出征

第1話

藤「よく言うじゃん、“あなたは私のことどれくらいわかってるの?”って」


直『…わかんないよなぁ。どんなに近い人間でも、わかんないことはあるよ』


藤「ん。そこで“わからないけど、これからわかりたいと思ってる”って答えたとする」


直『うん』


藤「でも答えた本人は、それがどんだけ傲慢な台詞かってことに気づいてない」


直『傲慢は言い過ぎじゃない?』


藤「かもしれないけど、とにかく“わかりたい”と言われて、嬉しいか嫌かだよ」


直『ま、わかってほしいと思う相手なんてそういないけどね』


藤「単にそばにいてくれるだけでいいこともあるしさ」


直『そばに居続けるうちに、ちょっとぐらいわかることもあるかもよ』


藤「そうだよな。それは理想的だな」


直『ね』






明け方の川縁で、そんな会話をした。

そろそろ行かなきゃいけないとわかっていたけれど、それでも言葉を継いだ。

黙ったら、そこでおしまいだと知っていたから。


でも、どんなことにも終わりは来る。

残酷なまでにきれいな朝焼けが、ただの午前の光になってしまう。



直『もう行かなきゃ』

藤「…うん」



二人そろって、立ち上がった。

自転車にまたがる。後ろに乗るのは、大切な幼なじみ。

暖かいな、おまえは。


山が多いこの辺は、二人乗りだと特に走りにくい。

最後の坂がきつくて、でも登り切ったら駅に着いてしまうと思って。


後ろからは『もうちょっと!あと少し!』という楽しそうな声が聞こえてくる。

このまま坂が終わらなければいいのに、と思う。


目の前の道を見つめたまま、ひそかに涙をこぼした。

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