023

 この魔物の領域は可愛らしい魔物を集めたのだろうか、それともアンデッドじゃない場所はみんなこうなのだろうか?

 目の前では、一抱えほどの大きさで小さな羽根の生えたトカゲが両の前足で顔を洗いながら地面に座っている。

 近付くと2本の足で立ち上がり前傾姿勢で走って来た。途中、半開きの口内に炎が見え、真っ赤に染まった口でテミルに噛み付いてくる。

 防ごうとした盾の端に器用に首を曲げて噛み付かれ、振り回して地面に叩きつけても外れなかったので、結局ぶら下がっているトカゲをウォーターランスで貫いた。


「手足に噛み付かれるととても面倒臭そうな魔物ですね…」


「一応こんなんでもドラゴンらしいよ。落とす肉が美味しいみたい」


 掲示板に貼られていた依頼書にはレッドドラコが落とす小竜の肉の納品依頼があり、1個銅貨20枚数量無制限と書かれていた。

 今落とした肉サイズだと串焼きにすると5本分くらいだろうか?銅貨20枚で肉を買って串焼きにしてもほとんど儲けは出ないだろうから、普通の肉より買取額は高めかも。

 僕がいた街だとイノシシの肉の串焼きが1本銅貨5枚だったけど、あの街はあまり肉が手に入らない場所だったので肉の大きさはかなり小さかった。

 この街の冒険者ギルド近くで売られていた串焼きは、あれよりも二回りは大きい肉が刺さっていて値段は銅貨5枚のままだったから、この街では肉がたくさん手に入るのかも知れない。


 レッドドラコが複数で来るとテミルも手を焼いている。盾に噛み付いてくるのが邪魔なのだろう、1度対応が間に合わずに足を噛まれた時はひやりとした。

 幸い多少火傷が出来たようだけどリジェネイションですぐに回復出来たようだ。

 あまり生命力が高くないようで、ウォーターエリアを早めに使っておけば噛み付かれてもすぐに倒せるから大怪我にはならなそうだ。


 次の層で出会ったのは火のついた羽根で飛んでいるコウモリだった。

 明らかに僕が苦手そうな相手で、早々にエリア魔法を使って倒す事にした。

 やって来る事といったら飛びながら火の玉を飛ばしてくるだけで、空を飛んだまま近付いて来ないのでテミルも何も出来ずに火の玉だけ防いでいる。

 たまにウォーターエリアの範囲に入った時にダメージを受けているのだろう、しばらくすると勝手に死んでいった。もう少しエリアを広くする必要がありそうだ。

 生命力がレッドドラコよりも低そうだからレベル上げには良さそうなんだけど、落とすのは石炭だったのでやはりお金にはなりそうにない。

 このスカーレットリリアックの数が増えるとなんだか目がチカチカする。羽ばたくと一瞬火が消えたり、火力が弱まったりして点滅している様に見えるんだ。

 状態異常攻撃ではないらしいけど、とても目が疲れる魔物だった。


 さらに進んだ層にはファイヤーリザードという火を吹くトカゲがいた。

 レッドドラコとは違い4本の脚でどっしりと構えていて、火の玉を吐いたと思ったら放物線を描いて地面に着弾し、火が消えずに燃え続けている。

 近付けば今度は身体を燃やしテミルを近付けないようし、長い尻尾で攻撃して来る。

 足元を燃やされるのでテミルも戦い難そうだし、動きは鈍いのでウォーターランスで倒してしまおう。


「街の人が裸の上に鎧を着ている理由が分かってきました⋯」


「ごめんねテミル、火属性の耐性を上げれば楽になると思うんだけど⋯」


「いえ、まだ耐えられない程ではないので大丈夫ですよ。」


 火耐性のカードが買えればいいんだけど、掲示板では出品は何枚かあったものの金貨20枚近くしてとても買える様な金額じゃない。

 買取は金貨5枚程度なので売り手と買い手で激しいせめぎ合いが起きている様だ。

 ファイヤーリザードが落としたこの皮を2万枚も集めないといけない。一応ドロップ率は良いみたいだし、レアドロップで硬皮も落とすみたいだけど。

 こいつを倒してお金を貯めるのは無理だろう。複数同時に相手するとテミルの足元が大変な事になるんだ。さすがにあれは可哀想だと思う。

 もしかしてアンデッドは戦いやすい魔物だったんだろうか?ここは魔物は強さというよりも炎が面倒で戦い難い魔物ばかりに感じる。


 次の魔物が一応の目的地だ、この5層から7層の魔物が落とすアイテムと魔物の数のバランスが1番良いからね。

 とりあえず1日毎に場所を変えて、1番稼げる場所でしばらくお金を貯めることになっている。

 現れたのはドロドロに熔けた人型の魔物で、僕の倍以上の背丈がある。

 攻撃はその赤熱せきねつした身体で殴って来るだけなので今までの魔物よりは楽そうだけど、近くにいると暑いというより熱そうだ。

 テミルの盾を殴ってもドロドロの身体が飛び散ったり、足跡にドロドロが残ったりはしないようで、そういう意味では戦いやすいかもしれない。

 ウォーターエリアを使うと身体が冷えるのかどんどん黒く変色し、ドロドロと動いていた身体の表面が固まって動かなくなった。

 盾を殴る拳の音も変化し、ティローペが杖で殴ると金属の様な音が鳴る。

 かなり硬くなったようだけど水魔法に耐性が出来るわけでは無いようで、そのまま消えていった。


「力は強いですけどまだデュラハンの方が強いですね。これならなんとかなりそうです」


「硬くなっても攻撃は通りますし、何より熱くなくなるのが良いですね!」


 評判も良かったのでこのままラーヴァゴーレムを倒す事にして、ドロップするアダマンタイトを集めてお金を稼ごう。

 リビングアーマーが落とした上鱗と同じ銀貨1.5枚の買取額だけど、魔物が強くなっているからドロップ率には少し期待出来るはずだ。

 ただ、真っ赤なラーヴァゴーレムにテミルが囲まれていると、まるで炭火で焼かれているような見た目になる。1日狩っていたら心なしかテミルも少し日焼けしたような?

 成果としてはアダマンタイトが60個ほど集まり、ギルドの買取では金貨に届かなかったものの。納品依頼があったため金貨1枚を超える事が出来た。

 まだまだ依頼はいくつもあったし、しばらく安定して金貨1枚を越える事が出来そうだ。


 2日目、さらに内側へ進むと細長くて黒っぽいヘビのような生き物がうねうねと地面を移動していた。

 2mほどの長さで、僕の腕よりも細い体を持ち、頭には丸い口だけで目が無いように見える。

 攻撃をしてくる時はまずプクリと膨らみ黒い煙を吐き出してくる。盾で振り払うと散るもののしばらくの間視界が塞がれてしまう。その隙にこのウォームワームは身体に巻き付いて攻撃してくるようだ。

 ウォーターエリアで割りとすぐに倒せたけど、後で確認するとテミルの肌が火傷で真っ赤になっており、顔があった辺りには噛み跡が残っていた。


「あの煙のせいで何も見えなくなるんですよ、移動しようとしたら巻き付かれてしまって」


「状態異常じゃなくてただの煙なのかな?盾で扇いだら散ってはいたし」


「煙たかったり臭いもしなかったのでただの煙でも無いような?」


「こういう時はオイラの出番だ!あれは闇を煙のように見せている魔法による物だから、オイラの闇を見通す目を貸せば丸見えだよ!」


 貸すと言っても魔法で付与するだけで目を交換するわけでは無いみたいで。見えるようになってからは複数いても巻き付かれる事も無かったし、有用な魔法のようだ。


「ようやくログナスが役に立ったね」


「何言ってんだ!テミルが日焼けしてるのに、同じ前衛のティローペの肌が白いままなのはオイラのおかげだぞ!」


「それは戦闘で役立ってるわけじゃないだろ。第一日焼けしてなんの問題があるんだ?」


 ミズナの余計な一言でログナスが怒りエジの言葉で撃沈する。ログナスの能力は本当にエジと相性が悪いようだ。


「まぁ暗い所でも見えるのは本当にすごいから。ログナスは優秀だと思うよ」


「そうだろ?クルトは分かってくれると思ってたぜ」


 その日は1日ウォームワームを倒していたものの、結局アイテムを1つも落とすことは無かった。ラーヴァゴーレムよりも早く倒せて数も多いので、レベル上げには良さそうだけどアイテムのドロップ率はかなり低いらしい。

 もう一日狩るか先に次の層を見に行くか話し合った結果。どうせだからと出るまで狩る事になった。

 落とす物と買取額は分かっているので元は取れるんじゃないかという考えだ。デュラハンのように一週間かかると微妙だけど数日ならそれほどひどい差にはならないだろう。



____________________

テミル023話終了時ステータス

J1.精霊術師Lv99

J2.盾士Lv99

J2.聖騎士Lv99

J3.魔導騎士Lv94→99

J3.守護者Lv99

J4.竜騎士Lv98→99

残りポイント4


エジノラ023話終了時ステータス

J1.精霊術師Lv99

J2.ドルイドLv99

J3.大神官Lv99

J3.転移術士Lv99

J3.潜伏者Lv99

J4.大僧正Lv97→99

残りポイント6

____________________

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る