第19話 『相談の多い文具店』 秋田柴子 さん
自分はただ文具を売っているだけなのです──そう、お客さんが本当に必要としている文具を。
「お客様が本当に必要としている文具」という言葉の、日常で聞くのとは異なる響きにゾクゾクできるのが、物語のよいところである。
『色縁筆』
ショートショートでは日常を少しだけズラしたことによって、大きな変化や破滅を招く。だからその入口となるアイテムはダジャレ的な名前を冠されることが多い。通常の用途を生かした上で、マジカルなパワーを示す文言を紛れ込ませるのに、「漢字」はとても有用である。
色事のご縁を結んでくれる
このお話で文具が解決する問題はすべて「色事」といえる。つまりは恋愛感情だ。
「あいにく在庫切れです」
『色縁筆』と『ビビビ箋』によって繋がった縁を、継続させるための接着剤のようなものを、シンスケさんは「在庫切れ」と突っぱねた。
独身のシンスケさんの嫉妬心か、とも思ったが、
シンスケさんがその気になれば、自らの恋を成就させるためのアイテムは身の回りにいくらでもあるのだ。
だがそれを自分のために使ってこなかった。または、一度使って、もう二度と使うまい、と決めた事件があったのではないかと思う。
縁結びまでは応援できるが、継続させることに関しては、道具に頼ってはいけないと思い知らされるなにかが?
『勝ったーナイフ』vs『まけない下敷き』は矛盾を思わせる興味深い対決だが、アイテムが直接ぶつかる性質のものではないため、どちらも負けない=引き分けが成立する。
ここでは、同じ女性を好きになった男子中学生が、告白の権利をかけてテストで戦ったようだが、テストの点数で、というところが不思議だった。
詳しくは知らないが「おっぱいバレー」みたいな話が絡んでいるのかもしれない。
最近の中学生はネットで変な漫画ばっかり見てるせいか……ねえ、
どんな漫画だろう。気になります。
『絶ちばさみ』
あの中学生二人は引き分けになった結果、二人とも告白をして、先生に選んでもらおうということになったらしいが、かなり、面倒な絡み方をしているようだ。
そこで、縁を切れる鋏を売った。
その時、シンスケさんは「やれやれ」とため息をつく。
ため息をつくのは二度目で、最初は、関係を続けさせるための接着剤を「在庫切れ」と断った時だった。
やはり、関係を続けるとか、断ち切る、という場合、シンスケさんは、逡巡するのではないか。縁を結ぶための手伝いならば、よろこんでするのだが。
ふくしゅう帳
なんと、縁を切るの最終形態の「死んでほしい人がいる」という客が現われる。
シンスケさんは「人様を殺めるような文具を扱ってはおりません」と言うが、「嘘つき!」と言われて、顔がさっと強張った。
一つには、カッターやハサミは普通にい人を殺めることができる文具であることが、その理由だったかもしれないとは思う。
だが、そのような当然の理由だけとは思えない描写だと感じる。
縁の継続と切断に関する希望にたいして、シンスケさんは拒否反応を示す。だがその度合いには大小があり、「接着剤」は販売しなかったが、『絶ちはさみ』は販売した。
無理やり続けることの方が、シンスケさんにとっては苦痛だったと仮定するのなら、「絶つ」方の文具に関しては過去に取り扱いがあり、それが後ろめたかったのではないだろうか。
シンスケさんは、復讐したいという要望にこたえてノートを渡すのだが、なぜか、その商品名は口にしない。
「──それが、途中から何だか馬鹿馬鹿しくなってきちゃったの。だって恨みつらみを全部書き連ねてやろうとしても、片っ端から馬鹿丁寧な文章に修正されちゃうんだもの。
ノートを買っていった客は、数日後ふたたび訪れる。
復讐が果たせなかったのだ。
だがシンスケさんはそれを「ふくしゅう帳」だという。
命名システムからして、ここは「復讐帳」でなければならないが、あえてひらがな表記であることから、実は「復讐」の機能はないものと、読者には分かる。
このノートは、書いたものを丁寧な文章に修正していくふくしゅうのための「ですノート」だという。
復讐心を改めて復習する過程で、過激な言葉を丁寧なですます帳に直していく。
心の乱れは言葉の乱れになるのなら、言葉を整えれば心も整う、ということである。結果、復讐心は消滅してしまう。
シンスケさんは、「ですノート」を販売するとき、名前も効能も言わなかった。ただ何を書けばいいかを教えただけで、客が夫と夫の愛人を殺せると勝手に思い込んだのだ。だから、ぎりぎり詐欺にはならない。
『日喜帳』
そして、その客にさらに『日喜帳』を勧める。
ふくしゅう帳を終えた上級者は、これを使って気分をアゲるのだという。
なんとなく、シンスケさんはこれを使っているのではないかという気がする。だから、鳩時計の音が嬉しそうに聞こえるのではないかと、そんな気がする。
しかし、どことなく底の知れないシンスケさんは、ちょっと怖い。
そういえば、この話のタイトルは『注文の多い文具店』をベースにしているのだった。だから多分……
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