警部補・三沢の日常
無名
思い出の地へ
これまでのあらすじ
警部補に昇任し、本部の生活安全部に異動になった僕。県民の安心安全を守るため、奔走する日々。そんなある日、県内で子どもへの声掛け事案が相次いで発生する。現場は全て、僕がかつて勤務していた警察署の管内だった。あの町で一体何が起きているのか。その謎を探るべく、僕と部下の
「そういえば三沢主任、前ここいたことありますよね」
セダンのハンドルを緩やかに操りながら、鹿田が言った。
「あるよ」
僕は頷きながら、窓の外をぼんやりと眺め、かつてこの地で勤務していたときのことを思い出す。あまりいい思い出はない。
「あ、例の駐屯地のとこっすよね」
「そうだよ」
鹿田は半笑いだ。我が県警を震撼させた、とある駐屯地にまつわる事件の捜査に僕が関わっていたことを、鹿田も知っている。この高速道路も、被害者を乗せて通ったのをよく覚えている。被疑者らには翻弄されたし、被害者には辛い思いをさせてしまった。あんな事件の捜査、二度としたくない。
ラジオの臨時ニュースが、隣県の水族館からトドが脱走したことを報せていた。アナウンサーがシリアスな声でニュースを繰り返す。
「うちの県じゃなくて良かったな」
僕は思わずトドの捜索に駆り出されている人たちの気持ちを想像してしまう。不審者に加えてトドまで現れたら、たまったもんじゃない。
臨時ニュースが終わり、リスナーがリクエストした『ぼよよん行進曲』が流れる。
「トドって大きいですよね。まあ、すぐ見つかるんじゃないですか」
「今週だけで、10件を超えているんです」
一連の事案を管轄する警察署の担当者である丸山係長は、眉間にしわを寄せたまま言った。
「このままでは最悪の事態が起きかねない」
僕は不審者の特徴が書かれた資料を手に取る。
「いつも軽トラックから声を掛けているんですね」
「降りてきたことは今のところありません」
『服装:上裸』という記載が気になるが、見なかったことにする。声掛けのセリフは全て『おじさんと遊ぼうよ』だ。トラウマになって学校に行けなくなってしまった子どももいるようだ。いい大人が、幼い子どもたちに怖い思いをさせるなんて許せない。僕は思わず資料を握り締めたまま前のめりになる。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます