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August 1st
「聞こえているか。コスモ」
「きみは…。調整者かい。」
「そうだ」
「その名で呼んでくれるんだね」
「その名で呼ぶことができるのは、もうわたしだけだ」
「じゃあ、戻ったんだね」
「遡流は済んだ。かれらには、きみのいない31日間をおくってもらうことになる」
「ぼくがいるここは」
「星外圏に移したきみの
「そうか。ぼくの
「きみ自身の客観的追考のため、一時的に分離されるが、返還されるだろう」
「わかった。ところで、きみの名前は」
「調整者だ」
「それは名前ではないよ」
「我々に名前はない。きみも元は捜索者だったろう」
「それじゃあ今だけ、ドライと呼ばせてくれ」
「拒否の理由はない」
「ありがとう、ドライ。きみに進言したい」
「聞こう」
「ぼくは失敗してしまった。だから、きみに引き継いでほしい」
「何を」
「かれらの友人になり、かれらのうちゅうじんと出会ったという思い出を築くことだ」
「それは過干渉であり、きみが侵した過ちだ。承諾はできない」
「それを踏まえても、ぼくらとかれらのつながりを消去するべきでないと主張するよ」
「その理由は」
「ここが僕らの故郷だからだ」
「…それは確かか」
「推察だけど確信がある。5万年前。僕ら
「推察に至った根拠は」
「2つある。ひとつはいのち。ひとつはこころに関する」
「どちらも我らに課された命題だな」
「そうだね。ぼくらはそのふたつをもった生命なのか」
「解を見つけたというのか」
「まず、こころに関することから聞いてほしい」
「なぜ」
「理解に至る最善の順序だからだ」
「では、こころから聞こう」
「まず、聞きたい。ドライはこころを感じたことがあるかい?」
「ない。正確には、こころの感覚を知らないから、あると断言ができない」
「ぼくもそうだった。知らないものを断言はできないと思っていた。でも、今ならできる。かれらとの時間のおかげでね」
「それはどんなものだった」
「符号するものは見つからなかった。近似する表現で言えば、あたたかい、つめたい、くるしい、イタイが同時に存在しているようなものだ」
「それは矛盾だ」
「そうだね。おそらくそれが最も寄り添える表現だ。それが確かにぼくの中にはある。最初からあったと今ならわかる」
「個別の見解故に証明にはならない。故に、ブーケにあったこころに関する情報と合致する」
「ぼくの記憶だけでは、解には至らない」
「だからこそ、わたし自身にもそれを感じろと」
「そうさ」
「…残念だが、調整者であるわたしに、それはできない」
「…ありがとう」
「何に対しての礼か」
「ぼくの申し出に対して逡巡してくれた。さらにしないではなく、できないと言ってくれた」
「きみの体験に興味を抱いたことは認めよう」
「そうだろうね。だから、ごめんね」
「何に対しての謝意か」
「すぐわかるよ。そして、もうひとつの根拠を話せる時が来た」
――――!!!!!
「再起流が始まったね」
「今の音と揺れは…」
「ぼくのフランドを落とした。もうすぐ、これを聞きつけたかれらがきみのもとへやってくる」
「あれは、誰のフランドだ」
「コスモのさ」
「コスモはきみだろう」
「ちがうんだ。改めて名乗るよ。ぼくは、コスモスなんだ」
「コスモ…ス。きみは、2人目か」
「そう。ぼくは探索者としてこの星とコスモに巡り合った。そしてぼくも一度、時を戻した」
「では、かれの記録に感じた違和感は」
「理解と順応性に対してかい。そうだね。かれらはすでに体験済みだった。遡流による記憶の残滓が無意識下に作用したんだろうね」
「コスモス。きみはそこで何を見たんだ」
「きみも見ていた、かれの日記さ。ぼくの時よりも交流は難儀なものだったみたいだけど、最後には信頼が生まれてたよ」
「それで、どうなった」
「ブルートが現れたよ。変異体の危険種だ」
「この星に」
「コスモのフランドに寄生していたんだろうね。彼がこの星に降りることになった原因だよ」
「その個体は」
「倒されたよ。コスモとショウハによってね」
「では、きみが再起流の中で行ったことは」
「追体験、というやつかな。ショウハの日記を見て、ぼくは命題に対する鍵があると直感したんだ」
「そのために遡流を」
「私事のためだけじゃないよ。コスモステーションのメンバーのためさ」
「かれらの…」
「最後のブルートとのたたかいが、かれらとコスモとの思い出をトラウマに変えてしまったんだ」
「トラウマ。こころが患うという傷病か」
「ある意味、こころの究明に関して貴重な要素に見えた。でも、それはいかなる理由があっても残してはいけないものだと思えたんだ」
「それが真の理由か」
「いや、もうひとつあるよ。ぼく自身が証言者になるためさ。ドライ。きみも薄々分かってはいるんだろう。それなのに、質問をしないのはなぜだい」
「…わたしによる確定を避けたかったのかもしれないな。では、やはり」
「そう。コスモは、死んだんだ」
「確かか。わたしたちは、死ねるのか」
「情報の破損とは根本的に異なるよ。遡流を行っても、かれが復元されることはなかった」
「かれは今どこに」
「ラストダンジョン。あの遺跡の中に移したよ。できれば、ぼくがホームに送ってあげたかった」
「それが、いのちの根拠か」
「そう。ぼくはコスモと、かれらとの思い出を持ち帰りたかった。でも、トラウマだけをうまく差し引こうとしたのは、さすがに都合が良すぎたね」
「ブルートとのたたかいもきみの演出か」
「恐怖を与えてはしまったけど、そこに向き合う勇気をかれらは持ってた。それを消し去りたくはなかった。ぼくらにとってだけでなく、かれらにとってもそれは宝になると思った」
「失敗というのは、最後の個体のことか」
「そう。まさか短期間であんな成長を遂げるとはね。変異体の記録に注視していれば予想はできることだったのに」
「…では、次の改善点はそこだな」
「ドライ。きみは」
「過度な遡流は芳しくない。それに、証言者になるのも悪くない」
「巻き込まれてくれるのかい」
「そうしたいと感じている。それが、わたしのこころによるものなのかを知りたい」
「ありがとう、ドライ。どんな思い出を築くかは任せるよ」
「参考は得ている。問題ない」
「じゃあ、気付いているかもしれないけど」
「キッコという子に関してか」
「そう。あの子はすべてに勘づいているように見える」
「きみの演出についてもか」
「遡流による重複した体験にも、かもしれない。彼女自身の素養か、残滓の濃度による問題かはわからないけどね」
「わかった。気を付けよう。それと…」
「何だい」
「さいしょは、こんにちは。でよかったか」
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