プロローグ
第1話
私は花屋で適当に買ってきた花を持って、その病室を訪れた。
白い、真っ白いその部屋で、姉は横たわっていた。
彼女のベッドの傍で、長い睫毛の男性が寝ていた。
彼の顔に、思わず見蕩れてしまう。
「――奏斗さん、奏斗さん」
肩を揺すりながら、彼の名前を呼びかけると、少しピクっと体が揺れて、彼がゆっくりと起き上がった。
「……玲香ちゃん?」
「今日も来てたんですね」
私は花を花瓶に生けると、彼に向き合うように窓の近くにある椅子に座った。
眠そうに目を擦った彼の目元には、涙の跡が残っていた。
姉を想って泣いていたんだろう。
彼はとても優しいから。
胸の内から漏れ出す、ドロドロとした醜い感情を隠すように、思わず窓の外を眺めた。
「……もう姉さんのことなんか、忘れなよ」
小さく、本当に小さく呟いた。
「玲香ちゃん、今何か言った?」
不思議そうに言った彼に、私は首を振って笑顔を向ける。
「いいえ、何も」
さらさらと空いた窓から頬に当たる風が、どうしようもなく切なかった。
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