第20話 これが魔術の真髄だ
否定魔術。
魔術を
そのような意味を込められて、そう名付けられた魔術の
具体的に説明すると、否定魔術は相手の魔術回路に干渉し、魔術を無効化してしまう。
しかしこれを使うためには、相手の魔術回路を完璧に理解しなければならなく、魔術への深い理解が必要となってくる。
二千年前でも、高等技術に属する魔術だった。
「レイラ、少しだけ待っていてくれ。すぐに終わらせる」
そう言って、彼女を地面に寝かせる。
同時に、浄化されて子犬のような姿になったキメラと共に、周囲に魔術結界を張った。
……よし。これなら彼女たちが戦いの余波に巻き込まれることはないだろう。
俺は頷き、ラグナスとあらためて向かい合った。
「否定魔術……? そんなバカな。僕だって、書物でしか名前を聞いたことがないよ。確か、大昔に滅んだ魔術だ……って」
「そうか? 難易度は高いものの、俺の周りじゃ普通に使っている人間は多かったぞ」
煽りの意味も含めて、せせら笑う。
「この程度で驚いていては、お前の魔術レベルもたかが知れるな。
「ずいぶんと煽ってくれるね。まあいっか。そうこなくっちゃ、面白くないから」
ラグナスはニコニコと笑いながら、手をかざす。
「まずは小手調べかな。とりあえず、死んでくれる? ──氷槍よ、凍てつく鋭さで我が敵を貫け」
彼がそう唱えると、鋭い氷の矢──アイスランスが発射された。
アイスランスが俺に命中するよりも早く、回避する。近くの壁に被弾したアイスランスは砕け、氷の結晶となって周囲に飛び散った。
「ふむふむ、やはり詠唱魔術か。速さも質もディルクより数段上だが……まだレベルが低い。孤星魔術師というのは、本当にこの程度なのか?」
「なにをごちゃごちゃ言ってるんだい?」
ラグナスが笑い続けて魔術を放ち、俺はそれを寸前で躱わす。
「どこまで逃げられるかな?」
命がけの鬼ごっこが始まった。
火・水・雷・闇……合計四属性か。なかなかやるが、驚くほどではない。二千年前では、
「だが、そろそろ飽きてきた。いい加減、逃げるだけじゃなく、その威力も見させてもらおうか」
「だから……戦っている最中に、ぶつぶつ呟くなって。君の両親からは、躾を教わらなかったのか?」
ラグナスが怪訝そうに眉を
彼はファイアボルトを放つと──今度は俺に命中。粉塵が上がった。
ようやく俺を捉えられただろうか、ラグナスが口元を緩める。
しかし舞い上がった砂埃が消えた頃には……。
「む、無傷だと……?」
「やはり、魔術結界すら破壊出来ないか。見た目通り、威力も大したことがないのか」
魔術結界を張り、俺はノーダメージ。
これにはラグナスも驚愕する。
「バカか。この程度で小僧は、リオに勝つつもりじゃったのか? 魔術の発動速度、威力、全てがリオに劣る。リオは化け物じゃぞ? 人間を相手にするつもりでは、二千年かかってもリオには勝てん」
フードの内側で、ネリスが溜め息を吐く音も聞こえた。
「すぐに次の魔術を──」
「遅い」
ラグナスが魔術を放つよりも早く、俺は瞬時に彼の懐に入り込む。
肘打ちを当て、ラグナスが苦しそうに体をくの字に曲げた。
「ぐはっ……!
ラグナスがよろめきながら、そう口にする。
おお、獣化のことを知っていたか。
せっかくレイラに教わったから使ってみたが、やはりこれはなかなか有用だな。身体強化魔術を使わなくても、こんなに早く動ける。
「レイラよ、お前の技はこいつに負けていない。成長していけば、お前一人でもこいつに勝つことは出来るだろう」
傍で倒れているレイラを一瞥し、そう呟いた。
「さて、そろそろ決着とするか。こいつの魔術は、もう満足するまで見せてもらったし──」
「させないよっ!」
俺が首をポキポキ鳴らしていると、ラグナスは必死の形相で魔術回路を組み立てる。
「この……っ、化け物が。見た目に騙されるつもりはなかったけど、こいつは子どもじゃない。子どもの皮を被った悪魔だ。最初から、最大火力で君を葬らなければならなかった!」
先ほどとは比べものにならないくらいの速度で、ラグナスが魔術を成就させる。
「闇の深淵よ、姿を現せ。影より這い出でし手が、全てを絡め取れ──ナイトメア・ディセント!」
その瞬間、周りが闇で覆われる。
さらに闇の中から無数の黒い手や触手が現れ、まるで獲物を探す獣のように、俺に伸びていった。
本来ならこれに少しでも触れてしまえば、死に陥る魔術だ。
しかし。
「つまらん」
俺は向かってくる影を、軽く手で払う。
魔術耐性が高い俺の手によって払われた影は、小さな虫のように簡単に消滅した。
「少しは期待して、損をしたではないか。たかがナイトメア・ディセントで大層な詠唱をして……笑わせる。本物の魔術というのは、こう使うんだ」
次は俺から攻撃する。
──セイグリット・ブラスト。
神々しい光によって周囲の闇が散開し、景色を白く染め上げる。
「あ、あ……君は、なんなんだ……僕が今まで、魔術研究に使った時間は……一体……」
神による裁きに、ラグナスは呆然と立ち尽くすことしか出来ない。
「もしや、努力に意味を見出そうとしているのか? 魔術というのは楽しんで研究するものだぞ。その点に関しては貴様と意気が投合しそうだったが……違ったか。
光の大爆発がラグナスを包み、断末魔すらも虚空に消えていく。
「これが魔術の神髄だ」
最後は呆気なく、俺はラグナスとの戦いを終わらせるのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、
是非とも星やフォロー、応援コメントをよろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます