出征
第1話
藤「よく言うじゃん、“あなたは私のことどれくらいわかってるの?”って」
直『…わかんないよなぁ。どんなに近い人間でも、わかんないことはあるよ』
藤「ん。そこで“わからないけど、これからわかりたいと思ってる”って答えたとする」
直『うん』
藤「でも答えた本人は、それがどんだけ傲慢な台詞かってことに気づいてない」
直『傲慢は言い過ぎじゃない?』
藤「かもしれないけど、とにかく“わかりたい”と言われて、嬉しいか嫌かだよ」
直『ま、わかってほしいと思う相手なんてそういないけどね』
藤「単にそばにいてくれるだけでいいこともあるしさ」
直『そばに居続けるうちに、ちょっとぐらいわかることもあるかもよ』
藤「そうだよな。それは理想的だな」
直『ね』
明け方の川縁で、そんな会話をした。
そろそろ行かなきゃいけないとわかっていたけれど、それでも言葉を継いだ。
黙ったら、そこでおしまいだと知っていたから。
でも、どんなことにも終わりは来る。
残酷なまでにきれいな朝焼けが、ただの午前の光になってしまう。
直『もう行かなきゃ』
藤「…うん」
二人そろって、立ち上がった。
自転車にまたがる。後ろに乗るのは、大切な幼なじみ。
暖かいな、おまえは。
山が多いこの辺は、二人乗りだと特に走りにくい。
最後の坂がきつくて、でも登り切ったら駅に着いてしまうと思って。
後ろからは『もうちょっと!あと少し!』という楽しそうな声が聞こえてくる。
このまま坂が終わらなければいいのに、と思う。
目の前の道を見つめたまま、ひそかに涙をこぼした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます