しながら後退する奴が、その赤き双眼に捉えた。
ぐい、と身体を捻ったかと思えば、その手に握られていたのは煌々と赤き刃を形成する小型のブレード。
騎士が手放したそれは、円月のように高速回転しながら、紺碧の宙域を駆け抜ける。
状況把握が追いつかぬ”バハムート”の装甲を、ばっくりと斬り裂いた。
《ウィザード大尉、あまり出過ぎないように》
「流石の手腕だ、バジーナ大尉」
形勢逆転、というやつだ。
だが、それでも翡翠の”サーティペイン”だけは執拗に攻め続けてくる。
《このっ……!!》
《失せろ、金ピカ!! てめぇの相手なんか、してるヒマねぇんだよ!!》
”サウザンド”がぐるりと弧を描いて返ってくるブレード――ビームブーメランを格納し、蹴りを叩き込む。
対艦刀の刃は安々それを受け止め、紺碧を紅の粒子がぎらぎらと照らす。
”スティング”を放とうとする”ノーヴェ”。
橙の九尾を、黒き魔物の赤眼が捉えた。
《翔びなよ!! ”スティング”!!》
意思を持つかのよう、九つの鉄塊が解き放たれた。
赤い粒子で軌道を描き、”サウザンド”を包囲しようとする。
刹那、”ガーゴイル”が急速先行。
ぎら、とモノアイを輝かせ、二丁のビームピストルを交差させるよう構えた。
「させるか!! 乱れ撃つ!!」
紺碧を赤く染め上げるような煮え滾る光線の数々が、圧倒的な戦力となっていた”スティング”を捉え、一つ、また二つと、黒煙に包まれていく。
《ちっ!! 邪魔しないでよ、変態!!》
主武装を失った”ノーヴェ”は、路頭に迷うかと思われたが、何かを察知し、撤退していった。
”ノーヴェ”に追随するよう、”バハムート”と”サーティペイン”も、漆黒の彼方を目指して飛翔してゆく。
《無理に追わないで》
「分かっている」
ウィザードには、奴らの行き先は分かっていた。
だが、
《アリア、いよいよ、いよいよだよね!?》
桃髪の少女は、サブモニターから丸い瞳を幼子のように輝かせている。
それとは対照的に、金髪の青年はものすごく不服そうだった。
ヘルメットを脱ぎ、白髪の毛先を弄りながらアリアは不敵に笑っていた。
「えぇそうね。いよいよね」
子供をあやすよう、彼は微笑んでやる。
ヘルメットを被り、”バハムート”で自分たちを迎えに来た物の全貌を見据えた。
戦艦――”ネオアーク”。
黒光りする、鯨を彷彿とさせる巨大で弧を描くような船体。ありったけの資金をつぎ込まれて盛られた数多の武装。
その中でもひときわ目立つのは、パイプが剥き出しで突貫工事の証拠が悪目立ちしていながら、身の毛もよだつような巨大砲塔。
高出力のビームを放出可能な大型砲台――これ一つで、理論上は並のコロニーを落とせる。
「本当に……楽しみ……!!」
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