第13話
イリアナは少年に連れられて茂みをかき分けながら森の奥へと歩き出した。イリアナは戸惑いながらも、その後に続いた。
しばらく進むと、追手たちの声が聞こえなくなっていった。安全な場所まで来たのだろうか。イリアナは不安から徐々に安堵の気持ちにかわった。
「ご、ごめん。ちょっといい。足が。。。」
ようやく無理して歩いていた足の痛みを感じてきたイリアナは
「大丈夫ですか?」
少年が振り返り、微笑を浮かべた。
「助けてくれて、ありがとう。でも……あなたは何者なの?」
少年は旅人なのか、リュックを背負い、動きやすい服装をしていた。かつて辺境に住んでいたころの木こりや行商の姿に似ている。
「あ、名前がまだだったね。僕はルビア。お姉さんは?」
「私は、イリアナ、イリアナ=ロムスロイ」
「イリアナさん、さっきの連中は盗賊かなにか?」
「え、ええ」
イリアナはとっさに口を濁した。正直彼らが何者なのか、誰の手の者かわからない。突然誘拐されて、こんなところまで連れてこられ、さらにここまで逃げてきたが、何のために誘拐した真意が分からない。イリアナの気持ちとしては揺らいでいる。
「とりあえず、近くの集落まで歩いていくしかないね。街道もいくつか崩れてるし、盗賊の人たちもいるし」
「そうね、ねえ、ルビア。あなたは集落の場所までわかって?」
「場所はね。だけど歩くにはイリアナさんの靴だと難しいね。ちょっと足いいですか?」
「え?」
「足痛めてるでしょ? まずそれを治さないと」
ルビアは軟膏薬を取り出し、イリアナの足の擦り傷を治療し始めた。
すると、イリアナの目から涙がこぼれだした。
「あっ! 痛かったですか!」
「ち、違うの・・・ありがとう」
ルビアはそれより語らなかった。
・・・
その頃宮殿では、イリアナの誘拐と王子毒殺未遂事件の捜査が続いていた。とはいえ、貴族らすべてをとどまらせることはできず、調書対象を必要最小限にとどめ、あおとは帰宅させるしかなかった。
そして警務官たちは広間に集まり、報告を交わしていた。
「イリアナ嬢の控室から見つかった手紙には、王子毒殺の指示が書かれていた。彼女が誘拐された現場には抵抗の痕跡が少なかった。まるで自ら進んでついて行ったかのようだ。」
「彼女が王子暗殺を企てた上で逃亡した。あまりに状況が整いすぎている。」
「毒の入手経路や手紙の筆跡はまだ不明だ。手紙が本物なら、彼女が何らかの形で反王国派とつながりがあったことになる。」
「問題は、その手紙の真偽をどう確かめるかだ。」
そこへ、グレイヴが入室し、皆の視線が彼に集まる。
「国王陛下はどうされるおつもりなのですか?」
「陛下は慎重に対処すると仰せだ。事が事だしな。もし、イリアナ嬢が本当に反王国派に関与していたならば、貴族たちへの影響も大きい。それゆえにこの件は慎重さと速さが求められる」
「となると、まずは彼女の行方を突き止め、事情を聞く必要がありますね。」
「そうだ。捜索隊を増やし、周辺の森を徹底的に調べることになった。イリアナ嬢が生きている限り、必ず何か手がかりがあるはずだ。」
グレイヴの脳裏は王国に不穏な動きがあるのは理解しているが、それに対して明らかに後手に回っている危機感を感じていた。
・・・
一方、その頃。
王の命令により調査に必要としないと解放された貴族らは各々の屋敷へと戻っていった。
「しかし、とんでもない日になりましたな」
「めでたい日がこんなことが起こるとは・・・」
その中から幾人かの貴族にオルスタン公爵は声をかけていた。
「皆様も災難でしたな。まさかこのようなことになるとは」
不安からか公爵に対して問いかける者たちが少なくなかった。
「閣下、これからどうなるのでしょうか?」
「王子の身も気になる。此度のイリアナ嬢が連れ去られたことも大事です」
それに対して公爵はその都度落ち着かせるようなそぶりをし、やさしく声をかけていった。
「落ち着きなされよ。もし、よろしければ我が屋敷でもおいでなりませんか?今後の展望などを話すのも良い機会かもしれない」
国の実力者であるオルスタン公爵の声かけにより彼の屋敷に向かった貴族は少なくはなかった。
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