第35話 音楽ステーション②

>>仁美Side


 「へへへ、一歩でも動いたらこの娘は死ぬことになるぞイイのか?」


 「く、まて、今ならまだ罪は軽いぞ」

 

 エコノミストの盗撮犯の上草さんが少女を人質に取りながら、モヒカン刑事の春山さんが対峙しています。本来なら強引にでも少女を助けたい所ですが、全国にオンエアされているため警察として身動きができません。


 『うぁ、エグイな大学受験シーズンの女子生徒の痴漢オフ会の管理人してるし』

 

 『もう、罪重すぎでしょ、とりあえず死刑で良いかな?あ、社会的にもう死んでるかにゃ?全国オンエア中だし』


 その場のノリで言いたいことを言う能天気にゃむこが居ましたわ。

 刑事さんが相手を刺激しないように気をつけているというのに……。


 「は、そこのどすけべボディ、冒険者!この娘がどうなっても良いのか?スマホを寄越せ!」


 『いやだよー、べつに、見ず知らずの子はどうなっても良い気がする、だってひとみっちの方がカワイイし大事だし』


 私を抱き上げるとにゃむこは、膝の上に私を置いた。

 こいつ、無意識に全国のヘイトを私に向けやがった!

 観客の庶民の少女とお金持ちでカワイイ少女が居て、にゃむこが私を優先したら、そのヘイトは優先された対象に行くに決まっているのに、ヘイト管理が下手過ぎでしょ!


 「はっ、お前は人の命を何だと思っているんだ!」


 『にゃむこ、低俗で無知無能な冒険者風情だからわからないにゃー、そもそも人質取ってる人間に言われたくにゃー』


 どちらも、もう無茶苦茶、どうしてこうなった。

 そもそも、強力な欲望の発露アルティメット・デザイアなんてこの男に掛けなければよかったのだ。

 起きたことは、仕方がない、問題は解決するしかない。


 「にゃむこお姉ちゃん、やっぱり人の命は大切だよ、だからお願い、スマホを渡して」

 

 「ほーら、お前の大切なお友達の方が聞き分けが良いようだな!」


 『仕方ないにゃ、ほら受け取るにゃ』

 

 スマホを投げるが、にゃむこと人質犯の中間に丁度落ちた。


 『イヤー、か弱い女の子だから仕方がないにゃー拾ってね』


 「どこまで馬鹿にするんだ、お前は!」


 人質犯ブチ切れているやんけどうすんのこれ。

 にゃむこを見るが、この顔、あ、テメェ、本当にすっぽ抜けたんだな。

 何も考えずに投げたら、緊張して中間地点に落ちたと……。


 全国のお茶の間に映されているスマホが、ライトに照らされ虚しく光っていた。

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