赤い太陽の下で
ある夏の午後、空は異様な赤さを帯びた。太陽が燃え上がるような赤色をしていて、まるで何かが起きる予兆のようだった。その日、私は地元の山奥にある祖母の家を訪れていた。古びた木造の家は、山の中にひっそりと佇み、周囲は鬱蒼とした森に囲まれている。
祖母の家には「赤い太陽の日には外に出るな」という言い伝えがあった。小さい頃から何度も聞かされてきたその言葉を、私は迷信だと思っていた。しかし、その日はいつもと何かが違った。
祖母が突然、青ざめた顔で言った。
「今夜は戸をしっかり閉めなさい。そして、太陽が沈むまで決して外を見てはいけないよ」
「どうして?外が赤いだけじゃないの?」と私は軽く笑い飛ばそうとしたが、祖母の真剣な表情に押され、言い返すことができなかった。
夕方になると、空気はますます重苦しくなった。外はまるで世界そのものが血に染まったようで、風すら吹かない。私は祖母の言葉に従い、家の戸を全て施錠し、窓には布をかけた。しかし、好奇心が抑えきれなくなり、ふと二階の小窓から外を覗いてしまった。
そこには、信じがたい光景が広がっていた。
赤い太陽の下、森の木々の間を何かが動いていた。それは人間のような形をしているが、背中が異常に曲がり、四肢があり得ない方向に折れ曲がっていた。肌は血のように赤く、目は白濁している。数体、いや数十体が、森の中を徘徊していた。
恐怖で息が詰まりそうだった。私はすぐに窓を閉め、布をしっかりと被せた。祖母が背後から私を見つめ、低い声で言った。
「見てしまったんだね……もう逃げられないよ」
その瞬間、家の外から低く不気味な音が聞こえ始めた。「ゴトゴト」という音は、窓や扉に次々と響いた。赤い人影たちが、家の中を覗こうとしているのだ。祖母は何かを呟きながらお守りを握りしめていたが、声が震えていた。
「絶対に音を立てちゃいけない。気づかれると……」
祖母の言葉が終わる前に、一階の窓が粉々に割れる音が響いた。私は息を呑み、二階の押し入れに祖母と共に隠れた。
暗闇の中、私は押し入れの隙間から外を窺った。階下からは何かが這い回る音と、低い唸り声が聞こえる。それがやがて階段を一歩ずつ上がってくる音に変わった。音はゆっくりと、しかし確実に近づいてきていた。
祖母は震える声で私に耳打ちした。「太陽が沈むまで、じっとしているんだよ。どんなに怖くても、声を出しちゃいけない……」
しかし、その言葉も虚しく、押し入れの襖がゆっくりと開き始めた。赤い目が、じっと私を見つめていた。
翌朝、山のふもとで警察が発見したのは、無人となった祖母の家と、赤く染まった床だけだった。村人たちは口を揃えて言う。「あの家に住む者は、赤い太陽の日に何かを見てしまったんだろう」と。
太陽は再び普通の色を取り戻したが、私はもう二度と赤い太陽の日を忘れることはないだろう。
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