第13話 頼もしき亜里沙

 そんなこんなで二人はこれまでの事、これからの事を話し合った。


 扶久子はこれまでの義鷹様と出会いや母君様達との会話で自分が讃岐さぬきから大願成就の祈願に来たお姫様だと思って保護してくれた事や何やら異常なほど親身にしてもらった事などこれまでの経緯いきさつを事細かく語った。


 そして亜里沙もまたあの地震の後の一週間の経緯を扶久子に話した。


 扶久子の名を呼び続け探したが返事もなく気配もなかった事。

 一緒にいた筈の泡沫夢幻堂のお姉さんも見当たらず途方にくれた事。

 崩れかけた建物にいては危ないとその場を離れたがたまたま、扶久子が出た中庭の方とは反対の境内の外へ出てしまった事。


 そして周りの様子にここが平安時代もしくは『平安っぽい異世界』だといち早く悟り、手近な古着屋に飛び込み自分の着物を売っぱらい、下女が着るような身軽な古着と如何ばかりかの金銭を手にして、もしかしたらと扶久子を探しつつこの一週間、神社の近くの団子屋の手伝いをしながら過ごしていたという。


 本当にたくましい亜里沙だった。


 あのお姫様姿のまんまだと追剥おいはぎにあうか、盗賊や不埒な輩に襲われるかだと判断したのだ。

(本当にぬかりのない亜里沙だった。扶久子と大違いである)

 そして、扶久子もこの世界に来ているのなら一刻も早く探し出さなければぽ~っとした扶久子の事だからきっと酷い目に遭うと心が逸るばかりだったという。

(扶久子に対して随分と失礼なのだが義鷹に保護されていなければ、心配通りになっていただろう)


 そう、亜里沙は平成時代ではスーパーアイドル並みの美少女でありながら歴女と呼ばれる才媛である一方、その実、隠れ中二病をこじらせ気味の『残念美少女』だった。

 いわゆる『隠れオタク』というやつだ。


 さて、それはともかく亜里沙が事は間違いない。

 そして亜里沙がプロデュースするこの時代でのは扶久子が讃岐さぬき(今の香川県)から親の病の平癒祈願に来たという設定だ。

(これは、うっかり扶久子がもらした言葉にも合わせて出来るだけ不審に思われないようにとの設定だ)


 そして裏設定が『家督争いに巻き込まれた末、自分の命を狙う継母ままははの魔の手から逃れる為、元城主であった祖父の助けを借り平癒祈願と称して京の親戚を頼ってきたものの、その親戚も行方知れず』と言う踏んだり蹴ったりな設定である。

(亜里沙曰く、余り突っ込んで曰くありげな不幸な身の上っていう事にした方が良いとの事だ!)

 そして配役としては私は讃岐さぬきの城持ち領主の正妻の娘で亜里沙はその乳母の娘で幼き頃からの側仕えという設定。


「えっ?何で?亜里沙も姫でいいじゃん?”友”だって言ったもん」


「友は友でも”おとも”ってことにしときなっ!多分向こうもさっきの感じだと絶対そう思ってるし!姫君に従者の一人もいないのは不自然すぎなのよ!髪だって肩くらいまでしかないしさ!ところで、扶久が髪が短い事を男姿に身をやつしていたっていう事にしたのは扶久にしては良い発想だったわ!よくもまぁ思いついたものね」と、亜里沙は扶久子のこの点だけは手放しに褒めた。


「えへへ!なんか昔見た時代劇でお姫さまが旅するときに剣士に化けて旅してたのを咄嗟に思いだしたんだよ~」


「よしよし!偉い偉い!その設定はそのままで行こう!どうせ平成時代みたいにマイナンバー登録されてる訳でもないんだからちょっとやそっとで讃岐さぬきの方まで確認しにも行けもしないだろうし、氏素性うじすじょうは適当に言葉にごして姫君設定で行くよ!嘘も方便よ!いたいけな少女二人生き抜く為だっ!神様も許してくれる筈!」


「亜里沙~っ!素敵!平成でも平安でも亜里沙さえいてくれたら生きていける気がするよぅ~っ」


「はいはい!扶久っ!これから皆の前では姫様か扶久姫って呼ぶからね!他人様がいる時はちゃんと姫様しなさいよっ!肝心な事は私が喋るからカマかけられてもむやみに平成時代の事とかは話さない事!いいわね?何としても生き抜くわよっ」


「はいっっ!」扶久子は思わず頼もしい亜里沙の言葉に敬礼しつつ返事をした。

亜里沙の言う通りにしていれば間違いない!何とかなると改めて確信する扶久子であった。


 こうして二人はこの平安もどき?な時代で手を取り合って乗り切ることを誓い合ったのだった。


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