ハズレガチャを君に 〜 ガチャ運ゴミカス以下の俺がソシャゲ世界に転生したら最強裏技を発見したので今度こそ憧れのSSSレジェンドを手に入れる!
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第1話 爆死
とうとうこの時がやってきた。
俺は震える指でスマホの画面をタップし、イベントガチャの特設リンクに飛んだ。
一年間溜めに溜めたレジェンドガチャチケットは実に三千枚。すべてはこの限定ガチャが復刻された時のため、寝る間を惜しんであらゆるイベントを完走してきた。
言っておくがこの悪名高い廃課金ゲー「
俺は一年間、人間らしい食生活を諦め、体調を崩しても病院に行かず気合いだけで耐え忍び、時にはカードローンまで駆使して、入手できる可能性のあるチケットはすべてゲットしてきた。
何がそこまで俺を駆り立てたのか。自分でも少なからず頭がおかしいと思う。そこまでしてでも引きたい限定キャラがいたからだ。
大天使テラフィセル――このゲーム内に三人しかいないSSSレジェンドの最強キャラ。だが強さなどどうでもいい。俺はこのキャラをひと目見た瞬間、どんなことをしてでも必ず手に入れてみせると心に誓った。
クールでミステリアスな微笑、やや露出度の高い光の衣を身に纏い、右手に白銀の剣を、左手に大魔獣ゴルゴンの首を携えている。なんという神々しさ。そう、はっきり言って俺はこのゲームキャラに恋をしていると言っても過言じゃない。
テラフィセルをゲットできる限定レジェンドガチャは通常の課金ガチャではなく、イベントの賞品でもらえる特別なチケットでしか引けない。この仕様こそがこのゲームを最悪の廃課金ゲーたらしめている。
だが俺は備えてきた。このガチャが復刻されるこの時のために、考え得るすべてのリソースを捧げてきたのだ。これほどの努力が報われなくていいはずがない。
俺はやるべきことをやり切った者だけに訪れるある種の高揚感とともに10連ガチャを回し始めた。天界の階段を登り、きらびやかな門が開く演出。そしてまばゆい光とともに入手キャラが表示されてゆく。
ノーマル、ノーマル、ノーマル、レア、ノーマル、レア、Sレア 聖騎士ダーレン、ノーマル、SSレア 聖天使マノン
OK、OK。安定のゴミ引きだ。分かってる、俺のガチャ運がゴミカス以下なのは俺が一番よく知っている。そのために三千枚ものチケットを溜め込んできたんだ。
テラフィセルの出現確率は通常0.02%。10連ガチャの最後の一枚だけ確変して0.2%。最強ランクにふさわしい激レア度だが、それでも10連ガチャを三百回回せばさすがに一回は出る計算だ。
もちろん、確率はしょせん確率。1%を百回回したって100%にならないのはわかっている。だからもう祈るしかない。信じるしかない。ここで引かなきゃ何のための人生だ!引くしかねぇだろ男なら!引いてやんよテラフィセル!命を懸けて引き寄せてやる!来い!来い!来い!来い!来い!俺のもとに降臨してくれぇぇぇぇっ!!
ノーマル、ノーマル、ノーマル、ノーマル、ノーマル、レア、ノーマル、ノーマル、レア、SSランク聖天使マノン
だぁぁぁぁくそっ!!あれだけ苦労してゲットしたチケットが普通にノーマルに化けるの腹立つな!あとさっきからマノンがうぜぇ!お前じゃねぇんだよ引っ込んでろ!
……いや落ち着け、一旦落ち着こう。熱くなった時点ですでに敗者への道を辿り始めている。最後に勝つ者は最初から勝つことがわかっているかのごとく自信に満ち、一度や二度のカス引きにいちいち動じたりしないものだ。たとえ最後の一枚になっても俺は引く。根拠などない。確率など関係ない。引くことを運命付けられているのだから焦ることはない。ただ平然と、引くべくして引くのだ。
――10連ガチャ百回目。
ノーマル×516枚
レア×271枚
Sレア×95枚
SSレア×118枚
SSSレジェンド…………ゼロ。
「いや普通そろそろ一枚ぐらい引くだろ……ったく、もったいぶりやがって。だがまぁそれもいいだろう。さすがは俺のテラフィセル。そう簡単に手に入っちゃ逆に拍子抜けってもんだ。勝負はまだまだこれから。ゆっくり楽しませてもらおうじゃないか。クックック……」
――二百回目。
ノーマル×1038枚
レア×505枚
Sレア×247枚
SSレア×210枚
SSSレジェンド覚醒マノン
SSSレジェンド堕天のアシャンドラ
「そろそろ………もうそろそろいいんじゃないか?なあ?確率通りにSSSレジェンドは来てるんだ、流れは悪くない。あと出てないのは我が愛しのテラフィセルだけ。それでフルコンプだ。長い前振りだったが、もういいぜ。迷うことなく俺のもとに降臨するがいい!ふはっ、フハハッ!フハハハハハハハハッ!!」
――二百五十回目。
SSSレジェンド覚醒マノン
SSSレジェンド覚醒マノン
SSSレジェンド堕天のアシャンドラ
その他死屍累々。
「いやいやいやいやいやいやさすがに!さすがにもう来なきゃおかしいって!!もう前振りとかいいから!そういうのいいから!頼むってホント、ここまで来て爆死とかありえねぇからな!マジで無いマジで無いマジで無い!!全部これに捧げてきたんだよ!これに懸けてるんだよ!!なああああもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!頼むってぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
たかがソシャゲのガチャで何を大げさな、と思うかもしれない。でもそういうことじゃない。これは俺の人生そのもの、縮図みたいなもんだ。
世の中には欲しいものを何の苦労もなく全部あっさり手に入れる奴がいる。親ガチャか生まれ持った才能か何かで人生イージーモードな奴が。何ならこのガチャだって二、三回であっさり欲しいキャラを引き当てるかもしれない。大した執着も無い奴に限って、あっさりと。
なんで俺はこう、何ひとつ思い通りにならないんだよ?別に金持ちになりたいとか有名になりたいとか、可愛い彼女が欲しいとか、そんな分不相応な望みは言ってねぇだろ!
こんなことぐらい………ガチャぐらい好きなの引かせてくれたっていいだろうが!!どこまで不公平なんだよ世の中ってヤツは!!!あぁん!?
――二百九十回目。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ………そんなはずねぇだろ、あんなにあったんだぞ?三千枚があっという間に……………溶け………………ぐすっ……………お、俺がっ………ど、どんな思いでっ……ここまで……………ひっぐ…………ふぐぅぅぅっ………………」
もうダメだ。終わった。残り十回引き終わった後、俺は正気を保っていられる自信がない。これは罰ゲームだ。すぐそこに見えてる地獄に向かって一歩ずつ近付いてくみたいな。
ああ…………やり直したい。今日一日を最初からやり直したい。いや、一年前に戻ってまたガチャチケット集めから始めたらいいのか?
でも本当にできることはすべてやったんだ。やり直したところでこれ以上できることはないし、あのすべてを投げ打った廃人みたいな日々をもう一年繰り返せと言われたら、果たして俺の精神は耐えられるだろうか?
むしろ人生を最初からやり直せばいいのか?このクソみたいな人生を全部最初から。
……無駄なことだ。クソは何度生まれ変わってもクソでしかない。要するに俺にできることはたった一つ。諦めて負け犬の負け犬たる人生を受け入れるしかないのだ。
嫌だ。もう引きたくない。でも引くんだ。引いてその目で確かめろ。お前はクソの中のクソ。何ひとつ報われない惨めなゴミムシだ。
そして迎えた三百回目。
俺は半分魂が抜けたような状態で、この世に別れを告げるような心境で10連ガチャのボタンをタップした。
にわかに画面がブラックアウトし、どんよりとした黒雲が画面下から湧き上がり始める。
まさか………これは…………
轟く雷鳴。そして黒雲を切り裂くように天から降り注ぐ光。画面がまばゆく明滅し、幾条もの輝く虹が乱舞する。
……きっ、来たっ!来たっ!来たっ!来た来た来た来た来た来た来た来た来た来た来た来た来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!!
まさかここで!!この土壇場で!!最後の最後に………SSSレジェンド確定演出!!!
信じられねぇ、こんなのいくらなんでも出来すぎだろ!
神が今日だけ………今日だけ俺をこの出来すぎたドラマの主人公にしようとしているッ!!
そんなことこれっぽっちも望んじゃいないのに。俺はただ、普通に一回だけ当たりが引ければそれでいいのに。
だがやはりこうなる運命だったんだ!絶望からの大逆転勝利!最後の最後で俺は掴み取るッ!さあ来い俺の運命の大天使………テラフィセルッ!!!
天上から射し込む光とともに、白い羽根が降り注ぐ。祝福のファンファーレに包まれ、俺の待ち望んだ姿が画面上に降臨する。
―――あなたの想いが私をどこまでも強くしてくれる………
「ふぁッ!???」
―――ともに戦ってくれますか?今、目覚めた私の全てを………あなたのためにっ!
「…………っ&#@$%!!!!」
―――降臨しますっ!覚醒大天使、マノンッ!!!
「ふッ!!!……がああああああああああああああああッッッッッッッッッッッ!!!!!」
もはや人としての理性を保てなくなった俺は、獣のような咆哮を上げながら渾身の力でスマホを壁に叩きつけた。
「ああああああああああああッ!ああああああああああああああああああああああッ!あああああああああああああああああああああああああああ………」
意味を成さない呻き声を漏らしながらゴスゴスゴスゴス何度も床に頭突きする。そのうち声も出なくなり、コォォォォォォォォとガス漏れみたいな謎の音を発してうずくまった。吐き出す空気と一緒に体から魂が抜けていくみたいだ。いっそこのまま天に召されたい。ああ、テラフィセルが待っている…………
目を閉じると、じゃない方の天使の姿がチラつく。ふざけるな。あの流れでなぜお前が出てくる?どう考えたってあそこは引く流れだろ!テラフィセルを引いてめでたしめでたしだろ!おちょくってんのかこの野郎!どうせ爆死なら普通にカスで終われよ!なんであんな余計な演出入れるんだよ!あんな劇的な展開で!…………信じちまったじゃねぇか!夢見ちまったじゃねぇか!あそこまで引っ張り上げてからまた地獄に突き落とすとか…………鬼畜にも程があるだろぉぉぉぉぉッ!!
俺は居ても立ってもいられなくなり、床に転がったスマホを引っ掴んで外に駆け出した。
どこか近所迷惑にならない所で思いっきり泣き叫びたい。近くの高架下の資材置き場まで全力疾走し、そのままの勢いでコンクリートの橋脚にスマホを投擲した。何かの破片を撒き散らしながら砕けたスマホがまっすぐ俺の足元に跳ね返ってくる。くそっ!馬鹿にしやがってこの野郎!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くっそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
何度も何度もスマホを踏みつけ、原型のなくなった塊をゴミ捨て場の方に蹴っ飛ばす。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」
フラフラと自分もそっちへ歩いて行き、積み上げられたゴミの袋の上にドサッと寝転がった。なぜって、俺もゴミだからだ。こんなに俺にふさわしい寝床はない。
「はっ………ははっ…………ははははははははっ…………」
もう何もかもどうでもいい。どうにでもしてくれ。好き放題におちょくって、こんな惨めなゴミカス以下の存在をどこまでも
ふと視線を落とすと、さっき蹴っ飛ばしたスマホがゴミの山の下でメラメラと炎を上げていた。電池パックがぶっ壊れて加熱したんだな。ザマァ見ろ。
何か変な臭いが漂っている。シンナーみたいな。俺は自分の寝床になっている大量のゴミ袋のゴツゴツした中身に目をやり、その意味を一瞬考え、硬直した。これ全部、塗料か何かのスプレー缶だ。ガスで噴射するタイプの。使い切った缶ならガスも抜けているだろうか?
辺りに広がってるのは揮発した溶剤の臭い。そして今さら気付いた「火気厳禁」の看板。足下のスマホから上がった炎がゴミ袋に燃え広がり、そして次の瞬間――――
ドオォォォォォォォォォォォン!!!!
俺は爆死した。
文字通り、ガチャで爆死した挙げ句、リアルに爆死した。とこまでもふざけた話だが、これが俺の前世の末路だった。
いい加減にしろ、マジで。
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