第21話
「…央華さん?」
「ぇ…あ、ごめん…八重樫くん」
優しい声に引き戻されて、直後に動揺した。
だって、今ここに悠人は居ないのに。それなのに私は話を勝手に悠人に結びつけていた。誰に言われたわけでもないのに、ごく自然にだ。
(なにこれ、恥ずかしい…)
やっぱりこれが、悠人に対する恋なのか。
「あ、俺のことは呼び捨てで如月って呼んで。これから先、兄さんとごっちゃになるから」
「ぇえっと…如月?」
「そう。よろしくね、央華さん」
気づいてしまった自分の考えに一人で頬を赤らめる私を知ってか知らずか、改めて如月がそう言った。
「…私のことも央華でいいよ。さん付けはちょっと、慣れない」
というのは嘘ではないけれど。本当の理由は如月のような美少年にさん付けされると、どうにも目立ってしまうので困る、というものだったりする。
「いや、それは……俺が悠人さんに殺されちゃうから…」
「え?なんで?」
如月は困ったように曖昧に笑って、私の申し出をやんわりと拒否した。
けれどそれよりも耳にした物騒な言葉に、食い気味で反応してしまう。なんだろう、突然話が飛んだ気がする。
私を呼び捨てにするくらいで悠人が如月を殺すって?まさかそんな。いくら嫉妬深いとはいえ、さすがにそれは無い。
「それは無い、とか思った?」
「う、うん。さすがにそれは、人としてどうかと…」
如月の的確な問いに若干驚いたものの、隠すようなことでも無いので素直に口にする。
そんな私の答えに対し、如月は苦笑して。
「人として正しくない行いでも、貴女のためなら悠人さんはいくらでもするよ。そういう人だから」
と。
「その痕、悠人さんのでしょ?」
その言葉に固まる私の首を指差して、また如月が言う。
「………うん」
「兄さんに聞いたんだ。今まではね、悠人さんが関係を持った相手に痕を付けるなんてこと、無かったんだって。一度もね。彼女たちは性欲処理のための存在でしかなかったから」
生々しい言葉がさらっと出てきた気もするが、そのまま如月の言葉に耳を傾ける。
「だからそんな風に見せつけるみたいな場所に独占欲丸出しの痕を付けるなんて、よっぽど央華さんを誰かに取られたくないってことだよ」
「取られたくない…」
「うん。わかりやすく言えば、愛してるってこと」
俺も兄さんも驚いてるんだ。と如月は優しく微笑んだ。
愛してる。
───愛されてる。
「そ、なのかな……」
結婚してもいいというくらいには、好かれているとは思っていた。それでもそれが、愛されているだなんて、思っていなかった。
もしそれが本当なら、それほどまでに愛されているというのは恥ずかしいけれど、すごく嬉しい。
だけど同時にあるのは、【絶対】の無い現実の愛への、いつか失うものへの、底知れない恐怖だ。
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