迷い人

「随分と辺鄙なところに住んてるんですね、あの不審者」

鹿田巡査部長がゆっくりとハンドルを回しながら言う。

「町中に住まれても困るけどな」

僕らは今、最近この地域を騒がせている不審者の潜伏先と思われる山奥の集落に向かっていた。本当は所轄の警察署の担当者も一緒に来るはずだったのだが、自衛隊の演習場で行方不明者が出たらしく、捜索に駆り出されてしまった。この山道にも、捜索に当たっている自衛官や警察官がいたるところにいた。

シェパードを連れた警察官が、シナモンのぬいぐるみを抱きかかえている。僕は何かを思い出さなければならない気がして、警察署でもらってきた行方不明者の資料をめくる。

「若いな」

行方不明となった青島一等陸士は、まだ19歳だった。エネルギーに満ち溢れた青島の顔写真を眺めながら、僕は中年が遠い未来ではなくなっていることに思い至る。

「無事だといいっすね。今夜は冷えるらしいですし」


目的地の集落に辿り着いたものの、人気はなく、手掛かりはつかめそうになかった。廃墟となったホテル・アリューシャンも、人が住みついてるようには見えない。しばらく車で周辺を徘徊してしてみたが、誰にも遭遇することはなく、行方不明の青島一士を発見することもなかった。

帰るか、と言いかけたとき、視線を感じた。廃墟を振り返るが、既に視線は消えている。

集落を出るところで、シェパードとすれ違う。また何かが頭の中で引っ掛かったところで、僕の携帯電話が鳴った。上司からだった。

「やっほー、今どこ?」

「例の声掛けの……」

「あ、あそこか。三沢、お前自衛隊の人に探されてるぞ」

「え、自分ですか」

「そ。よく分かんないけど、とりま駐屯地に向かってちょ」


駐屯地に到着すると、年頭視閲式でしか見たことがないような機動隊の車両が止まっていた。その傍らに人だかりができている。輪の中心にいる自衛官に見覚えがあり、僕は驚きつつも名前を呼ぶ。

「船木さん」

僕を見た船木の顔が真っ青で、僕は更に驚くと同時に、彼が後輩へのお土産としてシナモンのぬいぐるみを買っていたことを思い出す。

「何があったんです?」

船木が震える手で携帯電話を差し出してくる。見覚えのある文体のメッセージに、丁寧に畳まれた迷彩服の写真が添えられていた。その送信元が青島であることに気付き、僕は言葉を失う。

『青たんはあずかったょ』

ハートマーク、ハートマーク。

『返してほしかったら、日本国憲法第二十七条を『すべて国民は、被服を着用しない権利を有し、義務を負ふ。』に改正してネ』

赤いビックリマーク、ビックリマーク。

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